第40話


剣で草や枝を切り分けて、森の中を無理やり進んでいくアレル。


護衛の騎士たちが心配そうに見ているが、アレルはモンスターが突然襲いかかってきても勝てると思っているのか、速度を緩めない、


『グゲゲ…!!』


そんなアレルの前に、茂みの中から一つの影が躍り出てきた。


醜悪な面の緑色の小鬼。


雑魚モンスターの代表格のゴブリンだ。


「うおおおっ!?……って、ゴブリンか…」


突然のゴブリンの出現に驚き、身構えるアレルだったが、相手がゴブリンだとわかるや、緊張を解いた。


「お気をつけください、勇者様…!」


「慎重に…相手の動きを見極めて…」


初めてのモンスターとの戦闘。


周りの騎士たちが、いつでもゴブリンを始末する用意を整えながら、アレルにそんな助言をする。


「だ、大丈夫かな?」


アンナもその背後から心配そうにゴブリンに対峙するアレルを見守る。


「…まぁ、大丈夫だろ」


ゲームプレイ時の記憶を思い起こせば、王都周辺の森で、勇者を脅かすような強力なモンスターは滅多に出てこなかったはずだ。


ましてや相手は雑魚モンスターのゴブリン。


いくらアレルが慢心していたとしても簡単に仕留められるだろう。


『グゲェエエ…!』


ゴブリンが、その手に持った短剣を振り上げてアレルに襲い掛かる。


「ふんっ」


アレルがぞんざいに剣を横薙ぎにした。


斬ッ!!


ボト…


『…』


ゴブリンの握る短剣よりも圧倒的にリーチの長い長剣が、ゴブリンの首を刈り取った。


切り落とされた首が地面に転がり、遅れてゴブリンの胴体も地面に倒れる。


「おぉ…!」


「素晴らしい…!」


周りの騎士たちがパチパチと拍手をし、アレルを称賛する。


「このぐらい当然だ」


アレルはそう言って胸を張った。


「ほっ…」


俺の隣ではアンナが安堵の息を漏らし、俺も初のモンスターとの戦闘に勝利したアレルに一応、心の中で称賛を送るのだった。



その後もアレルはモンスターとの戦闘を苦戦することなくこなしていった。


かなり運がいいのか、アレルの前に現れるモンスターは雑魚ばかりで、アレルはゴブリンやスライム、ウルフ、リトルベアーなどの雑魚モンスターを、一撃の元に葬り去っていった。


「ははは…!すげぇ…!これが勇者の力か…!」


アレルが血に染まった剣を掲げて、そんなことを言う。


「見事ですぞ、勇者様」


「さすがです、勇者様」


やめておけばいいのに、周りの騎士もそんなアレルを煽てる。


あまり調子に乗ると痛い目見るぞ、アレル。


今日はこの後に重要なイベントが起こるんだからな。


そのイベントは、かなり気合入れないと乗り越えられないぞ。


「さて…そろそろ十分ではないですかな、勇者様」


「ええ。初めての実践訓練にしては上出来です。そろそろ引き返したほうが…」


「何言ってるんだ!!まだまだこれからだろう…!」


帰還を提案する騎士たちを、アレルが一蹴する。


「俺はまだまだ体力がある。どんどんいくぞ…!」


「し、しかし…」


「あまり無理をなさらない方が…」


「大丈夫だ。どんなに強いモンスターが出てきても俺が倒してやるから」


自信満々のアレル。


どうやらアレルは確実にこの後のイベントを踏むルートへと入ってしまった。


実は今の騎士たちの帰還の提案が分岐点だったのだ。


「さあ、行くぞ…俺についてこい…!!」


アレルは意気揚々と森の奥へ奥へと進んでく。


騎士たちは渋々と言ったようにアレルに付き従う。


「だ、大丈夫かな…?」


アンナが不安げに俺の方を見る。


どうだろうな。


俺もなんとなく嫌な予感がするんだが…


「う、うわぁああああああ!!!」


「ふぇ、フェンリルだぁあああああ!!!」


その後俺たち…と言うよりアレルは順当にイベントに差し掛かった。


雑魚モンスターを倒しながら森の奥へ進む俺たちの前に現れたのは、白い毛並みの全長十メートル以上の巨大な獣。


伝説の魔獣、フェンリルだ。


「おい、どうしたんだ?お前ら」


他の騎士たちの焦りようにアレルが首を傾げる。


「こんなの、あだ図体がでかいだけの犬じゃないか」


フェンリルの正体がわかっていないアレルが呑気そうにそういった。


一方で、伝説の魔獣の恐ろしさがわかっている騎士たちは血相を抱えて叫ぶ。


「お逃げください勇者様…!」


「そいつはフェンリル…!!普通のモンスターとは格が違います…!我々だけではとても…」


「は…?」


アレルがポカンと口を開ける。 


その直後だった。


『ギャァおオオオオオオオ!!!』


フェンリルが大口を開けて咆哮した。


するとアレルの周りの騎士たちが次々に倒れていった。


フェンリルの咆哮は、聞いただけで格下の意識を刈り取ってしまうのだ。


「あ…」


俺の隣にいたアンナが意識を失って倒れた。


「う…」


俺も、この場は倒れておくのが自然だろうと思い、それっぽい演技をして倒れておいた。


それからうっすらと目を開けて、アレルの様子を伺う。


「…頑張れよ、勇者。あとは任せた」


これであとはアレルが死闘の末にあのフェンリルを倒し、フェンリルが屈服してアレルの仲間になることでこのイベントは消化される。


頑張れよ勇者。


俺は一切手を出さないからな。


あれだけ威張ってたんだ。


自分の力で成し遂げろよ。












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