TMCクライシス//TMCサイバー・ワン

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 ──TMCクライシス//TMCサイバー・ワン



 東雲たちを乗せた軍用四輪駆動車がTMCサイバー・ワン前で止まる。


 TMCサイバー・ワンの外庭園には撃破された警備ボットや警備ドローン、アーマードスーツの残骸が転がっている。


「こっぴどくやられてるな」


「ああ。そして、見ろ、刀の傷だ」


「真っ二つだな」


 警備ボット、警備ドローン、アーマードスーツの8割は刀で切断された痕跡があった。それは敵にサイバーサムライがいることを暗に物語っていた。


「いよいよサイバーサムライとご対面か。相手は任せるぜ」


「任せておけ」


 東雲たちはリモートタレットに用心しながらTMCサイバー・ワンの外庭園を駆け抜けた。幸いにして、リモートタレットもTMCサイバー・ワンを占拠しただろうメティスの非合法傭兵によって制圧されていた。


「隔壁は封鎖、と」


「流石にきついな。任せていいか」


「ああ」


 東雲が月光に血と魔力を注ぎ、“月光”の刃で頑丈なTMCサイバー・ワンの隔壁を切断する。四本の刃で裂かれたことで、TMCサイバー・ワンの隔壁が切り開かれる。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか」


 既に血生臭い臭いはしている。


 間違いなく、中は死体の山があって、その死体の山を作った人間がいる。


 そして、それはほぼ間違いなくサイバーサムライである。


「死体のご歓迎か」


 TMCサイバー・ワンの隔壁を潜ると、大井統合安全保障のコントラクターの死体が転がっていた。ボディアーマーごと体を真っ二つに切り裂かれている。


「一般入館者の被害は?」


「この調子だと中に入った人間は皆殺しにされてそうだぜ」


 東雲がそう言って周囲を見渡す。


 だが、今日は一般入館者はいなかったのか、民間人の死体は見られてない。


「サイバーサムライというのは敵は殺すが、民間人は生かすって美学でもあるのかい」


「そういう美学を持ったサイバーサムライもいる」


「そいつは上等なことで」


「選んで殺すのは上等だよ」


 そういうものかねと東雲は思った。


「おっと。警備ドローンが生きている。大井統合安全保障は警備システムを全力で稼働させる前にやられた臭いな」


 東雲はそう言って、自分たちにガトリングガンを向けて来た“警備ドローン”に向けて“月光”を投射し、撃墜する。


「不味いぞ。前回の占拠事件の後で警備ボットが導入されたらしい」


「そいつらは襲撃者に破壊されていることを祈りたいね」


「そう上手くはいかないだろうな」


 再びトラップが仕掛けられている可能性を考えて東雲が後方から援護しつつ、呉が先頭を進んでいく。


 警備ドローンが飛来するのを東雲が撃ち落し、警備ボットを呉が切断する。


「システムは完全に乗っ取られているな。乗っ取られるような警備なら増強するなっての。迷惑だろうが」


「そりゃそうだが、大井統合安全保障もあの占拠事件の後に何もしませんでしたでは通らないと思ったんだろう」


「まあ、確かにな。改善の精神って奴か」


 東雲はそう言いつつもうんざりしていた。


「隔壁が下りている」


「はいはい。お仕事しましょう」


 東雲が“月光”に血と魔力を注いて隔壁を引き裂く。


 だが、その丁度向こう側で警備ボットが待ち伏せていた。


「不味い!」


 東雲が“月光”を高速回転させて口径12.7ミリのガトリングガンの射撃に耐える。


 ガトリングガンは電子冷却式で弾が尽きるまでは撃ち続けられる。


「こんにゃろ!」


 東雲は“月光”のうち一本を投射し、警備ボットを切断する。


「ふう。ヒヤッとしたぜ」


「用心しないとな。俺のマトリクス技術じゃ、システムに直接接続ハード・ワイヤードしてる人間からシステムを奪還するのは無理だ」


「で、相手は監視カメラでこっちの動きをばっちりか。泣けてくるね」


 東雲は気づいた位置にある監視カメラは破壊しているが、どうも隠しカメラがいくつも設置されているようである。


「TMC、いや世界最大のデーターセンターでもあるんだ。警備は万全だった、だろう。それをいとも容易く突破して占拠した。相手は相当な腕前だと見るべきだろうな」


「マトリクスに関する技術持ちでもある」


「ああ。少なくとも警備システムのアイスを抜けるぐらいにはな」


 呉はそう言って再び先を進む。


「サイバーサムライがマトリクスの技術を持っていることはあるのか?」


「あるにはある。だが、ほとんどの場合、そういうのに詳しいのはニンジャ──サイバネアサシンの方だ。サイバーサムライの武器はあくまで己の持つ刃。そう相場が決まっている」


