第21話 悪役同盟万歳!!

 シャーロットとのお茶会は、はっちゃけトーク全開で、どんどん皆言いたい放題になっていた。

 本来ならば、王妃相手に無礼講などあり得ない事態なのだけれども、王妃という堅苦しい枷を外せたシャーロットは実に楽しそうで、レイラ達の纏っていた緊張という壁をさっさとぶっ壊した。


 その結果、「やっぱりその身なりで【那海なみさん】と呼ぶのは違和感あるね」という話になって、最終的にはシャーリー様と呼ぶ事に決まった。


「っていうか、酷くないですか? 何で皆は可愛い子に転生してるのに、私だけこんな王妃おばさん!?」

「それを言うなら、私だってカミーユおじさんでしたよ、シャーリー様。」

「でも、カミーユは前世でもパパだったんでしょ? 私はまだ20代前半の独身女性だったのに! 突然訳の分からない場所に来たと思ったら子持ちになってるし、子どもはマザコン、「ママー」って…泣きたいのはこっちだっつーの!!

 旦那は旦那で、待てど暮らせど帰って来ずで、何してたかと思えば女に散財してるとか……ありえないでしょ!? それは国民が収めてくれた血税、お前様の欲を満たすため使って良いもんじゃないわ!!」 


( あら? 王妃殿下の飲み物、紅茶じゃなくてビールだったかしら??)


 と、レイラが思うほど、

 今まで抱えたストレスを、これでもかと吐き出すシャーロット。

 

「確かに数年前、陛下シャルから「妻がおかしくなってしまった」と相談されました。病でもないのに部屋に臥せたと思ったら、半狂乱で仕事に口を挟み始めたと。」

「だって、ここに来て数週間は、本当に意味わからなかったんだもの!! 夢だと思った。夢だと。」 


 シャーロットが他の悪役転生者と違うのは、彼女はこのゲームをプレイしたことが無かったという事だった。


 だから、自身が世界での悪役である事はおろか、この世界の事をなに一つ知らず、何なら前世のとある日に、いつもの様に就寝し、目覚めた瞬間に、シャーロットだったというのだから、そんな状態ならば、誰だって恐慌したっておかしくはない。


 ただ、その堅実さと地の強さによって、この世界で生きていくしかないと悟った瞬間に、まずは男としてゴミクズな息子と夫を徹底的に鍛え直したそう。


 歴史の教員をしていたという彼女は、国の制度についても興味を持ち、無駄なものは排除、必要があれば新たな制度作りにも精を出し、不透明な金の流れは全て鮮明化させるなどに尽力を尽くしてきた。

 ここ最近のシャーロットの国への貢献度はかなりのものだと、カミーユに教えてもらった。


「数年前からは城での働き方も変わり、皆シャーリー様には感謝しています。本当に、まさか同士とは思いませんでしたが、気づけない要素ではありませんでしたね。」

「本当よ。気づいて助けてほしかったわ。カミーユとは何度も言葉を交わしてきたのに、いっつも素っ気なかったから。あなたは仕事は出来るけど嫌いだったわ。…だって酷いのよ? シャルと仲いいから、ホームパーティーに誘っても断るの。私が誘ったのにシャル越しに。」

