『時をかける少女』を見た高校生

夜橋拳

第1話

「俺も過去に戻りたい」

 なんて戯言吐いてねえで、普段から勉強しろと、母親にビンタかまされた。母さんだって気持ちはわかるだろ、返ってきたテストの点が悪かったんだよ。

 それにこの令和の時代にビンタ、マジ有り得ねえ。とは言えなかった。なぜならビンタが思ったより痛かったからだ。

 痛む頬を摩りながら、俺は自分の部屋にふて寝しに参る。

 テストが終わった後、俺は母が好きだと言っていた『時をかける少女』という映画を見たのだ。テストの手ごたえが全くと言っていいほどなかったので、点の悪いテストが返ってきた時の逃げ道として、共通の話題を持ったのだ。しかしそれは失敗に終わった。結果的にビンタをかまされてしまった。

 うちの母親は、テストの点が低いと怒り出すタイプである。小、中学生ならまだしも、高校生になってもビンタするくらい怒るのはうちくらいだろう。

「はあァ……」

 とため息を吐きたくなくなるくらい、ここ最近は良いことがない。

 冗談ではなく、本当に過去に戻りたい。せめて、テストが始まる、今から一週間前まで。


 1


 俺はふて寝するために部屋に来た。なので当然、俺は寝た。

 夢は見なかったが、夢のようなことが起きた。時間が巻き戻っているのだ。一日や二日ではない、俺が望んだ一週間前の朝に時間が巻き戻っているのだ。

 時間が二週間巻き戻っていることは、スマホの時計で確認した。

 いったいどうなってるんだ? というのが感想だ。俺もまさか、本当に時間が巻き戻ったとは思っちゃいない。そんな物理的にあり得ないことが起こるわけねえだろ。じゃあなんだ? 何が起こっている? どういうことだってばよ。………………三秒考えて、俺はとある理解にたどり着く。

「夢か」

 過去に戻ったというより、これから始まる一週間が夢だったということだ。じゃああの夢は……予知夢、ということだろうか、ということにしておこう。

 とりあえず顔でも洗ってこようか。


 せっかく予知夢を見たんだから、それに従わず、運命を変えて見ようかと抗ってみるのもいいだろうと思ったが、結局そんなことはしなかった。ここで確信したのだが、俺は過去に戻っても何一つ変えられないんだろう。

 俺が駅で待っていると、肩をぽんぽんと叩かれた。俺が振り向くと、にっこりとはにかむ女がいた。トガメだ。

 ショートカットで小柄。そんで俺の彼女。

 予知夢が正しければ、明日振られるわけだけど。


 2


 予知夢は予知夢ではなく、ただの夢だったのかもしれれない。

 と信じたかったけれど、正確性があまりにありすぎる。

 トガメと電車の中で話している会話が、夢の中で話したことと一致している。

 そういえば母に頬ぶっ叩かれた時も普通に痛かったしな。夢の中で痛みって感じねんだよな?

 トガメは天真爛漫な笑顔で、俺に次々話題を提供する。こんなに笑っているのに、俺明日の夜に振られるんだよな。

「…………」

 どうせだから聞いちゃうか。

「なあ、なんで俺と別れたいんだ?」

 トガメの顔から笑顔が消える。虚を突かれた顔をする。そして肩をすぼめ、ぽつぽつと話し出した。


 3


 結果的にトガメとは一日早く別れてしまった。失敗した、夢の中で別れた時は恋人ではなくなったものの、まだ友人くらいの仲でいられたのだが、変に自分から言ってしまったせいで、かなり気まずい仲となってしまった。

 そのせいで俺は落ち込んでしまい、テストの点はさらに悪くなって、母親に往復ビンタを食らった。

 痛む両頬を抑え、ふて寝と洒落こもうか。

 そんで寝た。


 起きると時間が巻き戻っていた。片頬だけが痛い。

「なんだ……夢か」

 俺は痛くない片頬を全力でぶっ叩いた。

 これで夢は現実となった。

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『時をかける少女』を見た高校生 夜橋拳 @yoruhasikobusi0824

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