第3話 吟遊詩人達
カールは、恐れ多くも王太子宮で、アレキサンダーとレオンと、吟遊詩人達も数人交え、一緒に酒盛りをするようになった。
「御商売のほうは問題ないのですか」
ロバートが、カールにそう質問するほどだった。
「アレキサンダー様と、何をされているかは存じません。ただ、あなたの御商売の妨げとなるようであれば、私からアレキサンダー様に、一言申し上げることもできますが」
アレキサンダーは、ロバートの母親に育てられたと言っていた。アレキサンダーに進言しようかという、ロバートの言葉に、カールは王都で商会を営む兄を思いだした。
「いえ、大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます」
「左様ですか。ご迷惑でなければよいのですが。何かあればおっしゃって下さい」
兄の商会にいたころ、カールが何かしでかさないか、兄は常に気を配っていた気がする。当時はそれが煩わしかった。独立した今、煩わしかったはずの兄の気配りのありがたさを実感している。全てが自分の責任というのは大変なことだ。
「アレキサンダー様とロバート様は、随分と仲が良くていらっしゃるんですね」
カールの言葉にアレキサンダーは頷いた。
「私からすれば、生まれた時からだからだ。ロバートの方が、数か月先に生まれている。あれの誕生日は、父上と同月同日だ。忙しすぎて、一度も祝ってやったことが無くてな」
「そんなの、ローズ様がロバート様に一言、『お誕生日おめでとう』とでもおっしゃればいいのですよ」
レオンの言葉に、アレキサンダーは大笑いした。
「いいな。それは。月並みな祝いなどよりも、よほど喜びそうだ。ところで、お前達はどうやって祝うんだ」
アレキサンダーからは、他にも沢山質問された。
王太子宮に集められた吟遊詩人達はみな、町の酒場で見かけるときとは違う雰囲気を纏っていた。不思議な威厳があった。
「私達は、この国の人々のために歌うのです」
そう彼らはいい、酔って興に乗ると、様々な歌を歌った。
報告書の内容、レオンが持ってきたアーライル家の騎士達の報告、ベンに聞いた町での出来事、エドガーやサラに聞いた王太子宮でのローズの様子をもとに、物語の大筋を決めた。今までの商売では経験したことがないことばかりだった。事実を織り交ぜ物語を作るのは面白かった。
「歌い継いでいく間に少しずつ内容が変わっていきます。あまり細かいことを決めても意味がありません」
と、吟遊詩人達は口を揃えて言った。
アレキサンダーも悲恋にだけはするな、誰かを誹謗中傷する内容にはするなと、条件をつけただけだった。
「貴族に逆恨みされたら、あの二人には身を守る方法が無い。父上、祖先たちもだが、なぜ、あの一族を爵位なしのままにしておくんだ」
「私も、御前会議で何度、ロバート様のほうが、有意義な発言をされるとおもったことか」
アレキサンダーの言葉にレオンが強く賛同していた。
カールには、それが良いことかわからなかった。ロバートが貴族だったら、イサカの町に派遣されなかっただろう。イサカの町の民がライティーザの統治を受け入れたのは、王太子の名代として訪れたのが、あのロバートだったからだ。カールがイサカの町で引継ぎをうけた短期間でロバートと親しくなれたのも、彼が貴族ではなかったからだ。そうなると、貴族で騎士であるレオンとの関係に疑問を持つことになるが、酔ったカールの頭は、それ以上考えることはなかった。
「ロバートの貢献を正当に評価しない貴族を見ていると、
「全くです」
アレキサンダーの言葉に、レオンが前のめりになって賛同していた。王族と貴族が、酔っているとはいえ使用人のために熱くなっている光景は、商人のカールにとって新鮮な、思いがけない光景だった。
「せめて市井の者達には、ロバートとローズの貢献を広く知らしめたい」
「はい」
アレキサンダーの言葉に、カールは心の底から賛同した。
イサカの町を救った恋人たちの歌を、吟遊詩人達は各地で歌った。道端で、酒場でその歌を聴くようになった。
その成功をみて、カールは一つの計画を立てた。芝居だ。芝居は、より多くの人に伝えることができるはずだ。
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