67話 バンド結成!
「――ひーちゃんは足、もう大丈夫なの?」
「あぁ。だいぶスムーズに歩けるようになってたから、多分大丈夫だと思う」
登校して席につけば、隣にいたあかりが俺に話しかけてくる。
花火を見ることを優先して患部の処置を遅らせたせいか、緋彩の足は完治するまでに約一ヶ月ほどの長い時間を有してしまった。
もっと早くに手当てしていればこうはならなかったのだろうが……彼女はそのことを気にしていないみたいだし、むしろ花火を見られてよかったと表情を嬉しそうに緩めていた。
「全く、ひーちゃんに怪我させたのは彼方君なんだからね」
まぁ、それを言い訳には流石に出来ないよな。
「分かってる、だから責任を持ってあいつの怪我を
「ならいいかもしれないけど……ありがとうね」
「何が?」
先程の怒るような態度から一変して切なげな表情を見せるあかり。
そんな彼女の移り変わりに俺は思わず聞き返してしまう。
「花火だよ。ひーちゃんに花火を見せてくれてありがとうって。中学の頃は、私もひーちゃんのパパが怖くてなかなか誘えなかったから」
「今年は誘えたんじゃないのか?」
「今年は彼方君がいるからいいかなって。彼方君ならひーちゃんを花火に誘ってくれると思ってたし」
言いながら表情をニンマリといやらしい笑みを浮かべる。
態度がコロコロと変わるやつだ。
「まぁ、俺もあいつに花火を見せてやりたかったしな」
「『一緒に見たかったし』の間違いじゃないの?」
「ほざけ」
「またまたぁ。照れちゃって、ツンデレなんだから」
「お前にデレを見せた覚えは一度もない」
「勉強会の時は?」
「い、言うな!」
俺が叫べばそれを面白がるようにあかりはクスクスと笑みを零す。
あかりにからかわれるのは気分が悪くなって仕方がない。
緋彩にからかわれるのは……まぁ、悪くはないが。
にしても、あかりがああ言ったってことは少しか俺も信頼されているのだろうか。
俺を信頼していなければ、あかりはきっと自分で緋彩を花火に誘っただろう。
それをしなかったということは、何かと頼りにされているのかもしれない。
「彼方ー!」
その時、教室の扉を勢いよく開けて入ってきた零弥が俺の名前を呼んだ。
朝から騒がしいやつだな。
「どうした?」
聞き返せば、零弥は目をキラキラと輝かせながらこんな言葉を口にした。
「彼方、バンドしようぜ!」
◆
「――んで、詳しく聞かせてくれるか?」
「おう! 任せろ!」
「何が始まるんですか?」
「聞いててひーちゃん。これから零弥が面白いことを話してくれるから」
「はい……?」
昼休みにいつも通り集まった俺たちは、零弥の勧誘を受けようとしていた。
何も聞かされていない緋彩は俺やあかりに若干の遅れを取っているが、彼女の頭の良さなら特に問題はないだろう。
零弥は朝から変わらずのハイテンションだ。
理由が理由だから、こうなっても仕方ないだろう。
小学生の頃からこいつとずっと一緒にいてきた俺は、そのことを悟っていた。
「いいか? まず今日から約一ヶ月後に学校祭が開かれる。そこで注目してほしいのは、その学祭のプログラムの中に『舞台発表』があることだ。その舞台発表では学年やクラスを超えてチームをつくり、歌や踊りなどを体育館で披露することができる。これを踏まえて俺の話を聞いてほしい」
「まだ本題じゃなかったんですか!?」
「いいツッコミだな、緋彩」
目を見開く彼女に俺は言葉をかける。
それは授業時間に担任が話してくれたんだから、別に話さなくてもいいだろ。
いい加減早く本題に入ってほしい。
零弥は一つ咳払いをすると、俺たち三人を見渡して言った。
「みんな、バンドはやってみたくないか?」
「やってみたーい!」
「バンド……?」
あかりは乗り気のようだが、緋彩に至ってはバンドという言葉自体をよく知らないようだ。
言っていなかったが、零弥は根っからのバンド好きだ。
楽器もギターやベース、ドラムなどを一通りかじったことがあるらしく、たまにそれを俺に活き活きと話してくれることがある。
中学校では軽音部がなかったため、零弥は高校の学校祭でバンドをすることを心待ちにしていた。
だからここまで話に熱が帯びているのだ。
「だけど、俺たちは初心者も同然だ。一ヶ月で本当に人に聞かせられる演奏になるのか?」
「それに関しては問題ない。俺が手取り足取りみっちりと教えてやる」
言葉の言い回しが表情も相まって怖いのだが。
「……まぁ、俺も別に構わない。興味もあったしな」
「ひーちゃんもやろうよ! 絶対楽しいよ!」
「バンド……よく分かりませんが、彼方君とあかりがやるなら私もやります」
どうやら緋彩は本当にバンドが何なのかをよく分かっていないらしい。
これは帰ったら勉強だな。
「でも、楽器やなんかはどうするんだ?」
この高校には軽音部はない。
ゆえに借りることも出来ない。
もちろん俺や緋彩、あかりは楽器を持っていない。
この状況で、どうやって楽器を揃えるのだろうか。
疑問に思っていると、零弥は得意げに鼻を鳴らして言った。
「それに関しては任せてくれ!」
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