アサルト//エスケープ・フロム・ザ・タワー
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──アサルト//エスケープ・フロム・ザ・タワー
電磁ライフルから銃弾が放たれる電気の弾ける音がし、東雲たちが潜んでいたオフィスの壁をぶち抜いて口径25ミリの大口径ライフル弾が飛び込んできた。
「おいおい! 向こうからは見えてるってのかよ!?」
「クソ。生体電気センサーだ。遮蔽物ではどうにもならないぞ」
東雲が呻くのに八重野がそう言った。
「じゃあ、迎え撃つのはなしだ。このまま待ち伏せていても先に蜂の巣より酷いことにされる。こっちから攻撃するぞ」
「いいね。あたし好みだ」
「そりゃ結構なことで。だが、数では不利だ。裏技を使うしかねーな」
東雲がそう言って緊急用造血剤を飲み下す。
「“月光”」
東雲がそう言うと青緑色の粒子が輝き、成人体の“月光”の少女が姿を見せた。
「主様。また呼んでくれたのじゃな!」
「ああ。その年齢の“月光”は色っぽいからな」
「ふふっ。主様も惚れてしまったか?」
東雲が言うのに“月光”の少女がくすくすと笑う。
「デートでもしたいところだが、お邪魔虫がいてな。蹴散らすのを手伝ってくれるか」
「もちろんじゃ。任せるといい」
“月光”の少女はそう言って八本の“月光”の刃のうちひとつを握る。
「これで5対10。やるぞ。誰も死ぬなよ」
「ああ」
東雲たちはそう言ってオフィスから飛び出した。
『ネプチューン・ゼロ・ワンより各員。
『了解』
限定AIによってそれぞれのオペレーターが獲得した情報が分析され、フロアに広がった東雲たちの位置と予想行動及びオペレーターの取るべき行動が提示される。
「おらあっ!」
「射撃、射撃」
東雲が“月光”を高速回転させてネプチューン海兵作戦群のコントラクターに突っ込むのに電磁ライフルとそのアンダーバレルに装着されたリボルバー式のグレネードランチャーが火を噴く。
電磁ライフルから放たれる25ミリ弾は徹甲榴弾。グレネード弾はフレシェット弾。
「クソ。バカスカ阿呆みたいに撃ちやがって! “月光”!」
「準備万端じゃ!」
いつの間にかネプチューン海兵作戦群のコントラクターの背後に回り込んでいた“月光”の少女が東雲とともに正面と背後から挟み撃ちにする。
「しまった! クソ──」
「その首、貰った!」
“月光”の少女がコントラクターの首を刎ね飛ばした。
「リンクに反応がなかった奴だぞ。どうなってる」
「新型の迷彩システムか?」
“月光”の少女を視認したネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちが、“月光”の少女に向けて電磁ライフルの銃弾を叩き込む。
「効かぬよ!」
だが、銃弾は“月光”の少女の姿を揺らしただけですり抜けていった。
「
「生体電気センサーにも反応なし!」
「クソ。新型の迷彩システムだ。油断するな」
ネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちが執拗に“月光”の少女を攻撃するが、銃弾は“月光”の少女を捉えられない。
それもそうだ。“月光”の少女は“月光”の化身なのだ。霊的な存在であり、害意ある物理的な接触には応じない。
「ぶった切っていこうぜ、“月光”!」
「了解じゃ!」
東雲と“月光”の少女がネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちを相手にして暴れまわる。
「ネプチューン・ゼロ・ファイブよりネプチューン・ゼロ・ワン! 敵は新型の迷彩システムを使用している! 無人攻撃ヘリに
『ネプチューン・ゼロ・ワンよりネプチューン・ゼロ・ファイブ。許可する。リンクで無人攻撃ヘリに目標を指示せよ。無人攻撃ヘリのコールサインはリーチ・ゼロ・ワンからリーチ・ゼロ・フォー』
「了解!」
特殊作戦仕様の電磁ライフルにオプションとして装備されているレーザー照準器で東雲たちを照準し、そしてリンクで無人攻撃ヘリに攻撃目標を指示する。
「ネプチューン・ゼロ・ファイブよりリーチ・ゼロ・ワン。目標を指示した。
『リーチ・ゼロ・ワンよりネプチューン・ゼロ・ファイブ。使用可能兵装はドラゴンスレイヤー対戦車ミサイル、
「ネプチューン・ゼロ・ファイスよりリーチ・ゼロ・ワン。ドラゴンスレイヤー対戦車ミサイルを目標への直接打撃モードで使用することを要請する」
『了解。デンジャークロースになる。警戒せよ』
そして、アトランティス・エアロスペース・システムズ製のディガー・ワスプ無人攻撃ヘリはドラゴンスレイヤー対戦車ミサイルを精密打撃モードで発射した。
窓ガラスをぶち抜いて対戦車ミサイルがフロアに飛び込み、東雲たちのいた位置で自動的に炸裂する。フロアに爆風が吹き荒れ、オフィスの端末や椅子、デスクが台風が吹き荒れた後のように周囲に散らばり、炎上する。
「やったか……」
「待て。生体電気センサーに反応がある。まだ生きてるぞ」
対戦車ミサイルの爆発によって天井と床が破壊されたアトランティス・ユナイテッド・タワーの110階では、辺り一面に煙に覆われていた。
「サーマルセンサー使用せよ。敵はまだ生きているかもしれない。手負いの獣は危険だ。確実に仕留めろ。幸い、新型の迷彩システムを使用しているのはひとりだけだ。他はリンクで把握できてる」
「了解」
破壊の嵐が吹き荒れた110階のフロア内をネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちが電磁ライフルを油断なく構え、サーマルセンサーから生体電気センサー、動体検知センサーと
「目標検出。位置情報をアップロード」
「共有した。近接戦闘は避けろ。壁越しに蜂の巣にしてやれ。射撃開始」
ネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちは東雲を壁越しに各種センサーで把握して、電磁ライフルで射撃する。
超高初速の電磁ライフルはオフィスの壁を易々と貫き、東雲の眼前を大口径ライフル弾が掠めていった。
「あぶっ! 畜生。位置がバレてやがる。どういう技術だよ」
東雲は“月光”を高速回転させて叩き込まれる銃弾を弾きながらオフィスから飛び出して廊下に滑り込んだ。
「ネプチューン・ゼロ・ファイブよりリーチ・ゼロ・ワン。再び近接航空支援を要請する。目標の位置情報をリンクにアップロードしている」
『リーチ・ゼロ・ワンよりネプチューン・ゼロ・ファイブ。近接航空支援の要請を了解。デンジャークロース。警戒せよ』
再び対戦車ミサイルが東雲のいる場所に叩き込まれ、東雲が瞬時に避けようとする。
大爆発。
東雲の腕が肩ごと吹き飛ばされ、東雲は血を失う。
「クソ。やりたい放題かよ、畜生め」
東雲は身体能力強化で無理やり身体の傷を回復させると、また壁越しに射撃を行うネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちに突撃を始めた。
「目標接近。近接戦闘は避けろ。退きながら撃て」
ネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちは後ろに下がりながら機械染みた精密射撃で東雲に銃弾とグレネード弾を叩き込む。
「“月光”! やるぞ!」
「分かったのじゃ、主様!」
東雲が正面から突撃し、“月光”の少女は後方に回り込む。
「気を付けろ。敵は
「スタンバイ」
「開始」
そして、ネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちの姿が瞬時に消えた。
「消えた!?」
「主様! 耳を澄ませるのじゃ! 音は消せない!」
東雲が狼狽えるのに“月光”の少女が叫ぶ。
「やってやろう」
東雲は身体能力強化で聴覚を強化して第六世代の熱光学迷彩で姿を消したネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちを探る。
「そこだ!」
「撃て!」
東雲が“月光”を投射するのと同時にコントラクターたちが東雲に向けて発砲。
電磁ライフル特有の発砲音が響き、銃弾が高速回転する“月光”に命中し、激しい金属音を立てて弾かれる。
