アサルト//ブリーチ

……………………


 ──アサルト//ブリーチ



 まずそれを観測したのはTMCのエアトラフィックを管理している大井統合安全保障の都市防空システムだった。


本部HQより全部隊。不審なエアトラフィックを確認。IDによると輸送用ドローンと認識されている。こちらに向かって接近中。警戒せよ』


『テキサス・ゼロ・ワンより本部HQ。不審な航空機を視認。輸送用ドローンじゃない。軍用ドローンだ。突っ込んでくる!』


『迎撃急げ』


『間に合わない!』


 大井統合安全保障の下請けが交通整理のために運用していた大井重工航空宇宙事業部製の中高度長時間滞空型ドローンはアトランティス・ユナイテッド・タワーの93階に突っ込み、爆発炎上した。


『ホーネット・ゼロ・ワンより本部HQ! ドローンのカミカゼ攻撃によって被害甚大! 至急医療支援を要請する!』


本部HQよりホーネット・ゼロ・ワン。医療支援チームがそちらに向かっている。全部隊、第二撃に警戒せよ』


 ALESSの無線通信が飛び交う。


『東雲。エントランスの警備はそのまま。けど、ドローンの突撃で混乱していると思う。ロスヴィータがALESSのC4Iシステムを短時間だけハックして無力化するから、その間に中に突入して。任せたよ』


「あいよ。任されました」


 東雲は車をアトランティス・ユナイテッド・タワーから少し離れた位置に止め、徒歩で目的地へと向かった。


「あーあ。ALESSのコントラクターがわんさか」


「どうする?」


「俺が突破口を開くから続いて突入してくれ」


「分かった」


 東雲がアトランティス・ユナイテッド・タワーのエントランスに向かっていく。


「止まれ! その場でIDを提示しろ!」


「これがIDだよ、クソッタレ!」


 東雲が重機関銃陣地のALESSのコントラクターに向けて“月光”を投射した。


「クソ、敵だ! 撃て、撃て!」


「集中射撃だ!」


 あらゆる銃火器が東雲たちを狙う。


 50口径の重機関銃のライフル弾、口径40ミリのサーモバリックグレネード弾、口径84ミリの無反動砲、そしてあらゆる小火器の射撃。


「突っ込め、突っ込め! 行くぞ!」


 東雲は銃弾、グレネード弾、砲弾を弾きながら敵の防衛線に突入する。


 ALESSのコントラクターが八つ裂きにされ、防衛線に穴が開き、火力の適切な投射が困難になってしまう。


「行け、八重野、呉、セイレム!」


「ああ!」


 八重野たちは超電磁抜刀でALESSのコントラクターを強化外骨格エグゾごと引き裂き、陣地を次々に制圧していく。


 ALESSのコントラクターは強化外骨格エグゾを纏っていても機械化率は低い。それに対して八重野たちは高度な人体の機械化率に加えて脳に強化脳のインプラントを加えている。


 どちらが勝つかは明白であった。


 たとえ、刀と銃火器の戦闘だろうと純粋な速度と反射神経で大きなアドバンテージがあるサイバーサムライたる八重野たちが勝つ。


「手こずらせやがって。制圧!」


『東雲。そちらに銃声を聞きつけたALESSのコントラクターたちが向かっている。大部隊だよ。アーマードスーツも含まれている。急いで目標ターゲットを破壊することをお勧めするね』


