付き合っていた彼女にフられたらタイムリープした話(試作版)

パーシー

一章(試作)

くっくっく、これから俺のラブコメが始まるんだっ!!


 六月。


「花宮君、別れましょう」


 目を伏して申し訳なさそうに別れの申し出をする元彼女。綺麗な金色の髪は相も変わらず輝いている。


「えっ、そんな……」


 放心して膝から崩れ去るをする俺。傍から見れば負け犬同然だろう。


「花宮君よりもいい人が見つかったの。だからこれ以上はごめんなさい」


 来た来た。、おそらく彼女のバイト先にいる男のことだ。最近、俺が彼女をデートに誘っても、バイトだからと断りを入れていたのでおそらくが一番気に入ったんだろう。


「俺じゃ、ダメだったのかよ。そいつのどこが良かったんだよっ……」

「正直に言うと、優しかったわ。と違って。今だって私を引き留めて困らそうとしてるわ」


 その言葉を聞いて俺は顔に手を当ててうずくまる。肩をぴくぴくと揺らしている姿はまるで悲しみの涙が抑えられない悲嘆者のよう。



 カップルが突然別れるなんてよくある話。だが、俺にとっては突然でもなければ、偶然やタイミングなんて問題ではない。これは来るべくして来たものだ。

 


 ……ダメだっ、笑いが抑えられん。俺と違って優しい、ね。ちなみにそのの正体はだ。



「さようなら、花宮君。もう付きまとわないでね」


 付きまとわないでね、だってさ。悪いがこれからはお前が俺に付きまとう側なんだよ。俺を振ったことを後悔しながら高校を過ごすがいいさ。



 元彼女の背中が遠くなる。一切振り返らないその姿は出会ったころと全く同じ光景だ。その姿は俺の最初からの計画を思い出させてくれる。




「……行ったか? よっしゃぁぁぁああ! これを待っていた! 約半年にかけて蒔いた種がここまで大きくなるとはな」


 完全に姿が見えなくなってから、喜びのあまり大げさにガッツポーズをしてしまう。


 長かった。長かったが無事に計画は達成できた。あの時読んだラブコメの再現。

さすがは天才な俺だな。あとはそう、この状況を完遂するだけ。


 くっくっく、これから俺のラブコメが始まるんだっ!!




***


 俺の彼女、いや元彼女は千歳ちとせ愛華あいかは学校でもトップを争う金髪の美少女だ。テストをやらせれば満点を取り、運動させれば皆が羨望し、その笑顔で打ち抜けない男子はいないとまで言われていた。


 一方の俺、花宮はなみや真司しんじは生粋のクズだ。自分でもよく思うが、俺にとっては褒め言葉となっている。


 俺には人の考えがよくわかる。相手が何を求めているのか、何を感じているのかを繊細に読み取ることができる。その力を困っている人にでも使えばいいんだが、あいにく俺はまっすぐ育たなかったようで、高校では色恋沙汰に使うと決めたんだ。




 廊下を歩いていると、さっそく声をかけてくるヒロイン候補が一人。


「あ、あの花宮先輩が振られたのって本当ですか……?」

「……ああ、どうやら俺に足りないところがあったらしい。今はちょっと一人にしてくれないか」


 おっと、いきなり来たな。この茶髪で初々しい後輩は椎名しいな沙織さおり。人に頼りにされるのが好きでいつも他人の問題ばかり抱えているが、そのおかげで人望も厚く、学校内でもかなりの人気を誇るかわいい一年生だ。ちなみに胸には破壊兵器がついている。もう一度言おう、破壊兵器が、ついている。


「そんな…、そんなこと言わないでくださいよっ。私だって辛い時は助けてもらったんです。今度は私が、先輩を支えてあげたいんです」


 うーん椎名かわいい。純粋無垢な心はいつだって正義だわ。俺がずっと目をつけてきただけある。あの千歳とは大違いだ。


「そう、か。ありがとう。その言葉だけでも、ずいぶん心が軽くなった気がする」


 ここではい、彼女のほうを向いて薄っすら笑顔を作る。ここ重要。


「い、いえいえ。私にできることならなんでもやりますから。……その、慰めも、構わないって、いうか…」


 ずいぶんと動揺しちゃってる様子。最後の方の言葉は小さな声で聞こえない、わけがない。俺は鈍感難聴系じゃないからなっ。そのちょっとした顔の火照りも恥ずかしいこと言っちゃたっ、っていうごにょごにょも俺には分かるんだよっ!


