コンフリクト//地下施設
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──コンフリクト//地下施設
「畜生。もう血を消耗しちまった」
東雲はそう言って造血剤を五錠口に放り込む。
東雲とセイレムは装甲車とアーマードスーツを撃破し、TMCセクター13/8──旧東京湾浄化施設跡の地下施設に踏み込んでいた。
「大井の、先は長いぞ?」
「分かっているよ。クソハッカー野郎を探し出してぶち殺してやらねえよな」
旧東京湾浄化施設跡の地下施設は荒れ果てていた。
上部構造物はほぼ撤去されていたものの、地下施設の復興や撤去は諦められたらしく、様々な機械が散らばり、場所によっては床が抜けてる。
「滅茶苦茶な廃墟だな。本当にネットに繋がるのかよ」
「旧東京湾浄化施設跡のマトリクスは生きている。施設は全て停止しているが、マトリクスには名残がある。ここにも電波が通っている」
「ふうむ。どうみても廃墟だけれどな。ここを探すのか」
「汚染が酷いから早めに片付けた方がいい。突然変異した微生物の毒素やらなにやらがここを放棄したときにそのまま残されている。中には神経毒になるものもある」
セイレムがそう言って廃墟となってる旧東京湾浄化施設跡地下施設を進む。
「警備システムは死んでいるんだよな?」
「だが、見ただろう。敵は装甲車やアーマードスーツを持ち込んでいる。戦闘用アンドロイドぐらいならこの廃墟でも運用できる」
「それから警備ドローンもな。最悪だぜ」
東雲も愚痴りながら廃墟の中を進んでいく。
「しかし、広いな。予想以上だ。それでいて見取り図にあったようにはなっていない。
「いいニュースじゃないな。ここには精霊もいない。汚染が酷すぎるせいか。これじゃあ、内部を探るのは地道にやるしかないな」
「そんな余裕もないだろう。ハッカーは大井ファイナンシャルに
白鯨のような自律AIを引き連れてとセイレムが指摘する。
「そうだな。いろいろと不味い。さっさとこっちはこっちで動かないとな」
東雲も頷き、廃墟を足早に進む。
「こいつらは、電子ドラッグジャンキーか」
「汚染されていても風雨を凌げる。連中の潜り込みそうな場所だ」
「もっとマシな場所があるだろうに」
東雲は廃墟の中でぐったりとしている電子ドラッグジャンキーやその死体を見てそう呟いた。
「地下施設でも上の方は水質監視室だ。東京湾の水質サンプルの分析を行っていた。ここは比較的汚染の程度も低い。問題は地下だ」
「ナノマシンが放置されているんだろう? 問題にならないのか?」
「ナノマシンはもう機能していない。ナノマシンだって何の手も加えず永遠に動き続けるものじゃないんだよ。稼働させ続けるには必要なものがある」
「なるほどね。で、そいつが止まっているのに汚染は溜まっていると」
「そうなる。地下に進めば進むほど汚染は酷いぞ」
「泣けてくる」
セイレムと東雲はそう言葉を交わすと地下に進む非常階段を降りて行った。
「待った。戦闘用アンドロイドだ。数は30体前後」
「アーマードスーツは?」
「今は見えない」
旧東京湾浄化施設跡の開けた浄化槽のあるフロアに戦闘用アンドロイドが展開していた。それぞれ自動小銃や機関銃、ショックガンで武装している。
「じゃあ、叩き切って進むか」
「了解。派手にやってやろう」
そう言ってセイレムと呉がフロアに飛び込む。
戦闘用アンドロイドがそれを見て一斉射撃を東雲たちに浴びせる。
「くたばりやがれ!」
「叩き斬る!」
東雲が戦闘用アンドロイドの銃弾の嵐に“月光”を高速回転させながら突っ込み、戦闘用アンドロイドを叩き切る。
セイレムも機械化した身体で戦闘用アンドロイドの攻撃を躱し、攻撃を行う戦闘用アンドロイドに超電磁抜刀を叩き込んだ。
「どんどん増えるぞ! ぶち壊していけ!」
「あいよ!」
東雲たちは斬撃を叩き込み続け、戦闘用アンドロイドをスクラップに変えていく。
戦闘用アンドロイドが奥から次々に現れる。
「どうも純粋な戦闘用アンドロイドじゃないな。民生用のアンドロイドを武装させてやがるみたいだ。流石のメティスもあまり多くの装備はTMCに持ち込めなかったか?」
「それでもやべえ相手だよ! クソみたいに! 銃弾をやたらめったらばら撒きやがって! この野郎!」
東雲がもう自棄になり、銃弾を浴びても身体能力強化で無理やり回復させながら敵の武装したアンドロイドを撃破していく。
「全くだな。クソッタレのハッカーめ。このフロアにアンドロイドを展開しているということはこのフロアのどこかにいるのかもしれない」
「さっさと見つけ出してぶち殺そう」
セイレムと八重野は次々に現れるアンドロイドを撃破しながら、ひたすらにフロアを探索していく。
「おっと。アーマードスーツだ。不味い」
「下がれ! 迎撃する!」
東雲がセイレムを下がらせ、“月光”を高速回転させてアーマードスーツから放たれる12.7ミリの大口径ライフル弾を迎撃する。
「助かった。ここからはあたしも前に出る」
「頼むぜ」
東雲の影からセイレムが飛び出し、一瞬でアーマードスーツまでの距離を詰めると超電磁抜刀で発砲してきたアーマードスーツを叩き切り、次いでその先にいるアーマードスーツの制御系を破壊した。
「順調だな。ぶっ壊していこうぜ」
東雲も押し寄せるアーマードスーツを相手に、東雲も“月光”を振るう。
アーマードスーツは次々に現れ、東雲とセイレムに銃弾やグレネード弾を放ってくる。大口径ライフル弾とサーモバリック弾が炸裂する。
「こんにゃろ!」
東雲は血液を注いだ“月光”をアーマードスーツに叩き込み、アーマードスーツを内蔵バッテリーごと切り捨てる。
「少しは減ったか!?」
「まだまだだ。アンドロイドが来た。どうやらここで当りのようだ」
「畜生。そいつはいいニュースって言えるか?」
「汚染物質に接触する可能性が減ったと考えればいいニュースだ」
セイレムはそう言って次のアーマードスーツを仕留める。
「馬鹿みたいに数が多いな。血液の損耗が半端じゃないぞ。さっさと片付けないと」
「そこ、気を付けろ。汚染物質だ。浄化のためのナノマシンが機能していないから、汚染物質が溜まり込んでいる。浴びたら皮膚からでも摂取されて、害を成すぞ」
「マジかよ。勘弁してくれ」
東雲はバイオハザードマークの表示されたタンクから離れる。
「クソ。そこら中に汚染物質が貯蔵されている。銃弾がばら撒かれたら厄介だ。タンクからは離れて戦闘を行うぞ。アンドロイドどもは汚染物質に影響されないが、あたしたちはそうじゃない」
「最悪だぜ。連中は容赦なく撃ってくるってのにさ!」
東雲がそう言って投射した“月光”の刃で纏めて3体のアーマードスーツを仕留める。
「このフロアは概ね汚染物質で埋め尽くされているみたいだな。安全な場所はなさそうだ。なるべくタンクから距離を取るしかない」
「あいよ。それよりも連中を速攻で片付けた方がいいと思うけどな」
「それもひとつの手だな。急ぐぞ」
東雲とセイレムは息を合わせてアーマードスーツとアンドロイドたちを切り刻み、突撃していく。
「そろそろ終わりか?」
「待て。物音がする。何かいるぞ」
「何も見えないけどな。だが、確かに物音が──」
そう言ったとき東雲に胸に大きな穴が開いた。
「ちっ! 熱光学迷彩だ! 大丈夫か、大井の!」
「クソッタレ! 死にかけた!」
東雲は心臓を半分潰されたもののまだ生きていた。
「どこからだ? どこから狙ってやがる?」
「数は3体。今、音響分析による位置探知を行っている。こいつだ。そっちにも情報を送る。しっかり耳を澄ませろ」
「了解。見えないってのは滅茶苦茶面倒くさいんだよな!」
東雲はそう言いながら敵が近くに迫るのに“月光”を高速回転させる。
そして、“月光”の刃に12ゲージのショットガンの銃弾が叩き込まれた。
