第14話


目が覚めると知らない天井だった。


「…あぁ、そっか。俺、王城で暮らすことになったんだっけか」


天井を眺めているうちに、俺は昨日のことを思い出す。


アレルと一緒に俺は王都にきて、王城で暮らすことになったのだ。


おそらく今日からアレルの修行編が始まる。


勇者になるために剣の扱いや戦い方などを学ぶのだ。


俺はその間暇になるだろうから、王都を散策してイベント回収とかをしようと昨日決めたんだった。


「さて…起きるか」


俺は体を起こす。


ちょうどそのタイミングでコンコンとドアがノックされて、俺の世話係のメイドが入ってきた。


「朝食をお持ちしました」


「おぉ…」


美味しそうな朝食から湯気が出ている。


俺は朝食を食べたのち、着替えて中庭へと降りた。


「あ、おはよう。グレン!」


中庭に現れた俺の姿を認めたアンナが駆け寄ってきた。


「おはようアンナ。もう起きてたのか」


「うん…グレンはよく眠れた?」 


「おう。ぐっすりだ。アレルは?」


「あそこ…」 


「おぉ…もう訓練始まってんのか」


アンナが指差した先では、アレルが数人の騎士たちに囲まれて木刀で素振りをおこなっていた。


すでに修行編が始まっているようだった。


「頑張れよ、勇者」


俺は汗をかきながら木刀を振るアレルに小さくエールを送る。


魔王はすでに俺が倒してしまったが、魔王を蘇らせようとする魔族は健在だ。


これから魔族に脅かされる人たちを守るためにも、勇者アレルの存在は必要だろう。


「俺たちは何をすればいいんだ?」


王城に住ませてもらっている手前、何かしらの仕事が与えられているのだろうか。


そう思って俺はアンナに尋ねてみたが…


「ううん…特に何もしなくていいって。強いていうなら勇者のそばにいて落ち込んだ時とかに励ましたりしてサポートしてほしいって」


「なるほどね」


まぁ、そうだよな。


何の力も持たない一介の村人が修行をしたところで、勇者のように世界を救う存在にはなれないからな。


俺たちのことはアレルの希望でここに置いておくものの、基本放置ってことか。


それがありがたいんだけどな。


「私たち、どうしよっか?」


「俺は少しすることがある。アンナはアレルを見ていてくれ。頼んだぞ」


「あっ…グレン!?」


俺はアンナにアレルの面倒を押し付けて、その場を後にしたのだった。





「さて…イベント回収しますか!!」


数分後。


俺は城を抜け出して、王都の街中にいた。


立ち並ぶ家々。


行き交う人々。


王都はイベントの宝庫だ。


ちょっとした路地裏に、いろんなイベントが散りばめられていて、全てを回収するのにかなりの時間がかかったと記憶している。


アレルが修行している間、俺はすることもないのでそれらを回収していくつもりだった。


「〜♪」


鼻歌を歌いながら王都を歩き回る。


マップは頭の中に入っているため、迷うこともない。


「さて…まずはあのイベントにしますか」


王都の景色を眺めながら、俺は近くで発生するイベントを頭の中で思い浮かべ、最初に回収するイベントを決める。


「確か、こっちだったよな」


ゲームプレイ時の記憶を頼りに石畳の趣ある街を進んでいくと、予想通りの光景が目に飛び込んできた。


「ぐぉおおおお!!抜けろぉおおおお!!」


「行けぇえええええ!!」


「これは今度こそ来たんじゃないか!?」


地面に刺さった剣の周りに男たちが何人も集まって、何やら騒いでいる。 


上半身裸の筋骨隆々の巨漢が、地面に刺さった剣の柄に手をかけて、思いっきり引き抜こうとしている。


「ぐぉおおおおおお!!!」


巨漢は顔が真っ赤になるまで力を込めるが…


「ぐっ…くそぉ…」


全くびくともしない剣に、ついには諦めてしまう。


「だめかぁ…」


「今度こそはと思ったのになぁ…」


それを見た周囲の男たちが、がっかりしたように肩を落とす。


「無駄だよ」


残念がる男たちに、近くに座って見守っていた老婆が言った。


「それは勇者の剣。勇者の素質があるものにしか抜けない剣なんだ。いくら力を込めたって無駄だよ。怪力があれば事足りるってものじゃないんだ」


「おぉ…」


ゲームと全く同じセリフに、俺は感動する。 


これは勇者の剣のイベント。


筋骨隆々の力自慢たちがいくら力をこめてもぬけない地面の剣を、勇者アレルがあっさりと引き抜くというイベントだ。


地面に刺さっているのは、かつて魔王を倒した先代の勇者がこの地を訪れた時に残していったとされている伝説の剣。


それを抜くことができるのは、勇者の素質を持つものだけだという逸話が伝えられているのだ。


「さぁて、やってみるか…」 


俺は嬉々として勇者の剣に近づいていく。


「お…挑戦者か?」


「おいおい、子供かよ。流石に無理だろ」


「おいガキ。お前にゃ流石に無理だ」 


俺の体格を見た男たちがゲラゲラと笑う。


「む…」


だが、先ほどの老婆だけがじっと俺を見つめていた。


「にっ」 


「…!?」 


俺はその老婆にニヤッと笑い返す。


ちなみに何だが、この婆さん、実は先代の勇者のパーティーにいた英雄の1人だ。


先代の勇者はもう二百年も前に死んでいる。


ではなぜこの婆さんが生きているのかというと、それは婆さんが長寿の種族、エルフだからだ。


婆さんは、二百年前からずっと、この地で剣を守り、次の勇者が現れるのを待っているのだ。  


「お、お前はまさか…今代の勇者、なのか…!?」


婆さんが期待を込めた目で俺をみる。


「どうだろうな」


まぁ実際には俺は勇者じゃないんだけどな。


でも今の俺はレベル999だし、勇者じゃなくとも剣を抜ける……と思う。


「剣を抜けば……あのアイテムもゲットできるしな」 


この剣を抜くと、婆さんが「これをお前に託すよ」と風の指輪というアイテムをくれる。


これはつけるだけで風の加護を受けられて、足が速くなるので、是非ともゲットしておきたいのだ。 


「じゃあ、行くぞ……!!!」


俺は剣のつかに手をかけて力を込める。


「ふんっ…!!」


なかなか重たい。


そりゃそうだ。


俺は勇者じゃないからな。


けど、レベル999となって強化された今の俺の力なら…


ゴゴゴゴゴ…


「お、おい…なんか地面が揺れてねぇか!?」


「おいおいおいおい!?」 


「こ、これは…!」


男たちが動揺し、婆さんがカッと目を見開いた。


「どりゃあ!!」


行ける!と思った俺は、思いっきり力を込める。


ボゴォ!!!


「「「「えぇえええええええ!?!?」」」」


その場にいた者たちが、婆さん含めて驚きの声をあげる。


「あちゃー。こうなったか」


俺は頭を抱える。


一応、剣は抜けた。


…刺さっていた地面と一緒に。

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