「あーあ。次から次に」


 東雲がため息を吐く。


「八重野、呉、セイレム。確認しておくぞ。俺たちが殺すのは必要のある人間だけだ。無差別にはやらない。俺たちは無差別殺人鬼じゃないからな」


「選んで殺そうってか。退屈だね」


「それでもだ、セイレム。選んで殺す。ジェーン・ドウも言っていたがただのアトランティスの社員を殺したって意味がない。いいな?」


 セイレムが愚痴るのに東雲が押し通す。


「分かった。目標ターゲットだけを仕留めよう」


「あんたが冷静で助かるよ、八重野」


 東雲はそういうと非常階段に駆け込み、身体能力強化を駆使して階段を駆け上り始めた。アトランティス・バイオテックのTMC支部が入っているのは90階から105階だ。


『東雲。支部長の居場所とデータサーバーの位置が判明したよ。支部長は105階の重役のためのオフィス。そこにALESSのコントラクターたちに守られている』


「データサーバーは?」


『110階。ここもALESSの重装警備チームに守られている』


「少なくとも居場所は分かった。前進だ」


 ベリアからの通信に東雲がそう言って非常階段を上り続ける。


「いたぞ! 非常階段だ!」


「撃て、撃て!」


 東雲たちが駆けのぼっている非常階段にALESSのコントラクターたちが乗り込んできて東雲たちに銃弾を浴びせる。


「クソッタレ。もううんざりだ」


 東雲が“月光”を投射してALESSのコントラクターたちを切り裂く。


『こちらテキサス・ゼロ・ワンより本部HQ! 聞こえないのか!? いったい状況はどうなっているんだ!?』


『C4Iシステムがハックされている! 通信機器は使えないぞ!』


 ALESSのコントラクターたちがロスヴィータによってC4Iシステムが機能不全に陥っていることに気づく。恐らく彼らのサイバーセキュリティチームがシステムを奪還するまではそこまで時間はかからないだろう。


「蹴散らして、どんどん進むぞ。ぶち殺して、ぶった切って、ぶち壊して、仕事ビズを果たしてとんずらだ」


 東雲はそう言ってひとつのフロアを通過するごとに現れる5、6名のALESSのコントラクターたちを斬り倒しながら突撃していく。


「来たぞ! 敵だ!」


「グレネード!」


 次の階層では手榴弾が東雲たちに投げつけられた。


「あっぶね!」


 東雲は空中で手榴弾を切断するとALESSのコントラクターたちを引き裂いて突破していく。階段を上り、上り、上り、上る。


「今何階だ?」


「92階層。ALESSの抵抗も少なくなってきたが、大丈夫か?」


「大丈夫に見えるか?」


 東雲はそう言って造血剤を口に放り込んだ。


「まあ、愚痴っててもしょうがない。進もうぜ」


「ああ」


 東雲たちはALESSのコントラクターたちを蹴散らして非常階段を上り続ける。


「105階。ベリア、支部長の位置に間違いはないか?」


『監視カメラで確認しているけど105階のオフィスにいるよ。ALESSのコントラクターと一緒に。アーマードスーツで武装している。これは面倒くさそうだね』


「マジでな。どうにかするさ」


 東雲はベリアにそう言うと非常階段を可能な限り早く駆け上る。普通ならば息が上がる105階までの階段も身体能力強化に物を言わせて強引に登り切った。


「着いた」


 息が上がりそうになる中、東雲は105階と書かれた非常階段の標識を見る。


「一気に支部長を仕留めて、仕事ビズをひとつ終わらせるぞ」


『対テロ警報アージェント・オレンジの発令によって一般の社員は帰宅してるし、出社してない。付随的損害は少ないと思うよ』


「いいニュースだな。さあ、飛び込むぞ!」


 東雲が105階の非常階段の扉を蹴り破る。


「来たぞ! 撃て!」


「くたばれ!」


 扉を蹴り破った瞬間に東雲を狙っていたのは電磁狙撃銃。口径20ミリの大口径弾を接続されたバッテリーで極超音速で叩き込むという武器だ。


「やべ」


 東雲が“月光”を展開する前に叩き込まれた大口径弾が東雲の腹部を吹き飛ばし、肉片と血しぶきを舞い散らせる。


「よし。ひとりくたばったぞ」


「残りの連中を──」


 ALESSのコントラクターたちが勝利を確信した瞬間、投射された“月光”の刃だ彼らの首を刎ね飛ばした。


「ふっざけんなよ、てめえ! 意味の分からない武器を叩き込んで、人をミンチにするんじゃねえ! 人をミンチにするがそんなに楽しいか、クソッタレ!」」


 東雲は身体能力強化で強引に内臓をぶちまけた傷を治すとALESSの作ったバリケードに怒り心頭で突入していった。


「敵はゾンビか!? 間違いなく腹をふっ飛ばしたはずだぞ!?」


「撃て、撃て! ゾンビなんて実在しない!」


 ALESSのコントラクターたちが必死に東雲に銃弾を浴びせる。


「ぶち殺して、ぶちのめして、ぶち壊して、ぶっ潰してやる!」


 東雲は“月光”を巧みに操りながらALESSのコントラクターたちを切り刻み、突撃を続けていく。ALESSのコントラクターたちは遮蔽物に隠れて銃撃するも東雲と“月光”を相手にしては虚しいものであった。