「サイバーサムライの難儀なものだな」


 ベリアがいれば東雲は喜んで彼女に支援してもらうのだがと思った。


「己の刃しか頼れない仕事ビズも多い。己の刃を信じられることは重要だ。あんたにだってそれは分かるだろう……」


「まあな。今がいまさにそうだ」


 東雲はこれまで己の刃を、“月光”を信じて戦ってきた。


 ならば、これからも。


 世界が変わろうと、時代が変わろうと、“月光”は東雲の一番の相棒だ。


「警備ドローンと警備ボットがお替わりだ」


「やれやれ」


 東雲と呉が警備ドローンと警備ボットの相手をする。


 東雲の方は段々と血が足りなくなっていき、三錠造血剤を飲み下す。


 だが、呉がいるおかげで、前ほど血液を消耗することはなくなったし、造血剤を補給する暇も生まれていた。


「この調子で行こうぜ。もっと不味い何かが出てくるまでは行けるだろう」


「だな。順調だ」


 呉はそう答え、隔壁を東雲にk任せる。


 東雲が隔壁を“月光”で引き裂いたのと同時にショックガンの衝撃波が叩き込まれた。東雲が吹き飛び、内臓が潰れ、骨がボキボキに折れる。


「ちっくしょう!」


「戦闘用アンドロイドだ。畜生め」


 東雲は瞬時に傷を回復させ、武装した戦闘用アンドロイドたちに呉とともに斬りかかる。戦闘用アンドロイドはショックガンの他に短機関銃や自動小銃で武装していたが、呉はそれを巧みに回避し、斬りかかる。


 東雲も銃弾を弾きつつ、戦闘用アンドロイドに肉薄し、“月光”の刃を振るう。


「警告。警告。警告。あなたはTMCサイバー・ワンの利用規約に違反しています。あなたはTMCサイバー・ワンの利用規約に違反しています。あなたはTMCサイバー・ワンの利用規約に違反しています」


 戦闘用アンドロイドたちが次々に破壊されるが、戦闘用アンドロイドも反撃に転じ、腹部が開いて内蔵ショックガンが叩き込まれる。


「そう何度も食らってたまるかよ」


 流石の東雲も不意打ちでなければショックガンは避けられるようになった。


 戦闘用アンドロイドの腹部に向けて“月光”の刃を叩き込み、ショックガンの予備のカートリッジごと爆発四散させる。


「さあ、さあ、さあ! どんどんかかって来いよ!」


 大井統合安全保障──ではなく、TMCサイバー・ワンの管轄にある戦闘用アンドロイドが次々に押し寄せてくる。


 東雲と呉は大暴れし、ショックガンのカートリッジを暴発させて爆発四散させ、短機関銃の銃弾を避け、弾き、敵を切り裂いて撃破していく。


 30体ほどの戦闘用アンドロイドが押し寄せたが、全てスクラップにされた。


 しかし──。


「なあ、アンドロイドもタクティカルベストを付けるものなのか?」


「ものによっては」


「こいつはどうも違うと思うなっ!」


 爆薬を巻き付けたアンドロイドが自爆する。


 東雲の腕が吹き飛び、東雲の体が壁に叩きつけられた。


「やってくれるぜ。畜生め」


 東雲はすぐさま腕を回復させ、折れた骨や破裂した内臓を再生させる。


「あんた、どういう仕組みだ、それ……」


「魔術さ。俺のことは気にするな。いざとなれば俺を盾にしろ。俺は頭が吹き飛ばされでもしない限り、死にゃしない」


 ただ、血は減るけどなと東雲は愚痴る。


 そして、救急用造血剤を一錠飲み下す。


「さあて。敵が途絶えたってことはいよいよデータハブか?」


「ああ。もう少しの距離だ。データハブに押し入ったら、真っ先にサーバーを破壊してしまえ。TMC全体のマトリクスが一時的に機能不全に陥るが、敵に護衛対象を捕捉される可能性は低くなる」


「後で損害賠償とか請求されないよな……」


「俺たちが動いている時点でこの事件は真っ黒だ。表沙汰にはならない」


「それならいいけどさ」


 流石にサーバー代を請求されたらたまらんと東雲が言う。


「じゃあ、行くか。重ねて言うが、敵のサイバーサムライは任せたぞ」


「ああ。何度も言うが引き受けた」


 東雲たちはデータハブの中枢施設のある部屋に向けて進んでいった。


 東雲はやはりいまいちデータハブにういて理解できないところがあった。こうして襲撃されたりして、マトリクスが機能不全になるリスクを抱えながら、マトリクスを本当の維持できるのだろうかと。


「この先だ」


「最後の隔壁だな。ショックガンが飛んできませんように」


 東雲が“月光”を振り上げた瞬間、壁が向こう側から爆ぜた。


「畜生! そういうパターンかよ!」


「敵は対戦車ロケット弾か対戦車ミサイルで武装しているな」


 爆発の衝撃で煙が立ち込める中、東雲は傷を回復し、呉はその眼球に内蔵されたサーマルセンサーで煙の向こう側を見ていた。


「アーマードスーツが12体とサイバーサムライがひとりだ」


「はあ。どっちが面倒かね」


「どっちもどっちだろうな」


 東雲と呉はそう言葉を交わして、データハブの中枢施設に踏み込む。


……………………

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