18話 取り巻きの宣戦布告

「――バスケか」

「おう、俺らの得意種目だ」

「あんまり目立ちたくはないんだけどな」

「でも、出来ない種目よりはこっちの方がいいだろ?」

「……補欠でいく」

「お前がいなきゃ俺らのクラスは勝てねぇ」

「大袈裟だ」


 黒板に書かれていく名前を見ながら、俺と零弥はそんな会話を繰り広げる。


 球技大会が来月に迫って、学校のざわつきも段々と熱を帯びてきている。

 そんな上がり調子の雰囲気とは裏腹に、俺の心は暗く沈んでいた。


 球技大会は……嫌いだ。


「その……まぁ、なんだ。彼方の気持ちが分かるとは流石に言えない。でも、こんなにクラスが活気付いているんだ。少しくらい力を貸してくれたっていいだろ?」


 俺が力を貸したところで、きっと周りは力を貸してくれない。

 ただでさえクラスで浮いている俺なのに、その上緋彩と付き合っていることへの嫉妬まで含めたら、それは火を見るより明らかだ。


「……別に、俺はこのクラスに何か思い入れがあるわけじゃない。お前も俺の力を買い被り過ぎだ。俺がいなくたって、何とかなるさ」

「彼方……」

「気にしなくていい。お前が負い目を感じて周りと俺を繋げようとしてるのは分かってる。ただ……もう少し時間がほしいんだ」

「……時間、か」

「何度も言ってるだろ? あれはお前のせいじゃない。焦りを感じるのも分かる。でも、もう少しだけ時間をくれよ」


 俺と緋彩をくっつけようとしたのも、球技大会で俺を積極的に活躍させようとしてるのも、全部あのことを負い目に感じているからだ。


 ――なぁなぁ、ちょっと付き合ってくれよ。


 ――人数が合わねぇんだよ、いてくれるだけで十分だから!


 ――四時半にあの喫茶店集合な!


 軽はずみな言動が俺のトラウマを招いたと、零弥は今でもそう思っている。

 でも、違う。

 こいつは機会をくれたんだ。

 その機会を、俺がものにできなかっただけ。


「……分かった。急かしてすまん」

「謝んなよ。お前のせいじゃないんだから」


 相手が暗い顔をしていたら、俺は自然と笑顔になる。

 暗い顔が好きだからとか、そういうのじゃない。

 寧ろ逆だ。

 相手に元気になってほしいから。

 暗い顔をしてほしくないから、笑顔になるんだ。


 零弥は他にいない唯一の理解者で、友達だ。

 そんな人が、俺のせいで暗い顔をしているんだ。

 それでも一緒にいてくれるのだから、こいつには感謝してもしきれない。


 だから俺は、零弥が少しでも明るくなれるように、償いの笑顔を見せるのだ――。






 結局、俺は好きにしていいことになった。

 手を抜いて補欠に入るも良し、スタメンに入り暴れるも良し。

 俺は悩んだ挙げ句に前者を選ぼうと思っていたのだが……どうもそうはいかなくなってしまうかもしれない。


 昼休みになり、いつものように屋上で緋彩のことを待っていたが、いつになっても彼女が来ることはなかった。

 何かあったのかと心配になり彼女のクラスに来てみれば……。


「なぁ柚子川さん。何で柊なんかと付き合ったりしてるんだ?」

「そうだよ。あんな奴のどこを好きになったんだ?」


 このザマだ。

 席に座っている緋彩を複数人の男子が取り囲んでいる。

 しかも、その中には人一倍目を引かれる存在が人集りの中で繰り広げられているやり取りを傍観していた。


 確かあいつは……。


「お前ら、こんなところで何してるんだ?」

「ひ、柊!?」


 なぜ彼がここにいるのか理解出来なかったが、ある程度予想をつけて近づくと、ある一人を除いて案の定怯えられた。


 まぁ、一週間前のことがあったからな。

 噂が広まる時間としても十分だ。


「そうか、君が柊君か」


 そう呟いてこちらに視線を飛ばしたのは、一年生にして学校の王子様と持て囃されている立凪たつなぎ響也きょうや

 面識のない俺でも、緋彩と同じくらいかそれ以上に有名であるこいつを認識していた。


 人当たりが良いことを除けば緋彩の男版のような存在であり、頭が良く、スポーツ万能で、顔も勿論整っている。

 スポーツに関して言えばバスケ部のエース的存在らしく、中学生の時は全国大会にも出場したことのある実力者。

 そのため女子だけに留まらず男子にもウケが良いらしい。

 人気だけで言ったら、きっと緋彩よりもあるのだろう。

 横に置いておく女子なんて腐るほどいるはずのこいつが、何故こんなところで油を売っているのだろう。


「だったらどうした」


 高校に上がってから顔に貼り付けてきた、慣れたポーカーフェイスで応えると、立凪は如何にも感じの良い微笑を浮かべて言った。


「柚子川さんと付き合っているのが柊君だって聞いてね。どんな人なのか気になっていたんだよ」

「……そうか」


 気に食わない。

 貼り付けたような気持ち悪い笑顔と、まるで同級生とは見ていないような接し方。

 君ってなんだよ君って。


「……というか、柊君。僕らって、どこかで会ったことあるかな?」

「いや、気のせいだろ」

「なぁ響也。この二人、似合わないと思わないか?」


 言いながら、緋彩を取り囲んでいた内の一人が俺と緋彩を交互に見る。

 よく本人の目の前で堂々とそんな口が叩けるな。

 ここまで来たら、最早尊敬すらしてしまう。


「それは……」

「柊は、絶対に柚子川さんとは釣り合わない。響也だってそう思うよな?」


 立凪が言い淀んでいる間に、他の男子たちも次々と俺と緋彩が付き合っていることの不満をぶちまけていく。


 緋彩はというと、先程よりも鋭い目つきで取り巻きの男子たちを見つめるだけで、特に口を開くことはない。


 お互いに、考えていることは同じのようだ。


「……まぁ、確かに柊は柚子川さんとは釣り合わないかもね」


 苦笑を浮かべながら渋々といった感じに零す立凪。


「だろ! そう思うよな!」


 立凪の共感を得られたことで沸き上がる取り巻きの男子。

 そんな奴らを尻目に、俺は緋彩の手を取って言った。


「時間がなくなる。早く行こう」

「分かりました」


 こんな奴らに噛みつくだけ無駄。

 腹は立つが、言い返しても火に油を注ぐだけだと俺も緋彩も悟っていた。


 立ち上がる緋彩。

 そんな俺たちを、「ちょ、ちょっと待てよ!」と取り巻きの中の一人が引き止める。


「……何だよ」


 あからさまなため息を付きながら振り返ると、俺たちを引き止めた男はこちらに指を指しながら言った。


「お前、球技大会はバスケに出るんだろ? なら、柚子川さんを賭けて俺らのクラスと勝負しろ!」


 そんな馬鹿げた発言に俺は、


「……は?」


 と、眉をひそめながら素っ頓狂な声を上げるしかなかった。


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れーずんです!

お待たせしてすみません。

実は自分、最近スランプ気味なのです。

執筆する気力がイマイチ湧かないのです。


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評価が貰えたら頑張れちゃう単純な人間なんです。

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