「その折は大変失礼を。」

「まぁ、事情を知った今じゃ、それが仕方なかったって分かるからいいですけど。私なんかより、レイラちゃんを守るのが一番だもんね。それが正解よ。」


 話の種に、このゲームのシナリオと、その回避のためにそれぞれが行ってきた事を話すと、シャーロットは「皆苦労人なのね」と、労ってくれた。


「それで皆、悪役は辞退できそうなの?」

「どうでしょう……。依然として私は殿下の婚約者候補から抜け出ていないみたいですし……。」

「なんなら先日、正式にレイラを婚約者にと王室から書状が届いたよ。」

「え!? お父様……それ、初耳なんですけど?」

「レイラに渡す前に、アンヌが怒りでビリビリに破いてしまった。」

「…王室からの書状を、お母様に見せるのは止めましょう。お父様………。」

「あぁ、それね。旦那シャルがエドに、そろそろ相手決めないと色々問題が起こるって話をしたら、レイラちゃんが良いって。本人の希望だったのよね。」

「はぃ!? それはあり得ないです。だって殿下は私を毛嫌いしていましたし、婚約者になりたくない旨もお伝え済みです。っていうか、嫌です!!!」

「まぁ、愚息ではあるけれど、母親の前でそこまでハッキリ言っちゃう?」

「あ……申し訳ありませんシャーリー様。つい。」

「しかしレイラ。陛下シャルに話をしにいったのだが、今回ばかりは引かないと。……王命に背く事になるならば、それ相応の覚悟が必要だ。」

「今回ばかりは、エドの希望だからね。それに、王室的には、エマとかいう子の一件で、レイラちゃんの株は急上昇中なのよ。」

「そんな……」


 そういえば、アルレットにはこの休み中、エマから決闘の申し込みが届いたらしい。


 アルレットは、どれほどに手加減すればエマが怪我をしないかが目下の悩みだと言っていたが、あのエマが真っ向勝負をしてくるわけがない。

 どんな手を使うかは知らないが、アルレットに不利を仕向けて、断罪へと持っていこうとする予定なのではないだろうか。


 シルヴィも、最近はエマから3日に一回手紙が届くらしい。


 内容は、「私達親友よね!なぜなら……」と、これが便箋2・3枚を埋め尽くしているというのだから、それはもう呪いの手紙か何かじゃないだろうか?

 学園が始まれば、友人として追いかけ回されているのは変わらない。

 あのエマなら、シルヴィとエドモントが軽く挨拶しただけで、寝取ったと難癖つけてくる可能性は大だ。



 そして、もしも今のエマが何かの間違いでエドモントと結ばれたのならば、シャーロットは厳しく教育を行うだろう。


 ゲームでは、エドモントを溺愛していたシャーロット。

 エマとエドモントが結婚し、ハッピーエンドを迎えた先に、ラスボスの如く立ちはだかる王妃、シャーロットのシナリオは、壮絶な嫁いびりからの追放。


「……私たちは、悪役を逃れることは出来ないのかもしれませんわね」

「そんな!!」

「でも、エマ様は今でもエドモント様を諦めていないのですよ。エマ様主人公が望む以上、悪役引き立て役は存在しなければならないのかも……」

「……。」

「……。」

「……。」



 皆、黙ってしまう。


「――― なら、いっそのこと、彼女の為に悪役に成り下がりましょうか?」


 ボソッと呟いたレイラの言葉に、皆の視線が突き刺さった。


 けれど、言葉にしてみると、それも案外悪くないような気がする。


「何を……仰いますかレイラ様?」

「だってシナリオは、エマ様と殿下が結ばれない限り終わりませんわ。」

「でも、だからってあんな人の為に、死にたくないです!! 私、田舎に婚約者がいるんです。めっちゃタイプの面白系イケメンなんです。だから、クール系のエドモント殿下には興味も沸きませんし、寝取るなんて演技でも出来ない!! 無理!!」

「……安心なさい。もしも愚息エド強姦まがいそんな事をするようなら、私が責任を持ってあの子を沈めますから。」

「お義母様!!」


 感情的になったシルヴィをシャーロットが宥める。

 レイラが言えた事ではないけれど、シャーロット母親の前でシルヴィまでもがキッパリとエドモントを振って見せてしまった。


 その横で、カミーユが「何か考えがあるんだね。」とレイラを見つめる。


「別に、エマ様にしたくもない嫌がらせをしようという話ではありませんわ。ただ、ゲームとは違って、エドモント様は、「面白い女なら何でもいい」訳ではないようですから……エマ様の方向性を正さなければ永遠に結ばれようがありません。とすると、永遠に私たちはこのお遊びに付き合わなくてはいけないじゃないですか。」

「つまりレイラは、レフェーブル嬢の更正を手伝うと言うことかな?」

「はい。そうしたいと思います。ただ、エマ様は私を嫌っている上に礼儀作法も勉学も、控え目に言って最悪です。言葉を交わせばキツい物言いになるでしょうし、彼女は私を恨むでしょう。学園では悪い噂が絶えなくなるでしょうし、それは後にドートリシュ家にとっても癌となるかと。ですから、時が来たら私を勘当して下さって構いません。皆様も、私に賛同などしなくて結構ですわ。」

「あんな人の為に、どうしてレイラ様が犠牲にならなきゃならないんですか? この国から追放されるべきはあの人じゃないですかぁ!!」

「シルヴィ様、落ち着いて。別に私は犠牲になるつもりは無いのよ。ただ……許せないんですよね。あぁいう人。………少し失礼しますね。」


 おもむろに立ち上がり、明後日の方向に向けて、今までの鬱憤を晴らすようにレイラは叫ぶ。


「何が「愛には試練が必要なの。それをエドと乗り越えてこそ、私たちは永遠の愛で結ばれる」だよ、んな簡単になれるわけないだろ。こちとら物心つく頃から、節度だの何だのと面倒くさい貴族社会で生き抜いて来てんだっつーのに、ぽっと出の庶民あがりが人を勝手に悪役呼ばわりしやがって、このっ ×××××ーーーーっ!!!」


