6 二人で 温泉で
*少し性的表現あり、苦手な方はご注意ください。
併設の温泉施設は、これじゃ赤字だろうと思うくらい利用者が少なかった。大浴場に人はおらず、ガラス越しに見える露天風呂にも人がいるのかいないのか。湯気と結露で内側からは何も見えない。
いくら利用者が地元の住民ばかりとはいえ大丈夫か? まあ、利用する側とすれば空いてる方がいいけれど。
頭と全身をざっと洗って外に出た。露天風呂は山の斜面に面していて、雑木林の間にセットされた照明が数個あるだけで全体的に薄暗い。
ショウが、キョロキョロと周囲を見渡しながらついてきた。
「誰もいませんね」
「貸し切りじやん、贅沢だなー」
広い湯にゆっくりと体を沈め、両手足を大きく伸ばした。力を抜いて湯船に身を任せると、トロリとした泉質が長時間の運転で固まった筋肉をほぐしてくれる。
ここの温泉は温度がぬるめで長く浸かっていてものぼせる心配がないのがありがたい。
「気持ちいーですね」
両腕をだらりと投げ出して、湯から顔だけを出してプカプカ浮かんでいる。風呂に入るルールを完全に無視している。
「小学生のガキが同じことをしていたぞ」
「へへ、誰もいないから許してください。……星、見えないですね」
ショウが空を見ながら残念そうに言った。
そうなのだ。いつの間にか雲が広がって星を隠してしまった。ぼんやりした月が見えるだけだ。
「せっかく来たのにな」
「でも、楽しいから」
ショウがゆっくりと体を起こして正面に座った。両手で俺の右足を持ち上げて自分の膝におき、マッサージを始めた。指を曲げたり伸ばしたり広げたり、足の裏側をグリグリと強く押したり揉みほぐしたり。
「痛くないですか?」
「少し……。や、けど気持ちいいな」
「よかった」
左足も同様にグニグニされた。指や足裏への刺激がこんなにも気持ちいいとは。足つぼマッサージってこんな感じなのか?
「少し痩せました?」
「かもな。ここんとこ仕事でバタついてたし」
「忙しくても、ちゃんとメシ食ってください。ちょっと立って、そっちに座ってもらえますか」
ショウの指示通りに立ち上がり縁に腰掛けた。足首から指圧がゆっくりと膝に向かって移動する。張りを感じていたふくらはぎが幾分楽になった気がする。
撫でさすっていた両手するすると這い上がり、股間近くの際どい位置で止まった。
背筋が痺れたようにゾワゾワした。
「前から思ってたけど肌キレイですよね。ここも…」
ショウの人差し指が左の乳首を軽く弾いた。
「……ふ、」
ツンとした弱い痛みが下半身をジワリと刺激する。人差し指は肌を辿ってそのまま下がってゆき脇腹のあたりで止まった。
普段意識していないが、そこにはハート型の痣がある。色は薄い茶色で、体温が上がると赤みを帯びた色に変わる。
ショウは痣に顔を寄せて数回キスした。そして大きく口を開けて痣ごと食べるようにガブリと噛みついた。軽く歯を当てる程度だったので痛くなはいが、噛み跡を労るようにペロペロと舐められ、またガブリと噛まれて舐められて。
「…くすぐったい」
「この痣、俺のお守りです」
「なんだそりゃ」
痣に頬ずりしながら両腕を腰にまわし、縋り付くようにギュッと抱きしめられた。まるで大きな子どもだな。
「ナルさんが悪いんです。我慢できるわけない……」
そう言ってすっと体を下げて股間の前に座り、反応しつつあるそれを根本から持ち上げて先端からパクリと咥え込んだ。
「ちょ、や……」
こんな所で、誰か来たらどうするんだ。頭の中は焦っているのに、ペニスは素直に硬さを増してゆく。
やめさせようと頭を抑えたがびくともしない。きっと、大した力じゃなかったんだろう。
ショウは股間に顔をうずめたままなおも口淫を続ける。先端を強く吸い割れ目を刺激し、浮き出た筋を舌でなぞり絡ませて愛撫するように顔を前後させる。溢れ出ているはずの先走りは、ショウの口の中で唾液と混ざり合っている。じゅぷぷ…とすすり上げる音がやけに大きく聞こえた。
ビリビリと快感が全身を覆う。気持ちいい…そう声に出しそうになった。
その時。ガヤガヤと何人かの声がした。浴室に客が入ってきたようだ。まずい。この状態で中断するのはかなりきついが、他人に見られるなんてとんでもない。それに興奮する趣味もない。
「誰かきたぞ。やめろって」
知らせようと背中をバシバシと強く叩いた。気づけよ、おい。
さっきより話し声が大きくハッキリと聞こえた。外にに出てきたのだ。こら、聞こえていないのか? 早く離れろこのバカ。ダメだ、まだこっちに来るな……。
何度もショウに声をかけながら必死でそう念じた。
右の親指をショウの口にねじ込み、左手で髪を掴んで強く引っ張ってようやく引き離した。
「いい加減にしろ――」
自分でも驚くほど低い声が出た。
動きを止めたショウは、顔を上げて慌てて一歩後ろに飛び退いた。驚いて目を丸くしていた。
下半身を開放された俺はさっと立ち上がり、気持ちを落ち着かせようと大きく深呼吸した。おろおろするショウのことは置き去りにして室内に向かった。
露天に出てきたのは三人だった。誰もいないと思っていたようで、前から来る俺を見て少し驚いていた。
硬いままの股間をタオルで隠して体をひき、通路を譲った。熱をもち敏感になった乳首は隠せない。平静を装っているが内心は緊張と興奮で心臓がバクバクしていた。
彼らは特段こちらに目を向けることなくガヤガヤと通り過ぎた。
――はぁ……。
ホッとしたら身体中の力が抜けた。
後ろからショウが慌てた様子で追いかけてきた。
「あ、あの」
「……」
俺はショウに顔を向けることなく、その声を無視して室内に入った。返事なんかしてやるか。一人で反省してろ。
頭からざっと湯をかぶり、さっさと脱衣所に向かった。
ドライヤーで髪を乾かしていると、ショウがそっと戻ってきた。着替えながらこちらをチラチラ見る様子が鏡に映っている。話しかけるタイミングを探っているのか。
正直なところ怒りは収まっていたが、まだ素直に歩み寄る気になれない。俺は悪くないし、と意地になっていた。
ドライヤーを片付けて立ち上がり、ロッカーを開けて荷物を出した。隣でショウが一歩引いて立っている。タオルを手にじっとこちらを見ているのが気配でわかった。
「先に出る」
ショウが何か言う前に、一人で車に戻った。
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