第3話 占い。
日曜日の朝。一階にある自分の部屋の勉強机で数学の勉強をしていると、窓からコンコンとノックの音がした。振り向くとルカちゃんがいた。
僕が窓を開けると、ルカちゃんは胸あたりまである壁をよじ登り窓から部屋に入って来た。
「ほいっとぉ。隼人〜。遊びに来たよ〜」
「ルカちゃん、窓からじゃなくて、ちゃんと玄関から来なよ〜」
「隼人に早く会いたかったんだも〜ん。だから窓から来てもいいでしょ?」
ルカちゃんの家は僕の家の隣。僕とルカちゃんの部屋は二メートルくらい離れた隣同士。だから玄関よりも窓から出入りした方が近道になる。
「ルカちゃん、とりあえず、靴脱ごっか」
「は〜い」
毎回土足で入ってくるルカちゃん。なので、窓の下には専用のマットが敷いてある。
「で、今日はこんなに朝早くから何しに来たの?」
「今日はね、占いをしたいから来たの」
「占い?」
「うん、そう」
占いね。最近女子が文化祭の出し物は占いをしようって話してたね。それでやりたくなったのかな?
気がはやいよね。今は六月。文化祭は九月だよ。二年生の大きなイベントは文化祭くらいしかないから仕方ないって言えば仕方ないけど。
ルカちゃんは背負っていたバックパックを降ろして、中から小さなピンクの巾着袋とウサギのぬいぐるみを取り出した。
巾着袋から手のひらサイズの青いガラス玉を取り出した。部屋の真ん中に置いているローテーブルに巾着袋を置き、その上にガラス玉を置いた。
「それって水晶?」
「違うよ〜。少し大きなビー玉だよ」
「じゃあ、そのウサギは何なの?」
「今は秘密です!」
秘密? よく分からないけど、楽しそうに準備しているから、まぁ、いっか。
「はい、じゃあ占いを始めます。隼人も座って」
水晶代わりの青いビー玉の前に座っているルカちゃん。僕は正面に座った。
「いらっしゃいませ。信じる信じないは、あなた次第。無責任な占いの館にようこそ」
ルカちゃんは僕が座ると、すんごい胡散臭い自己紹介を始めた。
「ルカは……じゃなった、私は館長のルカ・インチーキです。この子は助手のワトソン君です」
「あ、はい。よろしくお願いします」
ルカちゃん……もっとマシな名前あったでしょ? 何故にそんな、絶対に当たらない偽物全開な名前にしたの? まぁ……名前に嘘はないけども。
それにワトソン君って必要なの?
「では、今日は何を占ってもらいたいですか?」
「そうですね、う〜んと」
「あ、占いで当てます……にゃんにゃ〜、にゃんにゃにゃ〜」
ルカちゃんはビー玉に手をかざして呪文のような言葉を呟いている。
「分かりました。あなたは自分の運命の人が誰なのか知りたいのですね」
「おお、すごいですね。その通りです。お願いします」
「えへへ。すごいでしょ」
とりあえず占い茶番に付き合おうと思う。ルカちゃん楽しそうだしね。
「えっと、隼人の運命の人はすぐ近くにいます。同じ病院で生まれ、誕生日が同じ同級生ですね」
ルカちゃん、それは自分のことだよね。
「僕の運命の人のことをもっと詳しく知りたいな」
「いいよ。その女の子は髪は栗色、長さは腰付近です。目の色は蒼瞳。日本人と欧米人のパパとママがいます」
「ほうほう。身長と体重は分かりますか?」
「身長は百五十二センチ、体重は
ルカちゃんは頬を膨らませ、バンバンと机を叩いた。女の子は体重を気にする生き物なんだね。再確認しました〜。
でも、僕は知っている。ルカちゃんの体重が四十二キロだと言うことを。ルカちゃんのお母さんが言ってた。
「僕の運命の人は分かったけど、ルカちゃんの運命の人は誰?」
「ルカの運命の人? 知りたいの?」
「うん」
「分かりました〜。占いま〜す。にゃんにゃ〜、にゃんにゃにゃ〜」
ルカちゃんはビー玉に手をかざしてまたまた呪文を唱えた。
「ルカの運命の人は、眼鏡をしているイケメン学級委員長の隼人です! そして、隼人の運命の人はルカです!」
「名前言っちゃたよ! ド直球かい! それに僕はイケメンじゃないよー」
「隼人は立派なイケメンです! はい、占いは終了〜。精算お願いしま〜す。お代はチューで〜す」
くはっ! そうきましたか! それがホントの目的だったのね!
ビー玉の前に居たルカちゃんは僕の隣に来て、唇を僕に近づける。僕は咄嗟に机の上に置いてある、ウサギのぬいぐるみを手に取る。
「ワトソン君! キミの出番だ。お代を立て替えてー」
僕がワトソン君を近づけると、ルカちゃんは顔を引き両手で口を隠した。
「ダメ。ルカのファーストキッスの相手は隼人って決めてるの。だからワトソン君はダメなの」
僕はルカちゃんの唇に近づけていたウサギのぬいぐるみのワトソン君を止めた——
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