3 ショウと俺

*性的表現あり。苦手な方はご遠慮ください



 ショウとLINEを交換したのは2回目に会った時だった。

 『ORERA』にショウからDMが届いていることに全く気付かず、無視した結果になっていた。理由は簡単、そもそもサイトを開いていなかった。

 意図的ではないけれど、年下のそれも推定高校生相手に可哀想なことをしたと反省。


 前回と同じホテルの 同じ部屋 ――単なる偶然だけど――に入った途端、ショウにぎゅっっと息苦しいほど抱きしめられた。両手で肩を掴まれ強く唇を吸われたまま体を壁に押し付けられた。

 ショウの興奮が、太腿に触れた硬い下半身から伝わってきた。


「ちょ、待てって。おい……」


 喉の奥まで喰らうように激しくキスをされ、不覚にも全身の力が抜けた。ショウに体を支えられベッドまで運ばれ、そのまま押し倒された。ひんやりしたシーツが心地よかった。

 シャツをたくし上げ、ふたつの突起を引っ張り出された。ひとつを乳輪ごと舐め転がされ、もう片方は指先でくるくると優しく撫でられた。


「ふ、んんっ……」  


 胸から得る種類の異なる刺激に思わず仰け反った。早くも反応した俺の下半身に気づいたショウは、体をずらして股間に顔を寄せようとしている。

 まさか、嘘だろお前がやるのか?


「待て待て待て、ちょっと待て。落ち着け落ち着け。え? そんなにヤリたかった?」 


 俺のズボンのベルトに手をかけた状態で顔を上げたショウと目が合った。彼はゆっくり頷いた。


「そっか、ごめんな。メッセージ気づかなくてさ。怒ってる?」


 彼は無言で首を横に振った。


「もしかして、寂しかった、とか?」


 ベルトから手を離し体を起こしたショウは、ベッドに正座してこくりと小さく頷いた。

 俺の鈍感なハートが不覚にもキュンとした。やばい、可愛いじゃないか。


「わかったわかった。LINE交換しよう、な? LINEなら必ず気がつくし、な?」


「……はい」


 彼は一瞬眩しそうに目を細めたあとふっとうつむいた。口元が緩んでいるように見える。表情の変化は僅かだけど、すごく嬉しいみたいだ。


「お前さー、なんか色々と上手くなってないか? さっきも抵抗なくフェラしようとしたよな。俺に無視されて別の誰かとヤッたんだろ」


「ヤッてないです!」


 だってヤリたい盛りの高校生じゃん。ショウは若いし、俺じゃなくてもサイト探せば相手はたくさんいるハズだし。


「ウソだね。なんであんなに上達してんのさ?」


「それは……」


「ん、それは?」


「……動画、です」


「動画……?」


「動画でイメトレ」


「イメトレ…って、練習? って、もしかして俺をイメージしながら?」


「……はい」


 抜くためじゃなくて、セックスの練習のために動画見てたの? ひとりで画面を見ながら俳優の動きを真似ていたのか? エアーで? クッション相手か……? それは……素直というか健気というか、不器用というか。

 またしても俺のハートがフルフルと刺激された。おい俺、今日はどうした? ショウが可愛いすぎるぞ。


「ふーん。じゃあ今日は練習の成果を見せてくれるんだ? な?」


 窮屈そうなショウの股間をさらりと撫でてやった。

 彼の顔つきが変化した。ギラギラと欲情した雄の目に変わった。






『明日会えますか?』


『会えるよ。5時にいつもの改札で』


『わかりました』


 LINEに返信しながら思った。ショウのメッセージって絵文字もスタンプもなく、そっけなくて業務連絡みたいだと。今どきのDKってみんなこうなのか? 必要事項のみ簡潔に入力された文章は潔くて、ショウの人柄が出ているような気がした。 

 スマホをテーブルに置いたところで先輩が戻ってきた。ニヤニヤと、ネタを見つけたみたいに嬉しそうだ。あれこれ弄る気満々な顔だな。


「おい、それ誰? 彼氏か?」


 椅子に座るなり、早速俺のスマホを指差しながら聞いてきた。


「セフレですよ」


「なんだよ、彼氏じゃないのか? いい加減誰か見つけろよー」


「俺を振った先輩には言われたくないですね」


「何年前だよ、時効だろー。でもでもお前さ、今すごく嬉しそうな顔してたぞ」


「だって楽しいんですもん。明日で会うの3回目なんですけど、懐かれちゃって。こいつ童貞だったんでぶっちゃけ面倒かもって思ってたんですけどね。全然素直で可愛くて、この間LINE交換しました」


