黒猫の紙芝居

USHIかく

黒猫の紙芝居

 黒猫は悪を呼ぶ――。


 その伝承の由来を知るものはいない。しかし、その伝承を知らぬものもいない。なぜこの時代になっても語り継がれているかはわからない。しかし、黒色の猫は不吉の象徴だという。私はそれを理解することができなかった。


 小さな頃に読んだ絵本がある。それは、小さな女の子と一匹の子猫の生活を描いたものだった。魔女の捨て猫だと人々に忌み嫌われた一匹の子猫。その黒の毛並みは悪魔を彷彿とさせるという。母親と逸れ、すぐにも危篤に陥った小さく脆い生物を拾い、二人で冒険する物語。最後は林檎の木の下で眠る黒猫を側に、本を読む少女の絵で幕を閉じた。今思い返せば特別な要素があまりあったわけではない。しかし、幼い私の心にそれは響いた。それ以来、私は猫と本、あと林檎が好きになった。


 あの紙の匂いが鼻腔をくすぐる感触は、幼い頃に親にせがみ、初めて入った日以来変わらず好きだ。近所のこの本屋の色と匂いが好きだった。だが、その店の主を好きにはなれなかった。本を愛する気持ちがなく、子供の私を乱雑に扱い、後ろをつけた幼い黒猫を追い出した。彼には報復が与えられた。暫く後に彼の姿はなくなった。


 彼は最後に子供の私にこう言い放った。

「黒猫を見ると不幸をもたらすのだ」

 私はそこで思った。黒猫を悪だと信じる人の中にこそ、悪はあるのかもしれない、と。


 本は静寂と感傷の中で楽しむものだと思う。それは、木の下で紙をめくるあの絵と何も変わらない。風と緑の中、今日もページをめくる。飲み干された珈琲の匂いが鼻に届くより先に、心地よい木と紙の舞に消される。カット林檎を口に運ぶなごやかな一角、あの書店の主として、横で眠る黒猫と共に。

 この猫は、私に幸福を与えてくれたから。


「いらっしゃいませ――」

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黒猫の紙芝居 USHIかく @safchase

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