アヤと化け狸 ~ 空回りな授業参観

木津根小

1

「ピコピコ、ピコピコ・・・」

朝、目覚まし時計が鳴った。

「アヤさん、朝ですよ。

起きて下さい。」

そう言ったのは、タヌキの縫いぐるみである、タヌ助だった。


アヤは小学6年の女子であり、タヌ助はアヤが拾ったタヌキの縫いぐるみに封印されていた、タヌキの霊だった。

タヌ助は生きていた時に行った、たくさんの悪い事により、タヌキ大神さまの怒りを買い、タヌキ冥界から追い出された。

しかも、タヌ助には、正体を明かした最初の者から離れられ無くなるという、呪縛が課せられていた。

そうとは知らず、アヤはタヌ助の正体を知ってしまい、タヌ助から離れられ無くなってしまったのだ。


アヤとタヌ助は、生きていた時に行った悪い事と同じだけ良い事をすれば、呪縛から解放されると考えた。

そこで、タヌ助の為に、アヤは、タヌ助にして欲しい『良い事』をお願いしていた。


「アヤさん、早く起きないと、遅刻しますよ。」

タヌ助はそう言って、アヤの体を揺すった。

しかし、アヤは何の反応も示さなかった。


タヌ助はニヤリと笑うと、

「仕方ないですね。

お寝坊さんは、お尻ペンペンして起こさないと、ダメですね。」

そう言いながら、アヤの寝巻のズボンを脱がそうとした。

すると、突然、アヤがムクっと起き上がり、

「カーロス、ラッキーパンチ!」

と言って、タヌ助に見事なパンチを決めた。


(おうっ、一度に4発ものパンチを決めるとは。。。

じゃなかった、何故、それを知っている。)

タヌ助は、パンチを受けた勢いで、飛ばされながら、そう思いアヤを見た。

寝ぼけたアヤの後ろに、ファイティング・ポーズを決めている、タヌキ大神さまが見えた。

「ぐはっ。」

タヌ助は、壁に叩き付けられ、そのまま床に落ち、俯せになった。


「ふぁ~~っ、おはようタヌ助。

そんな所で寝てると、風邪ひくよ。」

アヤはベッドから出ると、そう言いながら、タヌ助の横を通り過ぎた。

そして、鏡を見ながら、簡単に髪を直すと、タヌ助を抱いて1階へと降りて行った。


「おはよう。」

台所に入ると、朝食の準備をしていた、アヤの母親であるミサトが言った。

ミサトは34歳で、市内の小さな会社に勤めていた。

「おはよう、お母さん。」

アヤはそう言うと、自分の席に着き、タヌ助をテーブルの上に置いた。

「おはよう。

今日は、晴れみたいだから、傘は要らないな。」

そう言ったのは、アヤの父親である、シゲキだった。

シゲキは、市内の会社に勤める、37歳の会社員だった。

「おはよう、お父さん。」

アヤはそう言うと、ミサトが用意した朝食を食べ始めた。


「アヤ、お父さんとお母さんは、今日、参観には行けそうに無いの。」

ミサトが、申し訳なさそうな顔で、アヤを見ながら言った。

「すまないな、アヤ。

週末なら行けるんだが、平日はどうしても仕事が忙しくてな。」

シゲキも、アヤを見ながら言った。

「うん、良いよ、気にしないで。

それより、お仕事、頑張ってね。」

アヤが、笑顔で言った。

その日はアヤの参観日だった。

参観日は、いつもは週末に行われていたが、その時だけ、学校側の都合により、平日に行なわれたのだった。


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