カフェ・ボヌールでひと息
浅川瀬流
プロローグ
店の前には『カフェ・ボヌールへようこそ』と手書き看板が立てられ、準備中の札が掛かっている。
そこを、一匹の猫が通り過ぎた。小さな茶色の猫は軽い足取りで店の裏口へと向かう。
裏口には、初老の男性が一人。鍵を開け店内に入ると、
「こんにちは~」
すると同じく裏口から、小柄な女性が現れた。肩につかないくらいの長さで切りそろえられたこげ茶色の髪は、可愛らしく外にカールされている。
彼女は大学生の
「こんにちは、萌花ちゃん。昨日の課題は無事に提出できたかい?」
「はい。提出時間ギリギリでした」
萌花はドヤ顔をマスターに向けた。
「もっと余裕を持ってやらないとだめだよ」
そう言ってマスターは柔らかく
二人が店内を掃除していると、ガチャリと扉が開いた。
眼鏡をかけた男性が
「お、遅くなりました……。生徒の質問に答えていたら、家を出るのが遅くなってしまって」
「大丈夫ですよ、
萌花はエプロンをつけながらからかった。静哉と呼ばれた男性は、ごめんなさい、とうなだれる。
彼、
「ほらほら、汗をふいて髪を整えないと」
「ありがとうございます、マスター」
マスターは更衣室からタオルを持ってきて静哉に手渡す。
「さ、そろそろ開店準備始めるよ」
――フランス語で幸せを意味するボヌール。お客様に幸せな時間を提供することが、この店のモットーだ。
さて、今日はどんなお客様に出会えるだろうか。
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