第50話


「まぁ…ギリギリ及第点か…?」


アレルがデュークに勝った後。


自分の部屋へと戻ってきた俺は、アレルとデュークの戦いをそう結論づけた。


出来ればアレルにはデュークに圧勝して欲しかった。


あのイベントはそこまでクリア困難なものではない。


デュークは勇者アレルにポテンシャルで負けているわけだし、左目が義眼であるという弱点もある。


アレルには落ち着いて戦い、デュークの弱点を見抜いた上で圧勝して欲しかったのだが…


「ロウリア王や観衆たちの反応……正直かなりアレルに疑念を抱いていたよな…」


アレルの戦いを見た周囲の反応は、正直言ってかなり微妙だった。


彼らはアレルがデュークに圧勝すると思っていたのだろう。


蹂躙するような、差を見せつけるような戦いを望んでいたはずだ。


だが、アレルはデュークといい勝負をしてしまった。


これで彼らはまた少しアレルの実力に疑念を抱くことになっただろう。


アレルがデュークに負けるという最悪の事態は防げた。


だが、あの調子だとアレルはどこでやらかすかわからないし、今後もサポートが必要だろうな。


「やれやれ……そろそろ俺はフェードアウト出来るかと思ったんだけどな…」


アレルが物語の軌道に乗ったら、魔族のことはアレルに任せて俺は自由気ままに世界を旅でもしようと思ったんだけどな。


今の調子だと、アレルをもう少し見守ってやらなければなさそうだ。


コンコン……


「ん…?」


そんなことを考えていると、ドアをノックする音が。


俺は嫌な予感がして、恐る恐る誰何を問う。


「誰ですか?」


「グレン……私です。クレアです。開けてください」


「…っ」


まじかよ。


そう思いながら、俺はドアを開ける。


「クレア王女。さあ、早く」


「はい!!」


クレアは周りに誰の目もないことを確認してからスッと部屋の中へ入ってきた。


「よかったです…誰にも見つかりませんでした…」


扉が閉まり、ほっと胸を撫で下ろしたクレアが、俺を見つめてくる。


「な、なんのようでしょう…クレア様…」


「ねぇ、グレン……その、あなたにどうしても伝えなくてはならないことがあって…」


「え…?」


クレアが何やらモジモジとしながら俺を見つめてくる。 


「その……こ、婚約のこと…」


「婚約?」


「勇者様との婚約のことです…」


「あぁ…」


「その、あ、あれは……お父様が勝手に決めたことで……わ、私がそうしたいわけじゃありませんから…」


「え、いや…それは…」


「わ、私は……王女で…自分の立場もわかっているつもりです……で、でも…私だって女なんです…自分の好きな人と結婚したいし、まだ諦めるつもりはありませんから…」


「はぁ」


「だから……その…か、勘違いしないでいただけると…」


「いや……クレア様……その俺なんかがいうのもあれですけど……勇者様とあなたは結構お似合いな気が……」


「え…?」


「世界を救う英雄とこんなに美しい王女様の結婚は…国民もさぞ祝福するかと……」


俺はこの機にアレルとクレアをくっつけようとそんなことを言った。


だが、逆効果だった…


「そ、そんな……グレンからそんなこと言われるなんて…うぅ…ひぐっ…ぐすっ」


「ちょちょちょ、えぇええ!?クレア様!?何で泣いてるんですか!?」


「なんでなのか私にもわかりません…でも、あの人と結婚するなんて考えたら……悲しくて涙が……」


「そ、そんなに…?」


なんでそんなにアレルは嫌われているんだ?

あいつ俺の見えないところでクレアに何かしたのか?


「と、とにかく泣き止んでくださいっ…俺が出過ぎたことを言いました…!謝ります…!」


「いえ…グレンは何も悪くないです…悪いのは我儘な私です…」


目尻の涙を拭うクレア。


目を赤くして涙ぐむ王女様の姿は、失礼ながらかなり可愛いと思ってしまった。


「いきなり泣いちゃってすみません……でもグレン…私はあなたに勘違いしてほしくなかっただけなんです…」


「勘違い?」


「はい…この私の気持ちを、わかって欲しかった。私は城から連れ出してくれたあなたのことを特別に思ってるんです……勇者様のことはグレンほど大切には思ってないし…思えないんです」


「…っ」


え、これ告白…?


告白なのか…?


俺知らない間にもう王女様攻略しちゃったの…?


俺は思わず声を上げて喜びたいところをグッと堪える。


クレアから特別に思ってもらえるのは嬉しい。


だが、それではダメなんだ。


ここは心を鬼にして嫌われる努力をしなければ。


なんとしてでもストーリーを元の形に戻すために、クレアの俺に対する好感度を今ここで下げる…!


「どうして何も言ってくださらないの…グレン…?」


「クレア王女……あなたの気持ちは嬉しいです…だが……どうやらあなたは少し勘違いをしているようだ」


「勘違い…?」


「はい。俺は……あなたが思っているような男ではないんですよ。ぐへへ…」


俺は口元に下卑た笑みを浮かべながら、手をわきわきさせる。


「だって俺は……今、あなたのその胸を揉みたくてうずうずしているのですから…!!」


「え…」


クレアが固まる。


流石のクレアもこれには引いただろう。


いきなりこんなことを言ってくる男に好感を持つ女がいるわけがない。


十中八九俺は引かれて、クレアから見向きもされなくなるだろう。


…ちょっと勿体無いというか心苦しいけど仕方がない。


これも歪んだストーリーを軌道修正するためで…


「いいですよ」


「…はい?」


「いいですよ、グレン」


「え…」


「あなたが望むなら……私はかまいません…」


そう言ったクレア王女が、ぐっとその胸を恥ずかしげに目を閉じながら俺の前に差し出した……


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