第27話 王国戦争
うさぎは、アダリヤについて喋り終わると、近くの木の下に座り込んた。
「喋り疲れちゃったわ。ちょっと、休憩させなさいよ」
確かに、あれだけ喋れば疲れるかもしれない。
セリムもそんなに急いでいるわけではないので、うさぎの傍らに座り、ひととき休息をとろうとした。
そのとき、今度は、うさぎが問いかけてきたのだ。
「ねえ、あんたぐらいの年齢の男が、ふらふらと島に現れるんだから、戦争は終わったのよね」
「終わったよ」
「そう」
「うさぎ、戦争してたの知ってたの?」
「ええ……人づてに聞いたわ」
少しの間があいた。
この島には、アダリヤ以外いないのに、人づてに聞いたなんて、伏せる必要があるのか。
本土のことも知らないアダリヤが、戦争をしていたことを、知っていたのか。
「どういうふうに終戦したのか、暇つぶしに教えなさいよ」
セリムの思考は、うさぎの問いかけでぶち切られた。
それが、人にものを頼む態度なのか。聖獣様はいつ何時も高圧的である。
「うさぎの耳には入ってこなかったの? 有名な話だよ」
なんせ、その話は小説になり、ベストセラー。戯曲にもなっているのだ。
「あんた、この島には長く人間は来なかったのよ。知るわけないでしょ」
うさぎは、戦争していたことは知っていても、終戦したことは知らなかった。
ますます情報源がどこなのか気になるところだが、きっと普通に聞いても教えてはくれないだろう。
下手したら、機嫌を損ねて、ダンジョンまで連れて行ってもらえないかもしれない。
「あるところに、お姫様がいました」
「何で昔話風なのよ」
セリムは、うさぎのツッコミを聞き流した。
「あるとき、お姫様は、自分も国の役に立ちたいと志願して、衛生兵として戦争に参加しました」
「すごく行動力のある女ね」
「しかし、敵国に捕虜として捕まってしまいます」
「捕まるなんて、とろいわね」
両極端な感想を言ううさぎに、確かに、とセリムも頷いた。
「ある日、捕虜収容所の視察に、敵国の王太子が来ました。そこで、この美しい衛生兵に一目惚れしてしまいます」
「王子様、ヤバいわね」
「ふたりはお互い惹かれ合うも、敵国同士。だけれど、葛藤の末、両思いになります」
ひとことツッコミを入れながら聞いていたうさぎだが、とうとう不満げに立ち上がり、ブーと鳴いた。
「ちょっと、あたしは、どういうふうに終戦したのか聞いてんのよ」
「いや、だから、今話してるじゃない」
「ふざけてんの?!」
「本当、ふざけてるよね」
セリムは真顔でそう答えた。
本当にふざけていると思っているからだ。
「……遮って、悪かったわね」
セリムの真顔に、うさぎは珍しく謝った。
この物語のような展開が、事実であると悟ったのだ。
うさぎが座ったのを確認して、セリムは続けた。
「ふたりは様々な試練を乗り越えて、停戦協議にこぎつけます。そして、子孫に戦争を持ち越したくないと、終戦を宣言します」
セリムは当時、まだ小さかったので、この停戦協議の詳細は知らないが、この戦争の原因で、戦場となったレンホルム地域の割譲さえ、双方の話し合いで解決したと聞いた。
「愛は世界を変えるのです、と結婚パレードで王女様は宣いました」
「ふーん、それで」
これだけで終わるとおもわなかったのだろう。うさぎは続きを要求した。
「おしまい」
「おしまい?」
「その王女がアイキオの姫で、王太子は王国の王太子だよ。今年で結婚して8年になるよ」
つまり、終戦して8年である。
「じゃあ、この200年はなんだったのか、ってなるよね。たくさんの血が流れた戦争は、こんな簡単に終結できるものだったのか、って」
愛なんて不確かなもので、本当に世界は変えられるのか。
じゃあ、何のために力は存在しているのか。
「人間は愚かね」
「そうだね」
「蹂躙されるのは、いつだって弱いものよ」
「そうだね」
力を持たなかったセリムは、侯爵家で虐げられてきた。
「あんたは、蹂躙する側の人間でしょ。軍閥侯爵家コルマールの坊っちゃん」
それを知らないうさぎは、セリムを鼻で笑った。
「僕は……」
ーー僕は、その力を与えられなかった出来損ないなんだよ、うさぎ。
「行くわよ、セリム・コルマール」
うさぎは立ち上がり、座っているセリムを振り返った。
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