「童貞ってことは、年下か? 珍しいな。いっも年上ばっかりだったよな? あー、もしかして年下初めてか?」


「初めてです。で、多分高校生です」


「え⁉︎」


「本人は大学生って言ってますけどね。体デカいし大学生に見えなくもないけど」


「いやいや、高校生はダメだろ。バレたらどうするんだ?」


 先輩は慌てて顔を寄せ、声のトーンを少し下げた。隣の席の会話など聞こえないほど雑多な音に溢れているが、確かに大声で話す内容ではない。

 俺もつられて声を潜めた。


「ヤバいですよね。なのでホテル使うのやめます。ホテル代割り勘なんですけど、高校生から受け取れないし。仕方ないのでこれからは俺のアパート使います」


「え? 家に上げるのか? お前が?」 


「はい。勉強教えてたーって言えるでしょ」


「マジかー。お前……そいつのこと、実はかなり気に入ってる、よな」


「そうですね。体の相性が……」


「いやいや、相性って別に体だけじゃないだろ?」


「まぁ。こいつすげー無口なんですけど、沈黙してても全然気にならないし、ホント可愛いし」


「それさーもう彼氏でよくない? お互い連絡先知ってて、家に上げてセックスもしてさ」


 ――いい加減一人と向き合ってみれば? そいつ、彼氏でよくない? あ、高校生はダメか? でも気に入ってるんだろ? だったらお試しとかさー。俺はお前が心配なんだよ、フラフラしてて。いい加減さ――

 会話がぐるぐるとループし始めた先輩を無理やりタクシーに押し込んだ。運転手に住所を伝え、多めに札を渡して見送った。





 翌日、俺は都心まで足を伸ばした。迫崎さんの息子へ返すシャツを買うためだ。結局、借りたシャツはクリーニングに出して、買ったシャツと合わせて返すことにした。

 息子の好みなんて知らないから少し手間取った。あれこれ見てまわり、少し厚手の薄いブルーのカジュアルなシャツにした。胸ポケットのブランドロゴが、アラビア文字風の変わった字体で刺繍されている。期間限定のデザインらしい。カラフルなボタンホールの糸の色とマッチしていてシンプルだけどオシャレ……だと思うけど若者にはどうなんだろう? 

 反応が気になるけど、まぁいっか。

 ついでに、下着も何枚か買った。ショウが使うかも、なんて頭の隅でぼんやり思った。


 買い物を終え、急いで電車に乗った。待ち合わせの駅に降りたところで腕時計を見た。ヤバい、5時過ぎてる。遅刻ばっかりだな、俺。

 改札口の真正面、券売機の横に立つショウがこちらを認識した。軽く手を上げて、改札に入ってくるよう手招きした。ちょうどホームに到着した各駅停車に乗ることができた。連休だからか乗客は少なく、座席に二人ゆったりと並んで腰掛けた。


 車窓から見える空は夏より青く澄んでいた。遠くに崩れた飛行機雲が浮かんでいる。9月も半ばを過ぎ、西から差し込む太陽の日差しはすっかり柔らかい。日中はまだまだ夏の日差しだが、朝夕の空気はすっかり秋の気配だ。

 

「今日さ、俺のアパート行こうか」


「え……?」


「イヤか?」


 ショウはブンブンと大きく首を振った。


「駅から少し歩くんだ。古い割に頑丈で、防音はしっかりしてるし、今隣は空室なんだ。学生の頃から住んでるから広くないけど、そこはガマンしてくれな」


「……はい」


 最寄り駅で電車を降りた時には日が落ちて薄暮の空だった。

 駅前のコンビニで買い物をして、二人で川沿いの遊歩道をゆっくり歩いた。こんなに小さな川でも水辺には違いないようで、気のせいか吹く風が涼しい。

 この道は街灯が少なく暗いため、夜に歩く人はあまりいない。ショウが体を寄せ、するりと左手を握ってきた。どうして? という戸惑う気持ちと、やっぱり、という安堵に似たくすぐったさを感じた。

 アパートの前までそのまま手を繋ぎ無言で歩いた。


 部屋に入ったショウは、男の一人暮らしが珍しいのかあちこちきょろきょろしていた。

 壁に貼ってある写真を見て俺を振り返った。


「それ、アニキの結婚式の写真だよ。隣のハガキは今年の年賀状だな。去年子どもが産まれたから3人で写ってるだろ」


「お兄さん……」


「似てないだろ? 親の再婚でお互い連れ子同士なんだ。棚の写真立てが両親の写真。狭くてごめん。そこ、ソファ座ってて」


 カウチソファに腰を下ろしたショウは、座卓の上の郵便物に目を止めた。俺の名前に気がついたようで、財布から何かを出そうと探し始めた。


「ん? どした?」


「俺も名前を……でも今日学生証持ってなくて」


「いいよ。お前はショウでいいよ、な」


 ショウは大きく頷いた。明らかにホッとしている。

 お前はショウでいいんだ。名前を聞いたらこの距離感が崩れそうな気がして嫌だと思った。

 俺はショウの上に跨って膝で立ち、腕を首に回した。腰を屈めて顔を寄せ、触れるだけのキスをした。ショウの頭を胸に抱き寄せてそっと囁いた。


「メシ食う? それとも、先にやる?」


 若い股間が反応した。

 返事は聞かなくてもわかった。

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