注釈だけが、透き通る。

夜橋拳

一章 夢の世界

プロローグ

 カレンの誕生日までカウントダウンが開始した。

 まずい、まずい。何も思いつかない。カレンへ何をプレゼントしたらいいのかわからない。

 シスコンである俺は妹に嫌われたくないので、しっかり誕生日を祝わなければいけない。今はまだ一緒にゲームしてくれるが、いつ「もう兄さんとゲームしたくない!」と言われるか分からない。仮に言われたら死ぬ。ちなみに今までにもう三回ほど言われている。つまり俺は三回死んでいる。

 まあ、死ぬも死んだも大袈裟だが、言われたら悲しい。

 つまりカレンの機嫌を取ることは俺の機嫌を取ることと同様だ。今年こそは絶対にカレンを喜ばせなければならない。

 一昨年から去年まで、受験だなんだって言って、色々迷惑をかけてしまったから、それも兼ねて謝礼がしたい。

「そういうのいいよ。私もう中二だし」

 誕プレ何欲しいと聞いたらこれである。

 もー、照れちゃって~、可愛いんだから。

 冗談はさておいて、

 これは言い方的に期待されてない。

 これを意訳するなら「くれるなら貰うけど、別になくてもいいよ」ってとこだろうか。

 一般的な妹の回答だ。冷たい。涙が止まらない。

 受験が終わった後、茜(あかね)と付き合ってからあまりかまってあげられなかったから拗ねてしまったのかもしれない。

 小学生くらいまでは愛想よかったんだけどな~ってあれ、俺が今高一で、カレンが中二だから……二年前だ。受験前関係なくね?

 茜と付き合ってからとか関係なくね?

 実際、関係ない。

 …………。

 まあ普通の妹なんてこんなもんだ。話をしてくれるだけ全然マシな方だ。

 むしろ兄離れしてくれて、俺としては安心だあっはっは。

 悲しい。

 いつまでも兄に甘えて欲しい。

 とげとげしないで欲しい。でもこれに関しては仕方ない。というか人のことが言えない。

 俺も中学生の頃は余裕がなくて周りに当たっていたからだ。カレンは俺と違って優等生なので、俺みたいにはならないだろうが、来年には受験も控えている。カレンの成績ならこの島を飛び出して東京の高校に行くこともできるかもしれない。

 カレンも正直迷っていると言っていた。

 そんな時に受験に成功して恋人と惚気てる兄が気持ち悪いと言うのは普通のことだ。

 だからって妹に嫌われるのは耐えられない。ここは譲れない。

 だから素晴らしい誕生日プレゼントをカレンにあげ、「やっぱりお兄ちゃんは最高だね!」と言ってほしい。

 しかし年頃の妹に何をプレゼントしたらいいかわからなかった。

 小学生までのカレンだったら駄菓子詰め合わせで喜んでたが、今はそれでは喜ばないと思う。

 あー、人の心が読めればいいのにと人並みに思う。

 何もわからないまま日は過ぎて、夏休みになった。明日がカレンの誕生日である。

 一か月考えてもなにも思いつかなかったので、これはもう神頼みしかないと思い、この島唯一の神社、夢見神社に駆けこんだ。

 手をこすり合わせ、跪き、賽銭箱に今あるだけの五円玉をぶち込み、神に願った。

 神様神様夢見様、どうか俺に人の心を読む力をください。

 こんな邪すぎる願い事を叶えてくれる神様があってたまるかい、と内心自分でツッコミを入れつつも、こうすることで少し心が楽になるというか、おまじない的ななにかが自分に掛かって、根拠はないけど上手く行く気がするって思いたかったんだ。

 なら「妹が喜んでくれますように」って願うべきじゃね?

 やっべー願い事ミスったー。もう五円玉もないし終わったー。

 仕方ない、今年も駄菓子詰め合わせを渡すしかないか……

 ……と、思うだろう。

 いや、俺も驚いた。

 まさか、こんな冗談半分のお願い事を聞いてくれるなんて。

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