マースマグ

Russi

第1話 ambivalent(上)


 2045年7月のこと。 急速なAI、Machineの発展により急遽基礎教養として重んじられてきた『数学』という科目は終わりを告げた。 ある発言力のある人物が「三角関数なんていつ使うんですか? 」と言ったのを皮切りに同様の発言が各地、SNS上で行われ、それを待っていたといわんばかりにとある研究所が人類の叡智を軽く上回る自立型AIを開発したことを発表したそうだ。



 「マジだる......」


 こんな言葉も口に出してしまう始末。 なぜなら終わりを告げたというのは本当にこれから『数学』を学習することすらできないからだ。 この世にある限りの数学的論文、参考書すら全てアメリカにある一つの大型記憶機関に読み込まれ、一般で見ることはなくなった。 人生の全て――家族、友人関係、コミュニケーション能力、その他の勉強など――を捨てて数学に打ち込んできた数学者たちの多くが自殺を図ったそうだ。俺は怖くてとても無理だが......

 それでも世間の声は辛辣で、「別に数学好き同士で集まって勉強してればいいじゃんwww」「それな草」などなど気持ちのいいものはひとつもなかった。



 「そもそも集まるためのコミュニケーション能力はどこかに捨ててきてるっつうの! それこそ草だわっていう自虐だよはぃ............ふぅ~、久しぶりに大学いくかぁ」


 ピカピカの計算機の歴史書、情報社会論の資料を無造作にリュックに突め込み、片方の肩にかけ、ボロボロになったスニーカーを履いて家を後にした。




◇◆◇◆◇




 『シンギュラリティ』 テレビニュースを見ていると例の一件をそのように呼ぶようだが、昔よくうたわれていた自動運転技術などはまだまだ安全でなく公道での実装はまだらしい。 そっちを先にしろよ。 そんなことを考えながら電池の切れた電動自転車をこぐ。 体力や準備するということさえどこかに捨ててきたらしい。笑いが止まんねえわ。

 短時間のように思えるが、いつの間にか大学が見えるところまで来ていたようだ。しかし、早く涼しいところに行きたい。そんな気持ちもあったからだろうか。狭い車道の左側を走っていたところ、前方の車を全然見ていなかったためその車の急ブレーキに対応しきれなかった俺は下り坂で重心を前に持っていかれて自転車にひっぱっられるように横転してしまった。


 「ガチャ―ン!! 」「いってぇっ! 」


 刹那、電動自転車が車に踏みつぶされ、まるで缶類がプレスされるときのような音がした。 そう、目の前ででんちゃりがボロボロになっていた。

 半ば放心状態で地べたに座り込んでるつもりでいたが、すぐ近くからいい匂いがするのでそちらを向くと珍しいエメラルド髪と赤目を持つ女の子に......お姫様抱っこされていた。


 「......やぁ? 大丈夫だったかい? 」


 ......そんなことこんな状態で聞かれて答えれるかあほーーーーーー

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