好感度支配アプリ

魔桜

第1話 横島心は淡島瑞樹に恋してます


「ずっと見てるな」

「うわっ、なんだよ……」


 友達の男が横からいきなり声をかけて来た。

 集中し過ぎていたので驚いてしまった。


「最近ずっと見ていると思って、淡島さんのこと」

「そ、そうかな……」


 図星だった。

 流石に授業中は見ないが、休み時間とか、ふとした時に彼女のことを見てしまうことが最近増えている。


「もしかして、惚れた?」

「ち、違うって!」


 俺は必死になって否定した。

 俺も自分の気持ちが分からない。

 人を好きになる気持ちってのがよく分からないからだ。

 

 男子高校生にもなって、俺は恋愛らしい恋愛をしてこなかった。

 そりゃあ、告白されたことはある。

 バレンタインに本命チョコだってもらったことがある。

 だが、年齢=彼女いない歴だ。


 なんとなく、人を好きになる気持ちがよく分からなかった。

 ドラマや映画みたいに劇的な恋には憧れるけど、現実世界で異性に惹かれることはない。

 俺はもしかしたら、心の一部が欠落しているのかもしれない。


「いいじゃん、隠さなくたって。横島にもちゃんと人を好きになる心があるって分かって、お父さん嬉しいよ」

「同級生でお父さん面するな。訳わからないだろ」


 誰かと付き合いたくない理由の一つで、こうして友人からからかわれることだ。

 誰かと付き合ったりとか、誰かを好きになったりとかしたら、こうして周りからからかわれる。

 それが嫌なのだ。

 どうしてみんなこんなに他人の色恋沙汰に興味あるのかね。


「でも、よりにもよって淡島か……。特殊な趣味だな」

「別にそうじゃないって。――でも」

「でも?」

「特殊な趣味ってなんだよ、特殊って。普通に淡島さん可愛いだろ?」

「そうかな。地味だし、友達いなくて何考えているか分からないし、俺はタイプじゃないな」

「お前のタイプは聞いていない」


 淡島さんのことを好きな訳じゃないが、悪口みたいな事を言われるとなんだかムカムカしてくる。


 淡島さんはクラスで浮いた存在だ。

 異性どころか同性とも話さない。

 でも、彼女はいい人だ。

 

 俺は抜けている奴らしい。

 最近、落とし物や忘れ物が多い。

 だけど、彼女は落とし物を拾ってくれたり、忘れ物した時はよく貸してくれる。

 地味な顔をしているけど、そういう優しい心を持っている人だ。


「タイプなんて人それぞれだろ?」

「まあ、そうなんだけどさ、ただ意外だっただけ」

「ふーん」


 まあ、人の好みなんて人それぞれだ。

 好きな芸能人で他人と被ったことないからだ。

 俺の好みは他人とは少し違うみたいだ。


「まっ、男ってのは受け身のままじゃ何も進展しないからな。さっさと告白するなり、デート行くなりしないと、誰かに取られるぞ」

「そうじゃないって! というか、デート? 付き合う前にデートしたりするの?」

「……まあ、デート重ねないと好感度だって上がらないだろ。教室で話してても特別感ないしな。いきなり告白しても難しいだろ。横島だって、あんまり喋ってない女子から告白されても戸惑うだろ?」

「ま、まあ……」


 確かにあまり仲良くない女子に告白されても、え? 何で俺? ってなるな。

 俺の中で告白よりもデートの方がハードル高いんだけど、そっちが先なのか?

 好感度を上げる為に、二人きりでずっといるって、かなり無理な気がするんだけど。

 世の中のカップルはそんなに難しいことをしているのか?


「二人きりって話もたなくないか?」

「そこで自分の良さをアピールしないと付き合えないだろ? だからといって自分の話ばかりすんなよ。相手の話をちゃんと聞いてやるんだ。あとは映画行くんなら予約とっておくとか、歩道側は自分が歩くとか、さりげない優しさを発揮しろ。相手に自慢するんじゃなくて、さりげなくな」

「……うわあ」


 面倒くさいな。

 恋愛って。

 そこまでみんな考えながら恋愛しているのか。

 だったら一人で生きていく方がよくないか?


「まっ、二人きりっていうのはハードル高いから、グループ交際かな。複数人で遊んでいれば、他の人のエスコートの仕方も勉強になるし、話が続かなくても誰かがしゃべってくれるから、まずはそこから始める奴が多いんじゃね? 誰かに紹介されて付き合う奴もいるけどさ」

「ふ、複数人……」


 男女五人ぐらいが集まって、夏にバーべーキューしてSNSに写真上げるみたいなことを、俺にしろと?

 それこそ無理だろ。

 二人きりで会うのと同じぐらいハードル高い、というかグループ交際の方がハードル高くないか?


「好感度上げるのって難しいんだな」

「努力しなきゃ上がらないの。俺達みたいにイケメンに生まれた奴等じゃない奴は特にな」


 努力ねぇ。

 そこまで自分を犠牲にしてまで誰かに奉仕する意味はあるのかな。

 やっぱり、俺には恋愛は無理かもな。


「おーい、みんな席につけー」


 担任の先生が教室に入って来た。


 掛け時計を一瞥する。

 いつの間にやらこんな時間か。


「おっ、と。じゃあな。HR始まる」

「ああ……」


 みんなが席に着くと、先生がHRを始める。

 俺はこっそりと学校で禁止されているはずのスマホを、机の下で動かす。


 みんなやっていることだ。

 先生の話なんて真面目に聞く意味なんてない。


 検索したいことは、好感度だ。


(なんか手軽に好感度上がるようなものないかな……)


 検索していると、一つのスマホアプリに辿り着いた。

 あまりにも胡散臭いし、DL数が少なすぎる。


 だが、努力せずに好感度を上げれます、という謳い文句に目を惹かれてしまった。

 そのアプリ名は、


『好感度支配アプリ』

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