「東雲! 突出し過ぎだ!」


「撃ち漏らしはそっちで片付けてくれ!」


「クソ、分かった!」


 東雲は突撃を続け、八重野たちが東雲の撃ち漏らしを仕留めていく。


『東雲。アーマードスーツが近づいてる。気を付けて』


「いよいよか。嫌になってくる」


 東雲がALESSのコントラクターたちを蹴散らしながらそう言う。


「おっと。来たな。アーマードスーツのクソッタレどもがよ」


 そして、アーマードスーツが隊列を組んで進んできた。


『キャヴァリエ・ゼロ・ワンより全機。目標を確実に排除せよ。付随的損害については全て容認される。叩きのめせ』


『了解』


 アトランティス・ランドディフェンスが開発したアメリカ海兵隊仕様の“グリズリーHAS”が東雲たちに全ての兵装の狙いを定める。


 口径40ミリの電磁機関砲が唸りを上げ、オートマチックグレネードランチャーがサーモバリックグレネード弾を東雲に向けて叩き込んだ。


「クソッタレ。押し通る!」


 東雲はそう言ってアーマードスーツから放たれる砲弾とグレネード弾を叩き落とし、迎撃し続ける。


「私が前に出る」


「気を付けろよ、八重野。相手はこっちを殺すのに電子ドラッグジャンキー並みに自棄になってるからな」


「分かっているさ」


 八重野が瞬時に前に出てアーマードスーツを複合装甲と搭乗者ごと引き裂き、制御系を破壊されたアーマードスーツが沈黙する。


「まだまだ!」


 八重野は2体、3体とアーマードスーツを撃破していく。


『キャヴァリエ・ゼロ・ワンより全機。C4Iシステムを奪還した。これより統合共通戦術ネットワークを利用した統制射撃を実施する。全機、スタンバイ』


『リンク完了』


 そのALESSの無線と同時に八重野に向けて機関砲、空中炸裂型グレネード弾、口径70ミリフレシェット弾が一斉に発射された。


 爆発が盛大に発生し、辺り一面が煙に覆われる。


『サーマルセンサーが目標を確認。無力化できたかは不明』


『確認せよ』


 そして、サーマルセンサに映っていた影が動く。


「くたばりやがれ、クソ野郎ども!」


 東雲は八重野を庇って代わりに傷を負い、それでもなお傷を強制的に癒してALESSのアーマードスーツに向けて突進した。


『キャヴァリエ・ゼロ・ワンより全機! 撤退、撤退!』


 ALESSの無線通信が入る。


本部HQよりテキサス・ゼロ・ワン。要人VIPを脱出させよ。屋上にヘリが待機中。繰り返す本部HQよりテキサス・ゼロ・ワン。要人を脱出させよ。屋上にヘリが待機中』


『冗談言わないでくれ! すぐそこに敵が迫っているんだぞ!』


『命令だ。実行せよ』


『クソッタレ!』


 ベリアがハックしている監視カメラの映像にはALESSの警護チームに守られてオフィスを出ようよしている支部長の姿が見えていた。


『東雲。敵は目標ターゲットを脱出させようとしてる。ALESSの警護チームが支部長をオフィスから連れ出した』


「オーケー。どうにかしましょう」


 東雲が心底うんざりした様子でそう言う。


「あたしはここで敵の援軍を防ぐ」


「任せた、セイレム」


 セイレムが非常階段とエレベーターに通じるフロアの廊下を見張るようにして立つのに、東雲はそう言って支部長が逃げようとしているオフィスに向かった。


「来やがった! アーマードスーツを前に出せ! 火力と装甲で圧殺しろ!」


 そして、警護チームのアーマードスーツが東雲たちに向かって来る。


「来やがれ、クソ野郎」


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る