だが、東雲が投射した“月光”はコントラクターのひとりを仕留めた。
「マンダウン! マンダウン!」
「ネプチューン・ゼロ・ファイブよりリーチ・ゼロ・ワン! 近接航空支援を要請! 機関砲を叩き込んでくれ!」
血を吹いて倒れた仲間を引きずり、電磁ライフルとグレネードランチャーで弾幕を展開しながらネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちが遮蔽物に隠れる。
だが、レーザー照準はしっかりと東雲に合わせてあった。
『リーチ・ゼロ・ワンよりネプチューン・ゼロ・ファイブ。機関砲掃射を実施する』
そして、無人攻撃ヘリの40ミリチェーンガンがアトランティス・ユナイテッド・タワーの110階に向けて機関砲を叩き込んだ。
40ミリ機関砲弾の砲弾は徹甲榴弾にしてリンク及びセンサー連携式空中炸裂型弾頭。リンクで示された目標の近くで炸裂するスマート弾頭。
東雲のすぐそばで砲弾が炸裂していく。
「ちっくしょう! やりやがったな! もう我慢ならねえ!」
東雲は機関砲弾が降りかかる中を疾走すると窓へと向かい、そして飛行中の無人攻撃ヘリに向けて“月光”を投射した。
“月光”が無人攻撃ヘリの制御系を破壊し、無人攻撃ヘリは緊急時の自動飛行モードに入り、AIによる操縦で空母に帰投していった。
「一気に叩く! “月光”、やるぞ!」
「任せるのじゃ!」
オフィスから銃弾とグレネード弾を浴びせてくるネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちに東雲と“月光”の少女が突撃する。
「来たぞ! 阻止しろ!」
「近接戦闘は避けるんだ! 敵はサイバーサムライだ!」
ネプチューン海兵作戦群のコントラクターたちは東雲と“月光”の少女に向けて必死になって銃撃を行うも東雲と“月光”の少女はそのまま突撃してくる。
「とりゃあ!」
「覚悟じゃ!」
東雲と“月光”の少女がコントラクターたちを挟み撃ちにし、叩き切った。
『ネプチューン・ゼロ・ワンよりネプチューン・ゼロ・ファイブ。ネプチューン・ゼロ・ワンよりネプチューン・ゼロ・ファイブ。応答せよ。現状を報告せよ。繰り返す、現状を報告せよ』
ネプチューン海兵作戦群の通信が流れる。
「よっしゃ。これで5対5だ。八重野、呉、セイレム。そっちはどうだ?」
『何とかひとり仕留めた。私は死なないからな』
「用心はしろよ、八重野」
東雲はそう言って周囲を見渡す。
「まだまだ無人攻撃ヘリはうようよしてるし、ハンター・インターナショナルの連中は残っている。どうやったら逃げられるものかね」
『東雲。データのダウンロード完了。いつでも逃げていいよ。ビル内の監視ネットワークによると生き残りのネプチューン海兵作戦群のコントラクターは3名』
「上等だ」
東雲はそう言ってにやりと笑った。
『おっと。呉とセイレムが3名倒した。これでお終い。さっさとそこから逃げることをお勧めするよ』
「あいよ。逃げましょう。八重野、呉、セイレム。片付いた。データサーバーを破壊してから逃げるぞ」
そして、東雲は“月光”を見る。
「ありがとな、“月光”。助かったぜ」
「お安い御用じゃ。そろそろ我は消えた方がいいのではないかの?」
「すまん。血がヤバイ」
「またな、主様」
東雲は“月光”を格納すると造血剤を口に放り込んだ。
「よし。データサーバーをぶっ壊す」
東雲はデータサーバーのあるサーバー室に乗り込むとデータサーバーに“月光”の刃を突き立て、データサーバーから火花が散って破壊された。
「ミッションコンプリート!
「東雲。無人攻撃ヘリがまだうろついている。早く逃げよう」
「ああ。そうしよう」
東雲たちは無人攻撃ヘリがセンサーでビル内を探りながら飛行する中で非常階段を駆け下り、そしてアトランティス・ユナイテッド・タワーの外に出た。
『リーチ・ゼロ・ツーより
『
無人攻撃ヘリが上空を飛行する中で東雲たちは止めておいた車に乗り込み、そのままセクター13/6に向けて逃走した。
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