「見えないことをいいのに近距離でショットガンのスラッグ弾で攻撃しているな。クソッタレめ。恐らく、3体のうち1体がサイバネアサシンだ。この動きは無人機に任せておいてできるものではない」
「みたいだな。全く。どうする?」
「もう少し時間を稼げ。音響分析による位置特定の準備が完了する」
東雲が尋ねるのにセイレムが耳を立ててそう返した。
「このまま時間を稼げ。攻撃を凌ぎ続けるんだ。プログラムが周囲の音響サンプルと構造を把握して敵の位置を特定できるようになる」
「急いでくれよ。こっちはひやひやものだぜ」
そう言っている傍からさらに銃弾が放たれ、東雲の左腕が吹き飛ばされた。
「クソ野郎が! いい加減にしやがれよ!」
東雲は“月光”を一気に周囲に展開して縦軸で回転させる。
しかし、攻撃は命中せず、今度は身体能力強化で回復させていた左腕が静かに切り取られた。鮮血が舞う。
「単分子ワイヤーだ。やはりサイバネアサシンがいるぞ」
「解析はまだかよ」
「もう少しだ」
東雲もセイレムも焦っていたが、音響解析はすぐにできるものではない。
「くっ!」
そこで東雲は殺気を感じて身を引く。見えない殺意が東雲の首に僅かに傷を残す。
「まだか!」
「完了した! そっちと共有する!」
東雲のARにこれまで東雲たちを攻撃していた見えざる敵のシルエットが映る。
「見えたぞ、クソ野郎!」
東雲がシルエットに向けて“月光”を投射する。
シルエットの位置にあったカスタマイズされた戦闘用アンドロイドが貫かれ、熱光学迷彩が解除されて、その残骸を晒す。
「残り2体!」
「1体が撤退した。あれがサイバネアサシンだな。もう1体は突っ込んでくるが──」
セイレムが超電磁抜刀を東雲のARに映っていたシルエットに叩き込む。
「これでクリアだ」
「サイバネアサシンが逃げちまったぜ」
「あいつはハッカーじゃない。それに追いかけると音響分析をやり直さなきゃならん」
「まあ、それなら放っておこう」
東雲はそう言って追撃を放棄した。
「敵のハッカーとご対面と行こうぜ。この先だろ?」
「だろうな。置き土産に警戒しろよ」
「あいあい」
東雲はブービートラップに警戒しながら旧東京湾浄化施設跡地下施設の海水に晒され、錆びた配管の通る廊下を進んだ。
「何かを運んだ形跡がある。最近のものだ。この先で間違いなさそうだな」
「オーケー。ブービートラップの類はない」
「踏み込むぞ」
セイレムが廊下に面した扉を蹴り破り、東雲が突入する。
「誰もいない」
「クソ。サイバーデッキが置かれているだけだ」
「どういうことだ?」
「踏み台だよ。ハッカーは遠隔地からこいつを踏み台にTMCを攻撃した。本当のアクセス地点を割り出させないためにな。どうりでわざわざハッカーが
セイレムはそう言ってサイバーデッキのBCIケーブルに接続されている電子機器を引き抜いて、足で踏みつぶした。
「これでハッカーは一時的にTMCのマトリクス上から排除されたはずだ。確認してみろ」
「ベリア。ここにハッカーはいなかった。サイバーデッキは踏み台だとさ。そっちの状況はどうだ?」
東雲がベリアに連絡を取る。
『うん。マトリクス上からは撤退した。大井ファイナンシャルは無事。けど、また攻撃が来るかもしれないから暫くは警戒だね。けど、そっちの電子支援をする余裕はあるよ』
「オーケー。八重野と呉はどうしてる?」
『核爆弾は無事解体。大井統合安全保障とバトンタッチした。今は逃げたサイバーサムライを追いかけている』
「位置情報をくれ。八重野たちと合流する」
『オーキードーキー』
ベリアから八重野たちの位置情報が送られてくる。
「よし。セイレム、八重野と呉と合流しよう」
「ああ。あの逃げたニンジャも向こうと合流するだろうしな」
「ニンジャって気が抜けるからやめてくれねえか?」
東雲は眉を歪めてそう言うと旧東京湾浄化施設跡地下施設の階段を地上へと上っていった。
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