第20話 奴隷錠に囚われた少女
――ギィンッ!!
「クッ……、小癪な!」
俺は魔鎌イガリマで大司教クラウスを弾き飛ばし、祭壇に横たわっていた獣人少女テティとの間に割って入る。
クラウスが構えていた短剣はイガリマの一撃を受け、粉々に粉砕されていた。
「黒のローブに漆黒の大鎌……。そういうことですか。まさか、《黒衣の執行人》に嗅ぎつけられるとは……」
「ったく、聖天教会が奴隷を扱っているとは思わなかったよ。お前ら、神の名の元には皆平等とか掲げていた気がするんだが、それはどこかにいったらしいな。いや、元々そんな主義は持ってすらいないか」
クラウスは俺と距離を取ると、引きつった笑みを浮かべている。
やはり情報屋フランが持ち込んだ一報は正しかったらしい。
フランから事の顛末を聞いた俺たちは、すぐさま獣人少女テティが囚われているというこの聖天教会にやって来た。
武力と関係ない施設にしては不自然な程の傭兵がいたが、今はメイアとフランが足止めしてくれている。
おかげで俺は単身、この場所へと駆けつけることができていた。
「大丈夫か?」
俺は獣人少女テティに声をかける。
その腕は痛々しく斬りつけられていて、それが俺の怒りを一層強いものにした。
「あ、あなたは、どうして……?」
「腕利きの情報屋がいてな。事情は全部聞いた。あのクソ司教がくだらない野望のために君を殺そうとしてるってことも。だから、助けに来た」
「そう、じゃない……。どうして? 一度、道で会っただけのわたしの、こと……」
「……理不尽な目にあってる人間を放っておけないタチなんだよ。それに、誰かを助けるのに理由なんか必要ないだろ?」
「っ……」
テティは赤い瞳を見開いて、そしてその後に「ありがとう」と小さな声で呟いた。
俺は改めてクラウスと対峙し、その執行係数を再確認する。
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対象:クラウス・エルゲンハイム
執行係数:237,111ポイント
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これまでに執行してきた連中と比べても相当に高い執行係数。
それは大司教クラウス・エルゲンハイムの悪逆さを物語っていた。
「やれやれ、どうして私の計画を邪魔しようとするのか……。私がやろうとしているのは人民の救済だというのに」
「あ? 獣人族を犠牲に人を操る薬を作ることのどこが救済だ」
「分かってませんねぇ。支配される、というのはとても幸せなことなのですよ。それに気づかなければね」
「……」
「何も疑問を感じず、何も考えず、支配者の造った箱庭と秩序の中でただ生き続ける被支配者。それこそが理想の世界です。私はその新世界で必ず支配者階級に入ってみせる。その実現まであと一歩なのですよ。自分に関係ない家畜の死など気にする必要は無いでしょう?」
クラウスは嬉々として語る。
「…………屑が。お前のそのくだらない野望、ぶち壊してやる」
「ククク、それはどうですかねぇ。心優しい黒衣の執行人様」
「なに?」
問いかけるのと、俺の背後で音がしたのはほぼ同時だった。
「――あ、ぁああああああああっ!!!」
振り返るとテティがもがきながら悲鳴を上げていた。
――これは……、テティの首に付けられた奴隷錠が発光している?
発光が収まったかと思うと、テティは俊敏な動きで跳躍し俺とクラウスの間に着地した。
「く、うぅ……ぐぁ……」
その目はまさに獰猛な獣のようで、先程までのテティの様子とは明らかに異なっている。
「お前、テティを……」
「ええそうです。奴隷錠に私の魔力を流し込みました。これで彼女は私の操り人形だ。優しい優しい貴方は何の罪もない彼女を攻撃できますかねぇ?」
「……」
「さぁ役立ってもらいますよ、テティ。獣人族最強と謳われた【
「あ、あぁ……!」
クラウスが奴隷錠に向けて手をかざすと、テティが苦しそうに呻き声を上げる。
そして次の瞬間、彼女の体が眩い銀色の光に包まれ始めた。
「ぐ、ぅう……」
テティの周りを包む銀の光は目視でも確認できるほどの形を取り、その光は彼女の手を大爪で、体格を毛皮で、牙で覆い尽くしていく。
そこに現れたのは、伝説の銀狼と伝えられるフェンリルの形相を纏った少女の姿だった。
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