【9/5】小説第②巻発売|黒衣の執行人は全てを刈り取る~謎ジョブ《執行人》は悪人のスキルを無限に徴収できる最強ジョブでした。【剣聖】も【勇者】も【聖者】も弱者を虐げるなら全て敵です

天池のぞむ

第1部1章 黒衣の執行人

第1話 執行人と追放


「アデルよ、今日をもって貴様からは第七王子の地位を剥奪する! 二度と余の前に顔を見せるな!」


 きらびやかな装飾が施された王の間にて。

 俺の父であり、一国の王であるシャルル・ヴァンダールが放った言葉は憤怒と侮蔑に満ちていた。


「どうしてです父上!? そんな突然……」

「どうして、だと? 貴様が授かったジョブ。それが原因であろうがアデル!」


 シャルルの言葉は止まらない。


 俺の授かったジョブが望んだものではなかった、王家には相応しくないと、出て行けと。

 要約するとそういう趣旨の主張にありったけの憎悪が乗せられていた。


 この世界に住む者が神から授かる「ジョブ」という異能の力。

 ジョブの中でも最高位の能力を持つとされている【剣聖】を代々輩出してきたのがこのヴァンダール王家だ。


 王の家系に第七王子として生まれた俺もまた、当然のように剣聖、もしくはそれ同等の上級ジョブを授かるだろうと周囲から期待を寄せられていた。

 それなのに俺が授かったのは……、



 【執行人】――。



 そんな名前の、意味不明なジョブだった。


 ジョブを授かった者はその能力を試すため王国兵と模擬戦を行うのだが、その際に俺のジョブは何の能力も発揮しなかった。

 それを見たシャルルは酷く落胆し、俺は外れジョブ持ちの烙印を押されることになる。


 「王家の名を汚す裏切り者」「役立たずのガラクタ」「野垂れ死ね」――。


 俺に対しシャルルが投げつけるのはそんな言葉だった。


「我がヴァンダール王家の輝かしい未来に貴様は不要なのだ、アデル!」

「っ……!」


 王家としての威厳が実の息子よりも大事なのか?

 それとも、俺は父親の理想を叶えるための道具としか見られていなかったのか?


 だから、もう不要だと……?


 そんな考えが不必要に頭を巡り、反論を繰り返すが状況を覆すことはできなかった。

 俺は諦めにも似た感情を胸に父シャルル・ヴァンダールに頭を下げる。


「これまで、お世話になりました……」


 それは、王族として過ごした時間に区切りをつけるための辞儀じぎだった。


 そして――。


 顔を上げてシャルルを目に捉えた時、不可解な現象が起こる。


====================

対象:シャルル・ヴァンダール

執行係数:12,850,904ポイント

====================


 そんな青白い文字列が俺の眼前に表示されたのだ。


 ――何だ、これは……?


 気になる現象ではあったが、俺の問いに答えてくれる人はいない。


 代わりにかけられたのは「早く出て行け」というシャルルの冷たい言葉だけだった。


   ***


 追放された後の境遇は酷いものだった。


 まず試みたのは冒険者登録をすること。

 少なくとも王宮にいた頃、剣の鍛錬は積んできた自負がある。


 それに、「困っている人を助けるための力を身につけたい」と子供じみた願望を捨てきれずにいた俺にとって「人々の悩みを解決しながら生活の糧を得る冒険者」という響きは、とても魅力的なものだった。


