第13話 聖獣の眷属
うさぎに紹介された洞穴は、今まで使っていた洞穴の2倍ほどの大きさだった。
中には落ち葉が敷き詰めてあり、岩場でゴツゴツしないようになっている。
そして、極めつけは、
「あ、あれは……」
「あたしの眷属よ」
「も、もふもふ……!」
小さなうさぎたちが、お腹を上に向けてゴロゴロしていたのである。
白もいれば灰色や黒っぽいのもいたり、ゴマ柄など、多種多様な子うさぎが、半分ほどを埋めていた。
「うさぎって、お腹出して眠るものなの?」
「何いってんの、あたしの加護のおかげに決まってるでしょ」
偉大なる聖獣様はそう答えた。
「ほら、あんたたちもあれに混じって寝なさいよ。夜は冷えるんだから」
なんやかんやと悪態をつきながらも、面倒見のいいうさぎである。
「ありがとう。助かる」
「「はーい」」
セリムは素直に感謝した。この子うさぎ達が安心して腹を見せているということは、ここが安全だという何よりの証拠である。
ノエルとアダリヤは、右手を上げて返事をしていた。
アダリヤも、ここで休むつもりのようだ。
「ちょっと、リヤはあたしとこっちよ」
「えー」
うさぎは遠くに見える洞穴をしっぽで指すとアダリヤは唇を尖らせて抗議した。どうやら、セリムやノエルと一緒に、寝るまで喋りたかったようである。
「あんな野郎と一緒なんてダメよ」
「けんちゃんたちはいいの?」
あの子うさぎたちを眷属だから『けんちゃん』。
アダリヤっぽいといえば、そうなのかもしれないが、あまりにも安易である。
「あのこたちはいいのよ、強いから」
「え、あの子たち、強いの……」
「変なことしたら噛み殺されるわよ」
あんなかわいい子うさぎだが、集団でかかれば、人ひとり噛み殺せるくらいの能力があるらしい。
セリムもノエルも心のなかで、子うさぎに服従することを誓った。
***
夏の終わりの9月にもなると、王国の夜は冷えてくる。
眠りについた子うさぎたちに混ざって、セリムとノエルは横になった。
子うさぎたちの毛はふかふかで暖かく、ベッドの上とまではいかないが、よく眠れそうだった。
「セリム、もう寝た?」
「まだ起きてるよ」
寝ている子うさぎ達に遠慮したのか、ノエルが小声で話しかけてきた。
「俺んちってさ、みんな仕事一筋なんだ」
「そうだね」
ブールブレ伯爵は王宮の目利きとして宝物庫に勤務しているし、領地は妻であるリンダが取り仕切っている。
他の兄弟も、王宮図書館や宝石商、アカデミーの研究員など、全員、鑑定眼のスキルを活かして働いている。
「でも、俺は、仕事ばかりの人生はつまらねぇと思ってた。何とか、冒険者とか、自由に生きられる職業につきたかったわけ」
「そうなんだ」
せっかく安定した職業に就けるスキルを持っているのに、それを棒に振るなんて、セリムには考えつかないことだった。
「だからさ、セリムには感謝してるんだぜ」
「感謝されるようなことはしてないよ」
どちらかというと、こんな危ない目に巻き込んでいる申し訳無さしかない。
「開拓なんてさ、なかなかやるチャンスねぇじゃん」
「そりゃ、どちらかというと平民の仕事だからね」
今の王国は、ほぼすべて開拓され尽くしているが、その昔は貴族の指揮のもと、平民が開拓を行っていたという。
「まぁ、鑑定眼のスキルも活かせるし、冒険者気分も味わえるし、村?町?か、わかんねぇけど、1から作るのってロマンじゃん」
「そうかなぁ」
先のことに不安を感じさせない物言いは、楽観的なノエルらしいと思った。
セリムは、祖父の遺したものが気になったからというのが、この島に来た理由だった。
なので、正直、開拓のことを詳しくは考えていなかったのである。
「しかも、セリムの旨いご飯も付いてるしな」
「そんなこと言うの、ノエルだけだよ」
「リヤちゃんも旨いって言ってたぜ」
「アダリヤは、味付けされた食べ物に慣れてないだけだよ……」
今日の夕飯での大絶賛が記憶に新しいが、それも本土へ行くまでのことである。
すると、急にノエルが黙り込んでしまった。
こんなことは珍しいので、セリムは少し身体を起こして、ノエルの方を見ると、クルッと向きを変えて背を向けたところだった。
「これからも、お前は俺に、何も気兼ねすることはねぇからな」
「……ああ、ありがとう」
ノエルらしい気遣いであった。
「村を作ったらさ、セリムは、村長になるんだろうけど、食堂も開けばいいじゃん。リヤちゃんを給仕で雇って、看板うさぎを置けば人気出るんじゃね?」
ノエルが突然、具体的なプランを出してきたので驚いたが、そういえば、ここ3日ほどはキラーボアのことで気が立っていて、ろくに話をしていなかったことに気が付いた。
「あの気位の高いうさぎが、看板うさぎとかやるかな」
「リヤちゃんが褒め倒せば、やるだろ、あれは」
なので、セリムはこの『もしも』話に乗ることにした。
「じゃあ、ノエルは冒険者ギルドのギルドマスターだね」
「えー、俺は冒険者になりてぇんだよ。おっさんになったらギルドマスターしてやるよ」
「約束だよ」
「ああ」
その日ふたりは、眠るまで、開拓後の島について語り明かしたのだった。
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