第28話


アレルが再度引きこもってしまった。


かませ犬だったはずのルクス王子に負けたのが相当ショックだったようだ。


『この男を城からつまみ出せ…!こいつは勇者ではない…!』


アレルを瞬殺したルクスは、アレルを城から追い出そうとした。


その場は、周りの見物人たちが介入してなんとか止めたが、しかし城内でアレルが勇者であることを疑う声がますます増えた。


…まずい。


これは非常にまずい展開だ。


もしアレルが勇者じゃないなんてことになったら、当然俺もこの王都を追い出されるだろう。


俺はなんだかんだ言って城での生活が気に入っている。


王城で俺たちが現在送っている豊かな生活は、間違いなくこの世界の最高基準のものだろしな。


だからなんとかしてアレルが勇者であることを城の人間たちに認めさせなくてはならない。


「…仕方ない。こうなったら直接…」


こうなった原因は一つだ。


それはアレルがいまだに勇者の力に目覚めていないということである。


本来、物語の主人公である勇者アレルは、ここ王都に来る途中の馬車で魔族に襲われ、そこで力を覚醒させるはずだった。


だが、アレルはそこで力を覚醒させることができず、魔族は俺が倒す羽目になった。


それから今まで、アレルは勇者の力に目覚めておらず、かませ犬のルクスにも負けてしまった。


しかし、勇者としてのアレルの力は本物だ。


それはゲームをエンディングまでプレイした俺が1番よく知っている。


だから、俺が直接アレルと戦い、力を覚醒させる。

そうすれば、自ずと城でのアレルの評価も上がることだろう。


そう考えた俺は、夜間、早速アレルの部屋を訪ねた。


「アレル…起きてるか?」


静まり返る廊下。


月の光が周囲を照らす中、俺はアレルの部屋をノックする。


「…誰だ?」


どうやらアレルは起きているようだった。


おそらくルクスに負けたことがショックで眠れなかったのだろう。


「俺だ。グレンだ」


「…グレン…なんのようだ?」


「話がある。とても大事な話だ。ここを開けてくれ」


「…無理だ。今は1人にしてくれ」


「いいや、今じゃなくちゃだめだ。本当に大事な話なんだ」


「…悪い…今は誰にも会いたくない」


アレルの自信を喪失したような声がドアの向こうから聞こえてくる。


さて、どうしようか。


普通に呼びかけても、アレルは出てきてくれそうにない。


だったら…


「本当に大切な話なんだ…アンナの…アンナに関わる話なんだ…これをお前に伝えておかないと…アンナに何があるかわからない」


「…っ」


「アレル。頼む出てきてくれ。アンナがどうなってもいいのか?」


ドアの向こうで人が動く気配があった。


しばらくしてガチャっと、ドアの開く音がする。


「…卑怯だぞ」


顔を覗かせたアレルが、俺をジロリと睨む。


顔がげっそりと痩せて、目は赤く腫れていた。


これは相当泣いたな。


「よかった。ようやく開けてくれたな」


「…アンナに関わる話ってなんだよ」


「悪い。それは嘘だ」


「は…?」


「こうでもしないとお前がここを開けてくれないと思ってな」


「…ふざけんな」


「おっと」


ドアを閉じようとするアレル。


俺は慌てて足を挟む。


「はぁ…なんなんだよ…」


アレルがうんざりしたように嘆息した。


俺はそんなアレルの腕を引っ張って無理やり外に連れ出す。


「こい、アレル」


「おいおい…なんだよ…」


「いいから」


俺はそのままアレルの手を引いて歩く。


そうしてやってきたのが、昼間、ルクスとアレルが勝負した中庭だ。


俺はあらかじめ用意していた木刀をアレルに渡す。


「は?なんだよ急に…」


アレルがポカンとする中、俺は自分でも木刀を構え、アレルに手招きをする。


「こい、アレル。俺が相手してやるよ」


「はぁ…?」


「昼間。ルクス王子に負けて悔しかったろ?俺が鍛えてやる」


「おいおい、なんの冗談だ」


「今のお前は自分が勇者かどうかも疑ってる。違うか?」


「…っ」


アレルの表情が歪んだ。


やはりそうか。


昼間の敗北を受けてこいつは、自分が勇者であること自体を疑っているようだった。


「安心しろアレル。俺が保証する。お前は勇者だ。世界を救う救世主だ」


「…お前が保証したって意味ねーよ…俺は勇者なんかじゃない。あの王子が言っていた通り、俺には魔王を倒して世界を救う力なんてない」


「いいやある。昼間、あの王子にお前が負けたのはお前がまだ力に目覚めていないからだ。勇者の力に目覚めれば、あの程度の相手、片手でもあしらえるようになる」


「…意味がわからん。何を根拠にお前がそんなことを…」


「アンナを守れなくてもいいのか?」


「…っ!?」


ウジウジとうるさいアレルに、俺は効果的に刺さる言葉を選択してぶつける。


「弱いままでいいのか?大切なものを守れないままでいいのか?」


「…っ」


「アンナは一度死にかけた。俺たちの村をモンスターが襲った時に。あの時は奇跡的に助かったが……しかし次がないと言い切れるのか?あの時、お前に力があれば、アンナを危険に晒さずに済んだんじゃないか?」


「そ、それは…」


アレルの表情が揺らぐ。


よし。


もう一押しだ。


俺はアレルを焚きつけるために、さらに言葉をぶつけるのだった。




〜あとがき〜


ここまでお読みくださりありがとうございます。


この作品と現在同時並行で、


『道端に落ちてた野良サキュバスを拾ったら、美少女とセックスしまくりのハーレム学園生活始まったんだが』


というラブコメ作品を連載中です。


そちらの方も是非よろしくお願いします。




  

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