 けれど、それは叶わなかった――。


 本来ならば資格や家柄など関係なく、来る者拒まずであるはずの冒険者協会は俺を受け入れてくれなかったのだ。

 「罪を犯した者は例外」とまったく心当たりのないことを理由に断られて。


 それが父シャルルの腹いせで流された「デマ」が原因だったと知ったのは、随分後になってからのことだ。

 どうやら「アデル・ヴァンダールは父親に剣を向けてヴァンダール王家の家宝を盗み出した大罪人」という根も葉もない噂を流布るふしていたらしい。


 そのせいで日銭を稼ぐための労働に就くことすらできなかった。

 行く宛もなく、路銀を持たされることもなく追放され、金を得る術すらも失って……。


 ――ある日は、ゴミ山から残飯を漁った。

 ――ある日は、モンスターを狩り、食べられるかどうかも分からない肉を腹に収めた。

 ――ある日は、雨水で喉の乾きを潤した。

 ――ある日は、日照りのため雨水すらも見つけられず、雑草を噛み締めて水分を補給した。


 そうして、およそ人間的な暮らしなどとは程遠い日々を過ごす中で、俺はある「願い」を持つに至る。


 「こんな理不尽をぶっ壊せるだけの力が欲しい」と。



 ――そしてある日、転機が訪れる。


「おいニイちゃん。人のシマで何やってんだ?」


 裏路地のゴミ捨て場で残飯を漁っていたところ、目つきの悪い3人組に声をかけられた。


 腕にはある筋で有名な盗賊団のタトゥー。

 確か、快楽的な殺人や強盗などを平然と行う盗賊団の証だったはず。


「小汚ねぇ浮浪者か……。ちょうどムシャクシャしてたところだ。コイツの試し斬りをさせてもらうとするか」


 男の一人がそう言って何かを取り出す。

 それは、盗賊団には似つかわしくない荘厳な造りの剣だった。


「コイツはある貴族の屋敷から盗んできた宝剣でよう。世界で一番硬いオリハルコンで加工したものなんだとさ。きっと楽にあの世へ行けると思うから、それで勘弁してくれや」


 男が近づいてくる。

 朦朧とした意識の中でも、明確な死の予兆が感じられた。


 ――俺は、ここで死ぬのか……? 何もできずに……?


 そうして、男が斬りかかってくるのを防ごうとしたのかは自分でもよく分からない。

 ただ、青白い文字が表示されたことと、こんな理不尽を打ち砕く力が欲しいと願ったのは覚えている。


「な、な……」


 男が切羽詰まった声を漏らす。

 見ると、男が握っていたはずの剣が粉々に斬り刻まれていた。


「せ、世界一硬いオリハルコンの剣が……。って、お前……、何だそりゃあ!?」

「……は?」


 訳の分からないことを言われ、ゆらりと男の顔に視線を向ける。


「に、逃げろ! きっとコイツのジョブ能力だ! オリハルコンを斬る武器を召喚するなんざ、尋常じゃねえ!」


 その言葉を合図に、男たちは蜘蛛の子をちらしたように逃げていく。


「何、が……?」


 気付くと、俺の手にはあるものが握られていた。

 それは、漆黒の大鎌だった。


 突然現れたその武器は黒く禍々まがまがしい気配を放っている。

 もしかして、この鎌が盗賊の手にしていた剣を斬り刻んだのだろうか?


 ――しかし、こんな大鎌を一体どこから……?


