白鯨//セントラルエリア攻防戦

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 ──白鯨//セントラルエリア攻防戦



 東雲たちがいるのは丁度オービタルシティ・フリーダムの中心区画であるセントラルエリアだった。


 周囲は緑溢れる緑地化された場所で、お洒落なカフェなどが軒を連ねている。異臭などするはずもない。TMCセクター13/6ゴミ溜めとは違うのだ。


 だが、今はとても暮らし難い環境だ。


 何せ警備ボットと警備ドローンが暴走しているのだから。


「畜生、畜生! 第二波だ! このオービタルシティ・フリーダムの全ての警備ドローンと警備ボットがこっちに向かってるんじゃないか!」


「つべこべ言わず敵を斬れ、大井のサイバーサムライ」


「だから、俺は大井と決まったわけじゃないっての!」


 東雲は“月光”を投射し、群がる警備ボットと警備ドローンの相手をする。


「くたばれー!」


「食らうっす!」


 だが、いつも貧血になる東雲にはありがたいことに今回は友軍多数だ。


 ウィッチハンターズのセイレム、マスターキー、ダッシュK、ニトロの4名と呉。


 セイレムと呉は次々と警備ボットを叩き切って切り捨て、マスターキーは皮肉にも白鯨が準備した“サーバル1A2”で警備ボットと警備ドローンを相手にし、ダッシュKとニトロもそれぞれの武器で群がる警備システムを相手する。


「クソ。戦闘用アンドロイドだ!」


「ショックガン装備かいっ!」


 セイレムが悪態をつき、東雲の睨む先にはショックガンなどで武装した戦闘用アンドロイドがいた。


「お客様。お客様。お客様。お客様」


「止まりなさい。止まりなさい。止まりなさい。止まりなさい」


 今やマトリクスを支配する白鯨にとって、無事な無人機など存在しない。全ての無人機はハッキングされ、白鯨に乗っ取られる。


「クソッタレ。やってやるよ!」


 東雲は造血剤を五錠口に放り込むと、“月光”を手に戦闘用アンドロイドに突撃した。戦闘用アンドロイドたちが一斉にショックガンを放つ。


「甘い」


 東雲は宙を舞い、くるりとそれを回避してしまう。


 オービタルシティ・フリーダムが地球よりやや重力が軽いことと、東雲が身体能力強化を極限まで行使した結果だ。


「おら! スクラップにしてやるぜ!」


 戦闘用アンドロイドの群れのど真ん中に着地した東雲が“月光”を展開して、横に回転させる。戦闘用アンドロイドが次々に撃破され、ショックガンのカートリッジが暴発して大爆発が起きる。


「ははっ! これまで散々やってくれたお返し──」


 そこで大型警備ドローンが現れ、ガトリングガンを叩き込みながら東雲に向けて突撃してきた。そして、東雲に近接して搭載していたショックガンのカートリッジを自爆させる。東雲がその衝撃を前に吹き飛ばされる。


「ちっくしょう! 何でもありかよ! 卑怯だぞ!」


「東雲! 離れすぎだ! 援護できない!」


「こっちはこっちで攪乱してそっちの負担を減らす! 構うな!」


「すまん! 任せた!」


 東雲が戦闘用アンドロイドの群れの中から叫び、呉が頷く。


「さあ、来やがれ、クソ野郎ども。片っ端からスクラップにしてやるぜ」


 ドスドスと戦闘用アンドロイドが迫るのに、東雲はとにかく暴れまわることにした。


 “月光”を高速回転させて戦闘用アンドロイドを叩き切り、“月光”を投射してショックガンを搭載しあt大型警備ドローンを接近前に撃墜し、とにかく機械の残骸を積み上げていく。


「クソ、クソ、クソ。血の一滴でも流しやがれよ!」


 東雲は隙を見て造血剤を口に放り込み、戦闘を続行する。


 機械の残骸が積み上げられ、ときどき東雲がショックガンで弾き飛ばされ、内臓と骨を治癒しては戦闘を継続していく。


 そして、呉たちも東雲が打ち漏らした戦闘用アンドロイドと警備ボット、警備ドローンを相手にしていた。


 基本的に富裕層か企業の研究員しかいないオービタルシティ・フリーダムは対テロ用の警備ドローンと警備ボット、そして戦闘用アンドロイドが配備されているだけだ。


 いや、むしろ富裕層と企業の守りたい技術者がいるからこそ、警備が幻獣だともいえるのかもしれない。


 だが、それでも軽装攻撃ヘリや対戦車ミサイルを搭載したアーマードスーツなどは存在しない。そのような大規模火力はオービタルシティ・フリーダムの繊細な構造に影響を及ぼすのだ。


「来たぞ、セイレム」


「あいよ。叩き切って、叩き切って、ぶった切る」


 迫りくる戦闘用アンドロイドのショックガンによる攻撃を回避し、次が来る前に超電磁抜刀で抜いた超高周波振動刀で叩き切る。戦闘用アンドロイドだろうと容赦なく叩き切り、鉄くずに変える。