 唖然とする皆に向けて、コホンと一つ咳払いをして、レイラはいつものようにお淑やかな所作で紅茶を一口。


「……と、まぁこんな感じで、私これでもあの方に結構苛立っておりますの。彼女の振る舞いは、殿下、王妃、そしてこの国をも侮辱する振る舞い。今までは、断罪が怖くて抑えていましたけれど、これ以上は、レイラ・ドートリシュとして、私はレフェーブル嬢の振る舞いが許せませんわ。」

「……レイラ。」

「……レイラ様。」

「幸い、私は断罪されても島流し。命はあります。私、実は無人島生活とか憧れてたんですよね。一人アウトドアキャンプとかも結構やってて。この世界には無くとも、今から道具とか準備しておけば、多分楽しく生きていける気がするんです。ですから、私のことはお気になさらなくて結構ですわ。」


 皆が心配そうな目で見つめてくれる。

 何て優しい友人達を持ったのだろう。それだけで十分。


 …と、自分を納得させようと思ったのだけれど、なんだか皆が口々に口を開き出した。


「では、レイラ。私にもアウトドアスキルを教えてくれるかな?」

「お父様!?」

「君が厳しい教育にどれだけ真剣に向き合ってきたのかを私は知っている。そんな娘が何の悪いこともしていないのに断罪されるのならば、私はそれをただ見ているつもりはないよ。私の全てを使って報復した後、合流させてくれると嬉しいね。」

「そうですレイラ様。厳しくなるのは令嬢として足りないエマ様のせいです。レイラ様は爵位にあった務めを果たすにすぎません。で、あるならば、私もレイラ様を見習い、アングラード家として出来る限りの責務を果たさなければなりませんね。彼女の精神面は私が剣術と共に鍛えましょう。丁度、決闘勝負を挑まれていますしね。」

「アルレット様!? ですが、それではアルレット様も断罪されてしまいます。それは本望では……」

「でも、レイラちゃん。エドが求めているのは、賢く、謙虚で、強い人間よ。エドがそれにふさわしい男かはさておいてね。はなかっらエマって子に敵視されてるレイラちゃんだけで、どうにかできるとは思わないけど?」

「えぇ。それに、アルレットだって、行方不明というだけで、死ぬ描写はありません。もし、断罪されたならば、無人島生活に合流させていただければ、剣の扱いには覚えがありますから役に立てるかと。」

「アルレット様……。」

「あ、因みに私は、万が一エマって子が今のままエドと結婚するようなことがあったなら、もちろんちゃんと教育するわよ。例え側室枠でも、私の目の黒いうちは王室で勝手な振る舞いは許さない。でも、駄目そうだったら死ぬのは嫌だし…早々に見切りをつけて無人島に逃げようかしら。私、全然アウトドア知識とか無いけど、今の内に知っておいた方が良い事ってあるかしら?」

「えっっと……」

「なんか、ずるいです! 私も皆と無人島で生活したい!!」


( いや、シルヴィ様は自分の領地に戻りたいんじゃないの!?)


「シルヴィちゃんは、2人の結婚までエドと寝なければいいだけでしょ? タイムリミットがあるわけだし、今まで通りエマさんとつかず離れずいて、学園を卒業したら領地に帰ってバイバイすればいいじゃない。で、時々無人島に差し入れもって遊びに来なさいよ。」

「あぁ! 分かりました。でしたら、私エマ様の学業の面倒を見ますよ、あの人、本当に頭悪くて、文字もちゃんと書けないんです。あとは、レイラ様の教育で心おれない様に、適当に励まします。だから、無人島仲間に入れてくださいね!!」


 無人島仲間って何………?

 というか、つまりどうなったのかしら?


「つまり、ここに悪役同盟誕生! という事ですね。レイラ様。」


 呆気にとられていたレイラに代わり、アルレットがまとめて微笑みかけてくる。

 どうやら、そういうことらしい。


「乾杯しましょっ」


 シャーロットが手を叩くと、即座にその場に飲み物のつがれたグラスが並べられる。


「はい、レイラちゃんっ」


 グラスの一つを、シャーロットがレイラに差し出し頷いた。

 顔を上げると、皆が静かにレイラの音頭を待っている。

 気恥ずかしいが、それがみんなの総意ならと、レイラはグラスを軽く持ち上げ、声高らかに叫んだ。


「悪役同盟万歳!!」






 ★ 感謝とお知らせ ★


 最新話お読みいただきありがとうございます。

 この作品も、残すところ2話となりました。


 最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

 よろしくお願いします。

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