 そして、立て続けに不可思議な現象が起こる。

 困惑する俺の目の前には、追放された時に見た青白い文字列が表示されていたのだった。


==============================

執行完了を確認しました。

執行係数5,483ポイントを加算します。


累計執行係数:5,483ポイント

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   ―― 二年後 ――



「――さま。……アデル様?」

「ん、ああ。メイアか。おはよう」


 まどろみから覚めると、侍女のメイアが覗き込んでいた。

 どうやら寝てしまっていたらしい。


 王家を追放されてから数年は経つというのに、まだあの頃のことは忘れられないようだ。


「おはよう、ではありませんよアデル様。まだお客様がいらっしゃるんですからね」

「と言ってもなぁ。今日は暖かくて気持ちがいいし」


 メイアはわざとらしく頬を膨らませているが、若干の幼さを残す顔でそれをやられても愛嬌が増すだけである。


 身にまとった給仕服は小柄ながらも凛とした雰囲気を持つメイアによく似合っていたし、横にひとまとめにした銀髪も可愛らしさを強調させる役割を担っていた。

 寝起きに見る光景としては悪くないものだ。


「お疲れのようですね。昨日も『仕事』をなさっていましたから無理はないかもしれませんが……」

「まあ、そうだな……」


 このメイアは、俺が王家を追放された後に出会った少女だった。

 時期としては俺が盗賊団に襲われたすぐ後のことだ。


 出会った経緯を一言で語ることなどとてもできないが、このメイアとの出会いが今の状況を作ったことは間違いない。


 今では俺が表向き経営する酒場――《銀の林檎亭》の看板娘をやってくれている一方、「もう一つの仕事」に関しても手伝ってくれていた。


 ――シャリ、と。


 やっぱり眠気覚ましはこいつに限る。

 俺は好物の林檎をかじりながら酒場の様子を眺めた。


 俺とメイアが営んでいる酒場に客はまばらで、店主である俺が寝ていても回っているくらいの状況だ。


 ……。


 …………。


 閉店間際となり、少なかった客もほろ酔い気分を土産に酒場を出ていく。

 そして、最後の客が会計を済ませようとカウンターにやって来た。


 それは端麗な顔つきをした少女で、無骨な冒険者が多く集まる酒場にいるのは少し……いや、かなり不釣り合いな気がする。


「お勘定、お願いします」

「……む」


 少女がカウンターの上に置いた硬貨を見て、俺は小さく声を漏らす。


 ――ゴルアーナ金貨が1枚、シドニー銀貨が12枚、ブロス銅貨が7枚。


 酒場での会計にはおよそ見合わない枚数の硬貨で、金貨まで入っている。


 「仕事」の合図だった――。


「奥の部屋へどうぞ」

「は、はい」


 俺は緊張気味な少女をカウンター後ろの別室へと案内する。


 ――パタン。


 酒場の施錠を終えたメイアが部屋に入ってきて、俺に準備オーケーとの視線を寄越す。


 さて、ここからは「もう一つの仕事」の時間だ。

 俺は一つ息を吐き出し、ソファーに座らせた少女と目を合わせる。


 少女は興奮した気持ちを落ち着かせようとしたのか、一度二度と深呼吸をしてから話し始めた。


「私、リリーナ・バートリーと言います。ある人物への《執行》をお願いしたくて来ました」


 少女改め、リリーナは真剣な眼差しを向けていて、俺は少しだけ昔のことを思い出していた。



 この世は理不尽に満ちている――。


 それは、俺が王宮を追放されてからの日々で実感したことだった。


 理不尽を生み出すのは多くの場合、人だ。

 もっと言ってしまえば、「他人の迷惑などかまわず、自分の都合だけを考えるクソ野郎ども」のせいで理不尽は生まれる。


 そして、そんな理不尽に晒された人間がどういう境遇に陥るのかを俺はよく知っている。


 だから、決めた。

 クソ野郎どもが生み出す世界の理不尽。それを駆逐する《復讐代行屋》を営むことを。


 「復讐は何も生まない」とのたまう人間も中にはいるだろう。復讐は過去に囚われた者の悪しき執着なのだと。


 しかし、全てがそうではないというのが俺の考えだ。


 現在進行形で理不尽に苦しみ、虐げられ、それでも足掻こうとする人間は数多くいたし、かつての俺自身もその内の一人だった。


 そういう人間にとって、復讐とは理不尽の鎖を断ち切るための行為であり手段であり、そして「願い」でもあるのだ。


「どうか、お願いします。もうあなたしか頼れる人がいないんです。最強の……、《黒衣の執行人》とうたわれる、あなたしか――」


 リリーナが懇願するように訴えかけてくる。

 その瞳には、抗いたいという意志が込められているように感じた。


 ――さて、今回はどんなクソ野郎が相手かな。


 そうして俺は今回の依頼者の話を聞くことにした。




==========

●あとがき

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皆さまに面白いと思っていただけるよう頑張りますので、ぜひよろしくお願いします!

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