サンタクロースの魔法
紀伊航大
信じる者は救われる
もみの木が色とりどりに町を着飾る。オーナメントは光り輝き、明るい未来を暗示する、はずだった。
僕が小学生の時分は、少なくとも特別な日だった。ここ数年で町は光を失い、右肩下がりの生活を強いられた。そんな環境下ではクリスマスなんてモノは一種の憧れでしかない。
幼い手を引き、バイトの給料袋を見つめ、僕はガラにもなく過去を思うのだった。今に始まったことではないのに。どこか心が痛むのは何も知らない妹を不憫に思うからだろうか。
カツカツの生活がほんの僅かでも好転することを天に願い、僕は家路を急いだ。寒波到来と連日ニュースでも言われるだけあって風が身に染みる。
いつもと寸分違《たが》わぬ食事を囲み、床につく。しかし、どうしてだろうか。一向に睡魔が襲ってこない。学校では大敗を喫すのに、家では圧勝。
気分転換にでもと窓に息を吹きかける。ぼうっと白くなったそこに、積年の想いを連ねてみる。高校生にもなって、とバカにされようとも構わない。サンタクロースがもし居るのなら。と子供じみた願いは、僕自身によって否定される。親が変身するだけの赤い毛むくじゃらの柔和なオッサンを夢見ていたのはいつ頃だっただろう。
と、その時窓に大粒の雪が当たる音がした。今夜も積もるのだろうか。一瞬窓の外が光に包まれた気がしたが気のせいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます