パステルボーイとネオンガール
七味こう
プロローグ
第1話 ないたカナリア
カナリアは泣いていた。鳴くように泣くことしか出来なかった。
「どいてくれよ! 俺にやらせてくれ!」
訴えている先にいるのは部屋の隅にいる九条という男。
「カナリア、お前はまだ子どもだろ。そこにいていい」
カナリアと呼ばれる少年は周りの大人たちに取り押さえられても抵抗している。大人たちはカナリアに覆い被さって必死で大人しくさせようとしていた。
九条はある物をお腹に抱きかかえながらうつ伏せになっている。さらに、九条の上にもう一人屈強な男性が体を覆い、一つの塊が出来上がっていた。
ピッ……ピッ……
塊の中からは均等な間隔でデジタル音が微かに洩れている。4分超ここにいる者たちが嫌という程聞かされたカウントダウンの音だ。その音を聞くたびにカナリアの顔に焦燥が募らせる。
「おい! 本当に時間がないんだ! 死ぬぞ! 死ぬのは俺だけいいんだ!」
それが自分に出来る精一杯の贖罪だと訴える。
「お前の貧相な体じゃ、これが貫いてしまう。だからこれでいい——」
カナリアからは九条の表情は分からないが、感情を押し殺した声だったのは確かだった。
「だけど、悪いのは俺なんだ! あんた達が死ぬ必要はない。だからそこを代われよおおお」
最期の力を振り絞ってどけよ、と叫びながらカナリアは取り囲む大人たちを振り払った。
あと5秒、まだ間に合う——
ずっと頭の中で刻んでいたカウントと鳴っているデジタル音に相違がなければ、あと5秒。
九条と上に被さっている男が抱えている物を奪い、代わりに自分が丸まっていればいい。それが自分の最期の運命であるはずだと覚悟はとっくに決めていた。
4—
「大丈夫だ」
九条は振り返り、カナリアを見るとこんな状況だというのにニヤリと口角を上げた。
3_
「どうして笑っていられるんだよ——」
思いがけない笑みを見てしまい、カナリアは立ち止まってしまう。
その隙に、大人たちはカナリアをまた取り押さえて、部屋の隅に固まり無事を祈った。
2—
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおお」
祈りを捧げる大人たちの中心にいたカナリアは断末魔を上げる。
1—
カナリアが頭の中で刻んでいたカウントがついに『0』になってしまった。
ピィーーーーーーー
不快感しかない強烈な機械音が九条と男の塊の中から無慈悲に鳴り響いた。
瞬間カナリアが襲われたのは強烈な爆裂音と、猛烈な熱風、そして1秒前は男達を形成していた体の破片であった。
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