第14話 闇夜に紛れる自警団(後編)
最後の団員は堂々としている。戦う姿勢も、武器を取り出すこともせず立ち尽くす。
もはや目論みがあるのは明らかで、ダールは警戒する。近づかないと発動できない魔族の力。それは目か、それ以外か。
「なにを企んでやがる」
「企みなんてないよ。僕は、僕の戦いかたしようとしてるだけさ」
「ふん、嘘くせえ」
真っ黒もいいもところだ。言いぐさに仕草にどれをとっても怪しいしかない。
しかし、思慮を巡らせても分からないものは分からない。結局、全てを解決するのは
ダールは走り出し、大きく左手を振り上げる。威力を乗せに乗せた拳は、容しゃなく団員に振り下ろされた。
団員はすかさず両手で受け止めようとする。槌に匹敵する、強力な一撃を。
もらった――ダールは確信するも、左手はゴムを殴ったかのように大きく弾き飛ばされた。
「それが
「そうだよ。そしてこれが、僕の戦いかたさ」
さっきとはうって代わり、団員は戦う姿勢を見せる。手のひらを正面に、あらゆる攻撃を弾こうという魂胆だろう。
ダールはいったん距離をとり、左腕に視線を落とす。左腕は、弾かれた衝撃でズキズキと痛む。
戦うことに支障はなくとも、攻撃のたびにこうなると腕がもたない。あの厄介な力をどうにかする必要がありそうだ。
「そっちから来ないなら僕から行くよ」
団員はダールとの間合いを詰めて
仕掛けは分かっても糸口はない。ダールは避けることしかできず、団員は好機といわんばかりに攻め立てる。
防戦一方のダール。けれど、逃げ回るのは好きじゃない。
「くっ!」
疎かになった足を蹴り、団員の体勢を崩させる。前のめりになった体にする攻撃はこれしかない。
ダールはがら空きの背中に、大きく振り上げた左肘を叩き落とした。しかし――。
「ちっ!」
「効かないよ!」
弾かれた。左腕は天高く放り出されて、ダールは思わず後ずさる。
団員も距離をとり体勢を立て直すがずいぶんと余裕そうだ。
「まだ戦うかい」
「当たり前だろ。もう、勝てるからな」
「なら勝ってみなよ」
団員は再び前に出る。ダールは構えて、迎え撃つ覚悟だ。
繰り出される掌底をかわしつつ、ダールは足元で音をたてる。ザッザッと砂を擦り、団員に意識をさせる。
「つっ!」
「おいどうした。
しっかりと蹴りを交えてより意識させるもまだ足りたない。
ダールは左手を握りしめて、団員の顔面に向けて拳を放つ。
これは囮だ。
「ぐふっ!」
ダールの蹴りが、団員の脇腹を確実にとらえる。団員はふらふらと後ろに下がり、膝に手を置いて苦しそうに咳きこんだ。
「見破られたか」
「ああ、見破ったぜ」
ダールは鼻をさすり得意顔だ。
あの力は、最も意識した場所にのみ発動する。最初にそう感じたのは、初めて蹴りが当たった時。そして確信したのは、背中に肘を振り下ろした時だ。
「まだやるか?」
「当然だよ。僕がここで降参したら、立ち向かった仲間に顔向けができないからね」
団員はダールに立ち向かう。掌底の速度は前ほどなく、重い一撃を受けた体ではこれが限界なのだろう。
だが、手加減などするつもりはない。ダールは問答無用で団員を攻撃する。
蹴りと見せかけ拳で――。
「ぐっ!」
拳と見せかけ蹴りで――。
「がはっ!」
もはや当たらない攻撃はなく、戦いは一方的なものになる。
腹を蹴り、胸を殴り、足を蹴り……、いたる箇所に打ちこんだ攻撃は団員を追い詰める。団員は虫の息で、立つのもやっとだ。
「まだだ……」
息を吐くように発した消え入りそうな声には、強い意志が宿る。それは、自警団としての矜持か。はたまた人間に負けたくない想いか。
どちらにせよ、ダールは団員を見て懐かしい気持ちになる。
「お前を見てると昔を思い出す。だがな、もう終わりだ」
