第59話
『片腕のレフト!!意識不明…!!戦闘続行不可能…!!よって勝者は仮面の騎士だぁあああああああああ!!!』
「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
「ふぅ…」
武闘祭二日目の最終戦。
本日三人目の対戦相手に勝利した俺は額の汗を拭う。
目の前で伸びているのは、片腕の白髪頭の爺さん。
アナウンスの解説曰く、前回大会で結果を残した恐ろしい体術の使い手だったらしい。
俺には他の選手との違いは全くわからなかったが…確かに爺さんにしては動きは素早かったと思う。
レベルの差というのは残酷だ。
…すまんな爺さん。
『仮面の騎士の進撃は止まらないぃいいいいいいいい!!!一体この男はどこまで強いのかぁあああああ!?!?』
勝者である俺の腕を掲げて、アナウンスが観客を煽る。
「うおおおおおおおおお!!!」
「仮面の騎士ぃいいいい!!!」
「お前が最強だぁあああああ!!!」
「このまま優勝まで突っ走れぇええええ!」
観客たちが総立ちになって俺に歓声を送る。
ここまで予選を全て楽勝で勝ち抜いてきたために、ずいぶん俺の名前が広まってしまった。
本来はあまり目立ちたくないのだが……まぁ、素顔を隠しているし問題ないだろう。
「それじゃ…俺はこれで…」
予選二日目の戦いを終えた俺は、そそくさとその場を去る。
『あっ…ちょっと待ってください!!仮面の騎士選手…!ちょっとしたインタビューを…!』
背後で俺を呼び止める声がするが、俺は無視してコロシアムを後にしたのだった。
「よし…誰も見ていないな…?」
控室に戻った俺は、誰も見ていないのを確認してから自分の仮面をとった。
そして仮面を隠し、王城目指して帰路に着く。
その途中、ゾロゾロとコロシアムから出てくる観客たちと一緒になった。
「いやぁ、すごかったな仮面の騎士…」
「そうだな…!ここまで六戦全て圧勝。まさに化け物だぜ…!」
「猛者の集う武闘祭だ。どんな強者だって多少苦戦を強いられる。だのに、全ての戦いで楽勝だからな…底知れない実力を感じるぜ」
「どこまでいくんだろうな…?この調子だと本大会出場枠は取れそうだよな…」
「そうだな。ただ、本大会での優勝は難しいだろうな」
「俺もすっかり仮面の騎士のファンになっちまったが……今回の大会は流石に武が悪い。なんてったってあの勇者が出場するらしいからな」
「それなら俺も聞いたぜ……本当なのか?勇者が武闘祭に出るっていうのは…」
「どうやら噂じゃないらしいぜ……お告げの巫女によって選ばれた、いずれ世界を救う英雄が、武闘祭に出るらしい…」
「まじかよ……魔王を倒す前の準備運動ってか…?伝説の勇者とか誰が勝てるんだよ…」
「剣聖でも無理だろうな…仮面の騎士でも厳しいか…」
観客たちのそんな声が聞こえてくる。
皆、今大会で誰が優勝するのかを話し合っているようだ。
大方の意見は、勇者の優勝というもの。
そりゃそうだ。
魔王を倒し、世界を救うはずの英雄が、ただの武芸大会で負けていいはずがない。
「やれやれ…俺だってそう思いたいよ…」
だが、現実は違うのだ。
あの傲慢勇者なら、その辺の戦士にだってヘタをすると足を取られかねない。
ましてや修行編のラスボス、剣聖のアルフレッドには逆立ちしたって勝てないだろう。
…故に。
俺が予選の段階で猛者を全員叩き潰しておかなくてはならないのだ。
「世話のかかる勇者だ…」
俺は恨みがましくそう呟きながら、城への帰路を急ぐのだった。
その翌日。
「どこにいくの?グレン」
「うげ…」
早朝からそそくさと城を出て行こうとした俺は、廊下で呼び止められる。
恐る恐る振り向くと、しかめ面をしているアンナがそこに立っていた。
「な、なんだよアンナ…」
「どこにいくの、グレン。三日も連続で」
「いや…別に。その辺をぶらぶらと。気分転換に…」
「三日連続で気分転換?」
「…はい」
「ふぅん…」
「な、なんだよ…」
明らかに疑っているような視線を向けてくるアンナ。
俺はゴクリと唾を飲む。
「私もついていっていい?」
「そ、それは…だめだ…」
「へぇ。どうして?」
「いや…どうしてって…」
「ただその辺を歩いているだけなら別に私がついていっても問題ないよね?」
「いや…あ、アンナにはアレルのことを任せたいというか…」
「アレルは私が何言っても無駄だよ。今日もどうせ剣の鍛錬はサボる」
「…そ、そうかも知れないが」
「ね?グレン。ついていってもいいよね?」
「…っ」
「いいよね?」
「あ、アンナ…」
「何…?」
「すまんっ」
「あっ!!」
俺は全力でその場から逃げた。
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