トロント//特殊執行部隊
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──トロント//特殊執行部隊
メティス保安部がギリギリで実行したマトリクスからの切断によって孤立したメティスの社内ネットワークを見渡す。
「ここだけ無人警備システムがやたらと集中しているのに端末がない。当りかな?」
ベリアが念のために使い魔を放ってみるとそのメティス本社の一角を示した。
そこでベリアがメティスのネットワークからログアウトする。
「東雲! スタンドアローンの端末の場所が分かった! 案内するよ!」
「おう! もう無人警備システムは動いてない。
「3分以内で情報を抜き取って離脱できたらね。向こうは殺す気満々だよ」
「畜生。マジかよ」
「急ごう」
ベリアが東雲と八重野に守られてメティス本社内を移動していく。
呉とセイレムは特殊執行部隊に警戒しながら後方をカバーしている。
「ティルトローター機のローター音だ。おいでなすった」
「どうする?」
「俺たちが足止めする。そっちはスタンドアローンの端末にハッカーを連れていけ」
「すまん。任せた」
東雲と八重野がベリアを護衛してスタンドアローンの端末に向かうのに呉とセイレムが超高周波振動刀の柄を握った。
「セイレム。ついに死神が来たかもしれないな」
「これぐらいでくたばるものかよ。あたしの死はあたしが演出する」
「上等」
そして、一斉に窓ガラスが割れてスタングレネードが炸裂した。
それと同時にアーマードスーツのような複合装甲で覆われ、巨大な電磁ライフルを握った
「目標を確認。サイバーサムライ2名。侵入者のうち3名は逃走中」
「理事会は皆殺しをご所望だ。ミンチにしてやれ。ネズミ狩りだ」
生体機械化兵の中でも特に大柄で四本のアームを備えた男がそう言って笑う。四本のアームには四丁の電磁ライフルが握られている。
トート・ウェポン・インダストリー製の20ミリ高性能ライフル弾を使用する電磁ライフルで、ナノマシン連動式光学照準器などのオプションが装着されている。
「
「俺のファンか。死体にサインしてやるよ」
「思ったよりお喋りするんだな」
「殺してからは喋れないからな」
ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーはそう言って銃口を呉とセイレムに向ける。
「楽しませてくれよ。久しぶりに殺し甲斐のある連中が来たんだ。もうメティスのクソ掃除にうんざりしていたところだ」
「あんたの伸びきった鼻を叩き折ってやるよ。伝説もこれで終わりだ」
「やってみろよ、サイバーサムライ。何人もの馬鹿が同じことを言っていたぜ」
そして、一斉にジャクソン・“ヘル”・ウォーカーと特殊執行部隊のコントラクターが電磁ライフルを呉とセイレムに叩き込んだ。
電磁ライフル特有のライフル弾が高初速で射出される音と電気の弾ける音がする。
「こっちも伊達に機械化してないんだよ」
「あたしたちも機械化率80%超えで、強化脳のインプラントをしているんだからな」
呉とセイレムは放たれた電磁ライフルの銃弾を回避すると特殊執行部隊のコントラクターに肉薄する。
セイレムは肉薄した特殊執行部隊のコントラクターに超電磁抜刀で首を狙い、首を刎ね飛ばした。
呉はジャクソン・“ヘル”・ウォーカーに肉薄し、超電磁抜刀するもジャクソン・“ヘル”・ウォーカーは人間とは思えない速度で加速し容易にその攻撃を躱し四丁の電磁ライフルから銃弾を叩き込んできた。
「クソッ!」
呉が電磁ライフルから叩き込まれた銃弾を紙一重で躱すのにジャクソン・“ヘル”・ウォーカーは容赦なく四丁の電磁ライフルが超音速で放たれる大口径ライフル弾を叩き込んでくる。
「ほう。なかなかやるな。ミンチのしがいがある。サイバーサムライのようなイカれた連中をミンチにするのは楽しいものだ」
「言ってろ。ぶちのめしてやる」
呉が脳に叩き込んだ強化脳のインプラントを冷却が間に合わず放熱するまで加速させ、肉体を極限まで稼働させ音の早さを超える速度でジャクソン・“ヘル”・ウォーカーに向けて突撃する。