「ん? なんか言ったか?」


 もちろんこれ以上追及したら椎名が爆発してしまう。これは俺は夢をみているお前に対してのせめてもの配慮だ。


「も、もう。大事なところはよく聞き逃しますねっ、先輩は!」


 そう言葉を残してトコトコと元の教室へと戻っていった。


 椎名は言っちゃなんだが優良物件だ。見つけたのは彼女が高校に入る前の段階だがここでは割愛。俺の新しい恋愛に一役買ってくれることに間違いない。




***

 


 すこぶる機嫌がいい。言わずもがな、千歳に振られたからだ。ここ一週間は今か今かと振られるのを楽しみで夜も眠れなかった。今日はいい夢を見れそうだ。

 

 睡眠不足な俺とて今日はいつも通りに冴えている。おそらく、次に来るのはスポーツ系幼馴染だ。だが、こいつはちょっと厄介なんだよな。なにせ、


「よっ、花宮。噂聞いたよ」


 片手をあげて、軽い調子であいさつをする腐れ縁。陸上部で焼けた肌に短く切りそろえられた髪。上から羽織っているジャージがいかにもなスポーツ少女感を醸し出している。


「からかいに来たのか? やめてくれよ」

「いやー、なんか企んでるんじゃない? 本当は別れてないとかさー」

「香坂、悪いが今はそんな気分じゃないんだ」

「んー? あたしと話してる時点でそれなりに機嫌いいと思うんだけど」


 香坂こうさか花梨かりん、俺と中学からの幼馴染。中学一年の時からそれなりに仲が良く、もちろん中学から俺のクズっぷりは知られているわけで。


「花宮の演技は天才だからねー。それがほんとなのか分かんないや」

「いいから消えてくれ。中学とは勝手が違うんだよ」


 中学の頃は色恋に関しては全く興味がなかった。むしろ学校をどうやって支配するかだけを考えていたっけ。たしかあと一歩のところで失敗に終わったんだっけか。


「そう、花宮がそう言うんだったらそういうことにしとくね。また一緒にバカしたいなー。その時は呼んでね!」

「お前だけは絶対に呼ばないわ」


 ちなみに中学の時の失敗は半分くらい香坂に要因があったりする。



「そう? あたしは花宮と一緒にいると楽しいんだけどな」



 人の気も知らないで俺を口説くな。そういうところだぞ本当に。


「わ、分かったって。近づくなくっつくな。その時は頼む」


 無意識なのかわざとなのか。距離を自然と詰めてくる香坂は本当に厄介だ。もちろんこいつもかわいいんだが、どちらかというと友達の感覚が強いんだよな。


「そうそう。素直にそういえばいいんだよっ。んじゃまったねー」


 ぴょんぴょんとスキップしながら教室に入る香坂。最後のあいつの顔はすっごい嬉しそうだったしスキップもすごい勢いだし。さすが陸上部。



 おそらくだが、香坂は俺への気持ちに気づいていない系のヒロインだ。自惚れだって? 今に始まったことじゃない。だが、実際にあの千歳は俺に落ちたからな。自惚れるのも当然のことよ。




***




 キーンコーンカーンコーン


 放課後のチャイムが鳴る。俺は帰宅部なのでこの後の予定はない。いつもなら千歳を誘って断られるまでがデイリーミッションだったのだが今日をもって解放された。


「これからどうすっかなー」


 実際のところ、これから先のことを考えたことは全くなかった。千歳に振られるまでにいろんなことを準備してきた。千歳に嫌われると同時に、別の人間としての俺を好きになるようにしたり、椎名に声を掛けたり、香坂と久しぶりに話したし、生徒会長にも気に入られるようにしてきた。そういえば生徒会長は今日は話してなかったな。


「いざ達成すると、頑張る気力が無くなってくるな。これは初めてだ」


 ふと窓を見ると、今日も練習をしているサッカー部と野球部の姿。彼らは青春の一ページを部活動に捧げている。いや、中には一ページではなく全部をささげている生徒もいるのだろう。


 対して、俺はどうだろうか。頑張ることは嫌いじゃない。目的に対して熱中することは大好きだ。だが、この満たされない感覚は何だろう。燃え尽き症候群だとか、バーンアウトとか言われるが、分からない。