「そんなことは……ない……!」
団員はままならない足どりでダールに立ち向かう。ダールは拳を弓のように引き絞り、顔面に狙いを定める。
今までの攻撃は、全てこの一撃のため。間合いに入り拳を放つ。今度は囮じゃない。
射られたダールの拳は仮面を粉砕して、団員を宙へと放り出す。団員は宙を舞い、背中は無情にも地面についた。
「楽しかったぜ」
――――
「帰ったぞ」
「お帰りなさいダールさん」
ダールが帰るとミルトが笑顔で出迎えてくれる。部屋からは食欲をそそる香りが漂って、ダールの腹の虫は思わず鳴いた。
「ご飯できてますよ」
「おう」
「ご苦労様さまっす。どこまで見回りしてたんすか?」
「少しそこまでだ」
「ちなみに異常はあったすか」
「大ありだ。自警団とかいう奴らがケンカをふっかけてきやがった」
ダールはイスにどっかり座り息を吐く。今思い出しても、自警団の全てに腹がたってくる。
敵意丸出しな態度に、「怪しい」の理由で殴ってきたこと。それら全てはみごとなまでに、ダールの地雷を踏み抜いた。
ダールのイライラはぶり返して、八つ当たりと言わんばかりに目の前の干し肉を噛みちぎる。
「自警団? そんな組織あるんすね」
「知らないのか?」
「初耳っすよ。自分、一度も会ったことないっす。ちなみにケンカは買ったんすか?」
「当然だ。うざかったからな、買ってやったよ」
「無事に帰ってきたってことは、勝ったってことっすよね。ほんと、昔から負け知らずっすよね~」
「当たり前だろ」
「ちなみに責任って知ってるっすか?」
ワキョは変わらず笑顔なのに目が笑っていない。ダールは圧力を感じるも、無言で外を指さしなに食わぬ顔をする。
先に殴った以上、責任なんて100あいつらだ。ダールに非があるなら強すぎたことしか思いつかない。
「そうなんすけどね、だとしてもなんすよ。自分たちは人間、そしてここはハームブルト、この意味が分かるっすか?」
「分からねえよ。つまりなんだ?」
「自分ら人間は嘘の情報だったり不利益な情報だったりで罪に問われる可能性があるんす。言っちゃ悪いっすけど、ここは完全敵地みたいなもんなんすよ」
「そんな!」
「なんでお前が驚くんだよ」
「いくらダールさんが悪い人でも、ない罪をきせるなんてひどいです! せめてある罪で裁くべきです!」
「おいこら」
ミルトはダールのことを犯罪者と呼びたいようだ。もちろん、そんなやつには
「いてっ! ……うぅ、ひどいです」
ミルトは頭を両手で押さえて涙ぐみ、痛みをこらえてか口を真一文字に結ぶ。
どこか不満そうな顔つきで理不尽を訴えてくるが、ダールの非は全くない。
「ふっかけたのはお前だからな」
「はははぁ、仲良さそうでなによりっす。とりあえずなにも起きないことを願うしかないっすね」
「だな。まあ、最悪はこれだ」
ダールは力こぶを見せて武力行使を示唆する。ワキョは意図を汲んだのか、呆れてため息をついた。
「バカ言ってんじゃないっすよ。そんなことしたら問題がもっと深刻になるっす」
「勝てば正義だ」
「独裁者みたいなこと言わないで欲しいっす。自分はことなかれ主義なんすから」
「そうかよ。変わらねえな」
「数年で変わったら逆に怖いっすよ」
「それもそうだな」
「後は自警団について村長に聞いておきたいっすね」
「俺もだ。いきなりケンカをふっかけやがって、あいつら何様のつもりだってんだよ」
「何様もなにも、自警団っすよ」
「そうじゃねえよ。……はぁ、いい。これ以上話してもめんどうだ。腹も減ったしとっとと食べようぜ」
「すでに食べてるじゃないっすか……」
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