「なかなかすばしっこいな。楽しい狩りになりそうだ。簡単には潰れてくれるなよ?」
そしてジャクソン・“ヘル”・ウォーカーも一瞬で加速した。
どこまでも加速しながら正確に呉に向けて電磁ライフルで銃撃し、呉は銃弾を躱し、“鮫斬り”で弾きながら抵抗する。
「クソ。どれだけ機械化してやがる」
「メティスの技術は素晴らしいぞ。強化脳のインプラントは
「兵器として、だろう。そのヘカトンケイル・コンバット・システムはまともな人間が使ったら発狂して死ぬんじゃないか……」
「言っただろう。メティスの技術は素晴らしいと。このボディも何の違和感もなく扱える。最初から自分の身体であったかのようにな。これほど楽しめるボディもない」
ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーは四本のアームで電磁ライフルを自在に操りながら確実に呉に銃弾を叩く込んでくる。
高初速の大口径ライフル弾が放たれる音と電磁ライフル特有の電気の弾ける音が絶え間なく響く。
「クソッタレめ。イカれてやがる。どれだけ強化脳のインプラントを叩き込みやがった。もうあんたは兵士じゃない。兵器だ」
「人間をミンチにできれば兵士だろうと、兵器だろうと構いはしない。俺は
「クソ野郎。あんたの伝説は腐ってる」
「伝説などどうでもいい。俺は殺し続けるだけだ。誰かに殺されるまでな」
「じゃあ、死ね」
電磁ライフルから極音速で放たれる大口径ライフル弾を呉が“鮫斬り”で叩き切る。
「面白い。サイバーサムライは腐るほど殺してきたが、お前ほど粘った奴はいないよ。盛大に散るといい。派手なミンチにしてやる。原型を留めないほどにな」
ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーはにやりと笑うと電磁ライフルを呉に向けて叩き込み続ける。生身の人間が扱えば腕がもげる程の凄まじい反動があるはずの電磁ライフルは全く銃口がぶれず、機械染みた精密さで射撃してくる。
「セイレム! 残りの連中はどうだ!?」
「3人殺した。残り3人だ。そいつを含めてな」
「流石だ。その調子で残りの連中も頼む」
「ああ。任せておけ」
セイレムは特殊執行部隊の精鋭たちと互角かそれ以上に戦っていた。
「軟な連中だ。もっと機械化しておけばよかったものを。怖気づいたんだよ。自分がなくなるということにな」
ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーはセイレムに斬り殺される特殊執行部隊のコントラクターたちを嘲った。
「機械化も過ぎれば自分を失うという話か。人間はどこまで機械化しても自分が自分たと言えるのか。テセウスの船的なパラドックス。人間の感覚器を優れたサイバネ技術で置き換えれば、感じるのは機械の感覚」
「くだらん。機械化せずとも人間は常に細胞を代謝している。昨日の自分と明日の自分に完全な同一性はない。そして、機械の感覚の何が恐ろしい? コンタクトレンズを入れるようなものだ」
呉が告げるのに、ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーは苛立った様子で電磁ライフルから銃弾を叩き込む。
「ふん。あんたは脳みそのほとんどが機械みたいだな」
「それで殺し続けられるなら喜んで機械にする。強化脳のインプラントだろうと、脳神経循環型ナノマシンだろうと、脳機能置換手術だろうと、喜んで受ける」
「じゃあ、残りの人生を生命維持装置に繋がれて生きていくようにしてやる」
「お前には無理だ。俺には勝てない」
呉が超電磁抜刀するのをジャクソン・“ヘル”・ウォーカーは余裕の動きで躱した。
「見たことか。機械化率が違う。俺は戦闘に適合した。戦闘のために身体を作って来た。俺は殺しのために全てを注いできた。お前のような中途半端な機械化はしていない」
「化け物め」
「いい響きだ。化け物。俺に怯えながら死ね」
