第21話 レッツバーベキュー
『ほれほれ。ワシ、ここ数年見たことがないほどもっふもふじゃろ? な? ちっとぐらい触ってもエエぞ?』
とメメのお陰でぬいぐるみのような毛ざわりに戻り、もふもふ度が増したネイサンは、お風呂の時の自分の悲鳴を忘れたかのようなご機嫌さで私たちの周りを飛び回っていた。
昼食も取らずにお風呂から出てすぐゾアと爆睡していたので起きればもう夕方である。身支度をしていると、ノックをしてお手伝いのおばさんがそろそろバーベキューパーティーの準備が出来ますよー、と声を掛けてくれた。
「……やだ私、死ぬほどお腹空いてるわエヴリン」
「それは奇遇ね。私もお腹が鳴るんじゃないかと心配で心配で」
慌てて支度を済ませてベッドルームを出ると、隣から出て来たメメが私たちを起こしに来るところだった。
「まあ感心ですわね。お腹もパンツも丸出しで豪快に寝ていたもので、これは夜まで起きないかも、と心配しておりましたのよ」
「メメ、過度の疲れって人から品性を奪うのよ。本当に怖いわねえ」
「そーよー。普段はきちんと寝てるわよ」
「まあ旅先ですから多少のことは目をつぶりますわ。それよりも少しはバーベキューの準備のお手伝いをしませんと」
三人プラス一匹で教えてもらった中央広場へ向かうと、既にかなりの人数の男女が動き回っていて、準備はほぼ完了といった様子である。
私は眠り過ぎたわと少し焦りつつ、祖父母の派手なシャツを見つけて早足で向かう。
「お祖父様、お祖母様。ごめんなさい遅くなって」
「おお、エヴリン。ゾアもメメも風呂に入ってサッパリしたようだな」
祖父は炭を鉄鍋に入れては網を被せる、という作業をしていた。祖母は女性たちと野菜を切ったり皿に盛りつけたりと忙しそうだ。
「デュエルおじい様、私も手伝うわ! これ、焼き肉用なのでしょ? もう私お腹ペコペコなの」
「そうかそうか。それじゃ、皆にも手伝って貰おうかな。やはり肉は炭火で焼くのが一番上手いからな」
「デュエル様、後は私とゾア様でやりますわ。エヴリン様がお話があるそうなので、少しお休みされてお話でも」
気を利かせたメメがゾアと炭入れに離れた。
私と祖父が、日陰にあるテーブル席に腰を下ろした。
「そう言えばエヴリン、コロッと聞くのを忘れていたが突然どうしたんだね。いや来てくれたのは嬉しいが、何の連絡もなかったからね」
「実はお祖父様、私の婚約者が決まりそうなのですが……」
「ほう! そりゃめでたいな。いやはや、エヴリンもそういう年頃か……年は取るものだなあ」
「いえ、実はまだ仮なんですの。それでお祖父様に会いに来たのです。……と言うか、他の方に会うのが一番の目的なのですが」
私は祖父に事情を説明する。
「──なるほどなあ。相手が吸血鬼族か……だがエヴリン、ローゼンは確かに娘バカだが、決して意地悪でそのグレンと言う婚約者候補に無理難題を押し付けている訳ではないぞ」
「分かっておりますわ。政務に差し障りがあるのは私にだって理解出来ますもの。──ただ、私が小さな頃からずっと好きな方なので、出来れば父に認めて頂きたいのです。そのため彼にも何とか負担を軽減させてあげられる方法はないものかと思いまして……」
「ほう……それでエランドとテッサに会おうとしたのか」
「はい。こちらにいらっしゃるとグレンのお母様から伺いましたので」
「ああ、さっきもエランドが楽しそうにイノシシを解体しとったぞ。テッサはイルマと一緒に漬けダレを作っておったのを見たな」
「まあ! お付き合いがあるのでしたら、私に紹介いただけないでしょうか? 一応、グレンのお母様、ベリンダ様からの紹介状も頂いておりますけれど、やはりお祖父様から紹介して頂いた方が話もスムーズですし」
「それは構わんが、テッサはこちらに来てからずっと、昼間は眠っているぞ? まあいつもかどうかは分からんが。昼間起きる方法など知っているかどうか……」
「え……」
それでは困る。結局解決出来なかったのかしら。だとしたら、私には夢も希望もないじゃないの。
私の眉間にシワが寄ったのに気づいた祖父が笑った。
「エヴリン、とりあえずバーベキューだろう? 腹が減っているとろくな考えはせんものだ。まずは腹ごしらえして、それからにしようじゃないか」
「そう……そうですわね」
返事と同時にきゅる、と私のお腹が鳴ってしまい、余計笑われた。
「女だけで山を強行突破して来たのなら、そりゃあ腹も減るだろう。イルマの漬けダレは最高だぞ? ゴマの風味が聞いててピリッと辛くて食が進むんだ。沢山食べて落ち着いたらエランドとテッサに引き合わせよう」
「──よろしくお願いします」
頭を下げた私は、またきゅるる、とお腹が鳴って泣きそうになった。
私のお腹、ちょっと健康過ぎないかしらね。
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