「調子がいいんな、セイレム!」


「相棒があんただからさ」


「そいつは嬉しいね」


 これまでは敵同士だったにもかかわらず、セイレムと呉の連携は息がぴったり合っていた。セイレムが避ける時は呉が攻撃し、呉が避けるときはセイレムが援護する。


「ふたりとも息ぴったりー」


「ダッシュK! 感心してないでどんどん警備ドローンを打ち落とすっす!」


 警備ドローンは次から次に押し寄せてくる。切りがないとはこのことだ。


「いっくよー!」


 ダッシュKがドローンに向けてガトリングガンを掃射する。警備ドローンの搭載しているガトリングガンよりも大口径長射程のダッシュKのガトリングガンは空から警備ドローンを駆逐していく。


「どんどんいくっすよー!」


 ニトロもオートマチックグレネードランチャーから対戦車榴弾HEATを警備ボットや戦闘用アンドロイドに叩き込む。


 対戦車榴弾は警備ボットや戦闘用アンドロイドの装甲を容易く貫き、破壊する。


 戦闘開始から既に20分。


「クソッタレが! 一体、どれだけ警備システムがあるんだよ!」


 東雲は“月光”によって分解されたスクラップの山の向こうから押し寄せる戦闘用アンドロイドを見て思わずそう愚痴った。


「ベリア! そっちはどうなってる!」


『今、白鯨と交戦中! 白鯨がオービタルシティ・フリーダムの警備システムをがっちり握っているからそっちの援護は無理! だけど──』


 ベリアが続ける。


『白鯨はセイレムたちを脱走させてまで、成田国際航空宇宙港を爆撃してまで、私たちがこのオービタルシティ・フリーダムに来るのを阻止しようとした。ということは、だよ。勝算がないわけじゃない!』


「そうだな。やってやろうぜ!」


 東雲は戦闘用アンドロイドと警備ボットの群れに突貫する。


 “月光”を高速回転させて銃弾を防ぎつつ、“月光”を投射して相手を破壊。あるいは自らの手で“月光”を振るって目標を破壊。


 スクラップの山が積み重なっていく。


「大井のサイバーサムライの旦那! 後ろ!」


「ちいっ! 回り込まれた!」


 警備ボットが3両。高速移動し、東雲の背後に回り込んできた。


「援護するっす」


「射線に立つなよ、大井の!」


 ニトロとマスターキーがそれぞれの武器で東雲の背後に回り込んだ警備ボットを撃破する。警備ボットは一瞬で制圧された。


「助かった!」


「お安い御用っす!」


 東雲の言葉にニトロがサムズアップして返した。


 東雲が最前線でとのかく暴れまわり、そこから漏れたものを呉とセイレムが確実に叩き切り、ダッシュKは対空掃射を行い、マスターキーとニトロが東雲や呉、セイレムたちの背後を守る。


 その布陣で戦い続けること40分。


「ようやく数が減ってきたな」


 東雲がそう呟く。


 警備ボットも、警備ドローンも、戦闘アンドロイドも、無限に存在するわけではない。数には限りがあり、その限界を迎えようとしていた。


「そろそろ最後か。油断せずに行くぞ」


「あいよ」


 東雲が言うのに、呉が頷き、ウィッチハンターズの面々も頷く。


 そして、最後の波が訪れた。


 警備ドローン、警備ボット、戦闘用アンドロイド。


 だが、その数は少ない。


「一気に蹴散らす」


 東雲はガトリングガンの射撃を“月光”で凌ぎつつ、警備ボットを引き裂き、戦闘用アンドロイドを撃破する。


 東雲が漏らした敵を呉とセイレム、そしてマスターキー、ダッシュK、ニトロが潰し、これで警備システムは完全に沈黙した。


 ──かのように思われた。


「ベリア。警備システムはほぼ物理的に破壊したぞ。今からメティスの研究室に向かう。何か気を付けることは?」


『……東雲。撃破した警備システムの中に半生体兵器はいた?』


「いや。いなかったが。おい、まさか」


 東雲が急速に嫌な予感がし始めた。


『このオービタルシティ・フリーダムの有機物質の8割を占めるメティスの研究室で半生体兵器が急速に数を増やしている。白鯨は次に半生体兵器をぶつけてくるつもりだよ! 備えて!』


「備えてって言われてもな! 半生体兵器の野郎も血は流さねえし! 造血剤をポケットに詰め込むぐらいしかできることはねえよ!」


 東雲は造血剤をポケットに詰め込み、メティスの研究室を目指して呉たちを背後に突き進む。


「ハッカーは何か言ってたのか!?」


「半生体兵器が増えまくってるらしい! メティスの研究室の方で! 増えまくる前に叩くしかねえだろ!」


「了解! やってやろう!」


 東雲が言うのに、呉がそう返す。


 セントラルエリアからメティスの研究区画に入る。


 緑がより一層生い茂っている。軌道上でだけ栽培が許された遺伝子改変種キメラも混じっている。二酸化炭素と酸素の交換をより効率的に行う、閉鎖された空間で有用とされる植物だ。


「来るぞ──」


 東雲が半生体兵器特有の足音を聞いてそう言った。


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