ついにジャクソン・“ヘル”・ウォーカーの放った銃弾が呉の左腕を吹き飛ばした。極音速かつ大口径のライフル弾が命中し呉の左腕が肘から消滅した。
「クソ。しまった」
「次は脳みそをぶちまけな、サイバーサムライ」
ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーが呉の頭に電磁ライフルの銃口を向ける。
場が
「この扉の先!」
ベリアが頑丈な電子キーの備え付けられた扉を東雲に指し示す。
「あいよ!」
東雲が“月光”に血を注いで金庫のような分厚い扉を解体した。
「行け、ベリア!」
「オーキードーキー!」
扉の先にスタンドアローンの端末があった。サイバーデッキとフレームが置かれている。他に接続している回線はない。スタンドアローンだ。
「さて、と。情報を丸ごといただきますか!」
ベリアはワイヤレスサイバーデッキを通じてスタンドアローンの端末に接続し、スタンドアローンの端末にあるデータにアクセスする。
「これは……白鯨のバックアップか。まさか理事会が保管していたなんて。非活性化されているけれど、完全な白鯨のデータだ。それから他には」
ベリアがデータをダウンロードしながら確認を続ける。
「マトリクスの魔導書? いや、断片データか。でも、マトリクスに出回っている断片よりもデータ量が多い。だけど、これだけじゃ意味をなさない辺り、マトリクスの魔導書はメティス由来のものではないね」
「おい、ベリア。どれくらいかかる?」
「もうちょっと。メティス理事会のデータベースだからね」
「早くしてくれ。呉とセイレムが特殊執行部隊とやり合っている。援護に行きたい」
「じゃあ、八重野君だけ残して行ってきて。私だけじゃ不安だから」
「ああ。任せたぞ、八重野」
東雲が八重野にそういう。
「任せてくれ。連中が来たら斬り殺す」
「じゃあ、行ってくる!」
東雲が呉とセイレムが特殊執行部隊と交戦している場所へと戻っていく。
「クソッタレ。派手にやってるな」
電磁ライフルの銃声と大口径ライフル弾がメティスのオフィスを滅茶苦茶にしていく音が響いてくる。
東雲は音が響く場所に向かって突っ込んでいく。
「呉!」
四本のアームを備えた大男が呉に電磁ライフルの銃口を向けている。
「畜生め」
東雲が“月光”を投射して放たれた電磁ライフルの銃弾を弾いた。
「おや。お仲間が戻って来たみたいだな。探す手間が省けた」
「気を付けろ、東雲! ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーだ!」
ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーが東雲の方向を向く。
「こいつが噂のイカレ野郎か。随分とぶっ飛んだ格好しているな」
「お前、面白い武器を使っているな。どういうサイバネ技術だ? メティス製じゃないだろう。アトランティスか? それとも大井か?」
「ちげーよ。あんたと違って俺は生身だ。機械化は一切していない」
「冗談だろう? 今日日機械化していないサイバーサムライだと?」
「ああ。そうだよ、ブリキ缶野郎。バラバラにしてやる」
東雲が“月光”をフル展開し、造血剤を口に放り込んだ。
「面白い。生身とはな。日本の非合法傭兵にはそういう連中がいるという噂は聞いたことがあった。実際に目にしたことはなかったから、噂だけだと思っていたが」
ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーが電磁ライフルの銃口を東雲に向ける。
「躱してみろよ」
そして、電磁ライフルが火を噴いた。
「ばーか。そんなもの当たらねえよ」
東雲は身体能力強化であっさりとそれを躱した。
「ははっ。生身でそれとはな。驚きだ。殺し甲斐がある。新鮮なミンチにしてやろう。
「やれるもんならやってみな。あんたを組み立て前まで解体してやる」
挑発するジャクソン・“ヘル”・ウォーカーを相手に、東雲は“月光”を高速回転させた。
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