伯爵令嬢は逆らえない

眠れる森の猫

伯爵令嬢は逆らえない

 王城の頂上には、死神の旗がひるがえっていた。エルネシア王国は隣国アクレビオン王国によって敗北したのだ。


 その現状をつきつけられた私、伯爵令嬢カトリーヌは、愕然がくぜんとした。


 こ、これは、どういうこと?


 私は前世の記憶を持っている。この世界は乙女ゲームの世界で私の立ち位置は悪役令嬢だった。私は明日、学園の卒業式で王子から正式に婚約破棄を申し渡されるはずだった。そして断罪された私は身分を剥奪されて平民として生きていかねばならないはずだった。なのにどうして?


 予想外の事態が起こってしまった。


 どうしていいのか分からない。


 しかも義弟のアズエルが戦死するだなんて……


 父は兄は?


 私は唇を強くかみしめた。これから先、一体どうなってしまうの。こんなの……私の知ってる乙女ゲームじゃないわ。


 現国王と王子たちも戦死、騎士団長の息子、大臣の息子、義弟ともども全員戦死、全てヒロイン様の攻略対象だった。


 国の重役たちの戦死、騎士団の壊滅、領主たちも次々と降伏していき、エルネシア王妃の降伏宣言によってこの国は幕を閉じた。


 だけど、敵国に屋敷を包囲され捕らわれの身となっている私にその事を知るすべはなかった。

 

 屋敷のものは皆、解放されてこの屋敷に残されているのは敵国の兵士と、私だけ……


 自室に待機するよう兵士に言われ、手荒な事はまだされていない。敵国の捕虜である私は、何をされても文句が言えない……、それにしても待遇がよすぎる。私に対して使用人までつけてくれて、豪勢な食事まで用意してくれる。どこか不自然だった。それでも覚悟しておかなければならない。この身がけがされるされるぐらいなら、私は……


 机の引き出しに隠してあった短刀を手に取った。場合によっては私自ら、人生の幕を引かなければならないのだから。静けさの中、わたくしはゴクリと唾を飲み込んだ。


 そして――


 数分後、ドアがノックされた。

 

 私の目の前に現れたのは思いがけない人物だった。


「やぁ、カトリーヌ、元気だったかい」


「兄さん?」


 どうして兄さんが、戦地に赴いていたはずなのに、しかも、敵国の鎧を着て、なぜ、笑っていられるの?


 私の目の前に立っていたのは兄さんだった。


「ど、どうして、ここに、兄さんが……」


 これ以上の事は、唇が震えて追及できない。もしかして、兄さんは国を……


「僕のかわいいカトリーヌ、君の味方は僕だけだよ。あとあと邪魔になりそうな君の父親も殺したし。ついでに君の義弟のアズエルも、そうだね。僕がみんな殺してあげた。僕の力があれば造作もないことだ。君はもう誰からもいじめられることはない。もう泣かなくてもいいんだよ」


「ど、どういうこと?」


 たしかに、私と兄さんは仲が良かった。辛い時、悲しい時も兄さんが私を慰めてくれた。そうだ、考えてみると、私の側には、いつも兄さんがいた。そう、すべてのイベントに……、笑顔を絶やさずいつも、私を見てくれていた。


「あはは、どうしたんだい?」


「…………」


 私は兄さんの顔を見てゾッとした。


 私の死亡ENDは、ルートによって決定される。だから、ヒロインの行動を常日頃から監視していた。唯一の生存ルートである婚約破棄ルート、それを目指すしか私には選択肢がなかった。だから、迫りくる死にいつも怯えていた。その中で兄さんは攻略には関係がない、名前もない、グラフィックも存在しない、MOBだと思っていた。だから兄さんに気を許していた。


 まさか、兄さんも、前世の記憶をもった……


 待って、カトリーヌに兄なんていたの?

 

「カトリーヌ、何を悩んでいるんだい、ああ、そうか、肝心なのを忘れていたね。君の憎い敵である、あの雌豚めすぶたのことを気にしているのかな。……カトリーヌ、こっちにおいで」


 自室から少し離れた部屋へと私は案内された。


 ドアを開けると――


「…だ、出されてるっ…あっ! あっ! ん、う、うぅううぅぅ……!! …中で出されてるっ、こんなのうそっ、わたしは、ひろいん、なのよぉ」


 股をだらしなく広げているヒロイン様がこの部屋にいた。ベッドはアカの血と体液でぬちょりと汚れていた。


「次は俺の番だ」


 彼女のアソコに入っていく。


「やらぁあ…あっはぁっぅぅ…んっく……ひっ……あぁっ、これあ、ゆめ……そうよぉ……」


 アレが奥まで突き上げられていく。


「出ちゃう……や、ぁ……でちゃう、もれちゃう……おなか、のなか……うぅぅんんん……っんんん……~~~ッ……」


 何人もの男達が彼女に覆いかぶさっていく。私の目の前でヒロイン様の華奢な身体が蹂躙されていく。赤黒いアレが次々と彼女の穴という穴に突っ込まれ、彼女は絶叫した。彼女が絶叫をあげるたびに、頬をぶたれ泣き叫んでいる。


「次は、俺にさせろ」


「おら、おら、もっとほしいんだろう」


 な、なんなのこれ……


「はっ、あ、あぐ、ぅ……んんぅっ……! だめ、う、くっ……これ、以上は、ぁ……からだ、ぁ……がぁ……あっ、ごわれぢゃう!」


 肉のぶつかる音、粘ついた空気、生臭い匂い、今のヒロイン様の現状に、 なにもかもが受け入れがたく、私は目を背けた。


「うぐっ……うえっ」


 耐えがたい惨状を目のあたりにして、私は吐き気をもよおした。


「君に汚いモノを見せてしまったね」


 そおっと後ろから抱きしめてくれる兄さん。


「…………」


 焦点の合わない目を見開いたまま、私は呆然と立っていた。


「さぁ、ここから出よう」


 兄さんは私の手をつないで自室まで誘導していく。


 そして――


 私は兄さんからエピローグ、愛の告白をされてしまう。


 今の私は【悪役令嬢】から外れた貴族の爵位も何の後ろ盾もない、だたの敗戦国の囚われの【元令嬢】カトリーヌだった。


「僕の名前はケルン、君の兄さんだったけど、今日からはアクレビオン帝国の皇帝さ、君のことはパッケージを見たときから愛している。だからね。転生するとき、神様にちょっとしたお願いをしたんだ。君と僕が絶対に結ばれるようにね。君のフラグも愛情度もばっちりのはずだけど、念には念を入れておこうか。さぁ、僕の目をみてごらん、今日から君は【アクレビオン帝国の王妃】になるんだ」


 ケルンの瞳を見た瞬間、


「あっ……」


 頭に何かのノイズが走って、兄さんの全てを、告白を、何もかも受け入れたくなってしまった。それはまるでチート、私の義務であるかのように……


「君がほしい」


「……はぃ、にぃさん、いえ、ケルン様」


 全てを捧げたい。


 どうしてか、わからない。


 私はベッドに押し倒され、何も抵抗しないまま――


「ああっ……」


「ぼくのカトリーヌ……」


 私はケルン様の全てを受け入れてしまった。私、囚われの元令嬢カトリーヌはケルン様によって攻略対象にされてしまったのだ。そう、このゲームの主役はヒロイン様じゃなかった。そう本当の主役は……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伯爵令嬢は逆らえない 眠れる森の猫 @nekoronda1256hiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