「ま、明日になれば忘れてるか」


 重いことは考えすぎない方がいいな。今日はさっさと帰って寝よう。そんで明日からまた目標立てよう。



 そうして椅子から立ち上がった時だった。



「こんにちは花宮さん。初めまして」


 教室の扉を開けて入ってきたのは一人の女子生徒。一般的な夏用の制服を着ているが、魔女がよくつけているを深くかぶっている。


「ハロウィンはまだまだ先だと思うぞ」

「これが正装です。許してください」

「ちなみに顔を見せてはくれないのか?」

「見せたら魔法が解けますので」


 声は聞いたことがない。つまり、俺の知り合いの人間ではないだろう。なら誰がこんなことをするのか。今は忙しくはないし少し付き合ってみるか。


「声からするにまあまあな美少女だとみた。ちなみに俺に対してみたいだがどうなんだ?」

「……やはり恐ろしいですね。顔が見えないとはいえ声だけで見抜いてしまうとは」

「まあな。隠すなら全身モザイクでもしてくるがいい」

「なるほど……」


 体の硬直、握っている手などを見ればわかる。それよりも彼女の目的だ。俺に対して何かしらの因縁を持っているなら、こんな無駄話をする意味はないはず。


「穏便に済まそうと思ったのですが、これは強硬策に出るしかないですね」

「おいおい、物騒なことはやめて話し合いで解決するべきだと思うぞ」



「花宮さん。千歳愛華さんとことはできませんか?」



 まず第一に思ったのは、よりを戻していただく、という言い回しに引っかかった。振ったのは千歳、振られたのは俺、なのに復縁を俺に頼んだ。この事実だけ見ればこいつは矛盾している、のだが。


「まてまて、俺は千歳に振られたんだ。俺だって、もう区切りをつけたんだ」


「なるほど。あくまでしらを切るんですね。ここ数週間、千歳さんの周りにいた男たちはどれも花宮さんですよね? バイトの後輩も、ナンパしてきた男も、塾の講師に至るまで花宮さんだと思いますが」


 バレてる、という驚きはあるものの第三者から見れば看破するのは容易なことだ。だが、彼女の不気味さや情報の正確さが相まってまずい雰囲気を感じる。


「……ああ、そうだ。全部俺だが、千歳のためにやったことだ。今となっては水の泡だがな」

「なるほど。では私が今からと言ったらどうします?」

「は?」

「花宮くんにチャンスをあげます。あっけなく振られた花宮くんですが、後悔も多いことでしょう。ですので、チャンスをあげると言っているのです」


 なんかすごい超能力的なこと言っているけど全くわかんねえ。つまりあれか? 時間を遡るってことなのか?


「何を言いたいのか知らないが、俺を? なら俺を応援する真似はどういうつもりだ」


 俺の質問に少し間を開ける魔女。そして、



「千歳ちゃんにも、花宮くんにも、幸せになってほしいのです。それは、私にはできないことですから」


「まったく意味が分からないんだが……。お前は一体」

「無駄話はここまでです。どこまで戻るかはわかりませんが、やるだけやってみましょう」

「え? ちょ、おい! その杖はなんだ。先っぽ燃えてねえか!?」

「魔力の光です。では夢の国まで、いってらっしゃい」

「アトラクションじゃねえ、だろって。あれ? なんだか、体が……」



 体が宙に浮いている感覚。いや実際には体は力が抜けてぐったりしているだけだが、意識が遠のいているのがはっきりと分かる。


「あ、花宮くん。千歳さんとやり直さないと永遠に繰り返しますからね。ではあっちの私によろしく言っておいてください」


 もはや魔女の言葉は俺の意識に直接語り掛けているようだ。ダメだ。もう何も考えられない。魔女の言った通りなら過去に戻るのか? なにも、わからない。











 六月。


「花宮君、別れましょう」


 目を伏して申し訳なさそうに別れの申し出をする元彼女。綺麗な金色の髪は相も変わらず輝いている。


「えっ、そんな……、あれ?」

「…どうしたの花宮君。現実が受け入れられないかしら」


 まったくもってその通り。現実が受け入れられない。何せ、


「まじで戻ったの? というかすでに詰んでね?」

「…意味のわからないこと言わないで。というか、花宮君のその顔初めて…」

「千歳さん別れたくないです俺」

「……もう無理よ。私はもう花宮君のことを好きじゃないの」


 これ、また今日に戻ってる。あの魔女の言っていることは本当なのか? というか、なんで振られる直前なんだよ。もっと頑張れよ。


「さようなら、花宮君。もう付きまとわないでね」


 待ちに待ったその言葉。だが二回目となるとその感動はもはや空虚なものになる。


 そうこれは正真正銘の。


「過去に戻ってるじゃねえか。タイムリープじゃねえか……。おいコラァ!! ふざけんじゃねえ!!!」



 

付き合っていた彼女にフられたらタイムリープした話 開幕

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る