第11話
アレルがいつまで経っても勇者の力に目覚めないため、俺は魔族と戦って倒すことにした。
アレルを殺すために馬車を襲った魔族はゆっくりとこちらに近づいてきている。
ゲームのシナリオ通りなら、周囲に仲間はいないはずだ。
あの魔族は魔族の中でもかなり強力な個体で、たった一体で勇者アレルを殺しにきたのだ。
「さて…」
俺は俺以外の3人を確認する。
お告げの巫女は…魔族の一撃をくらい、気絶しているようだ。
覚醒するはずだったアレルも……息も絶え絶えになって意識があるのかどうかも怪しい。
「グレン…!!ここは私に任せて…逃げて…!」
そしてアンナは、どうやら自分を囮にして俺を逃すつもりらしい。
仲間思いのアンナらしい行動だ。
「悪いな。アンナ。少し寝ててくれ」
「え…?」
俺は背後からアンナのこめかみに手刀を食らわせる。
アンナが一瞬で意識を失って気絶した。
「よっと」
俺は倒れるアンナの体を抱き止めて、地面に寝かせる。
「よし」
これで目撃者がいない状態で思う存分に戦うことができるな。
『ん…?なんだ…?お前は』
魔族が俺をギロリと睨む。
『他のやつとは気配が違うなぁ…この中で1番強いのはお前のようだ…ひょっとして勇者はお前なのか…?』
「違う。俺は勇者じゃない。ただの勇者の幼馴染だ」
そして魔族よ。
お前たちが復活させようとしている魔王。
実は俺がすでに殺したんだ。
本当にすまんな。
『ただの幼馴染…ククク。それが本当かどうか、俺には判別がつかねぇな…だが、関係ない。全員殺せばいい話だ』
魔族が動いた。
ものすごいスピードだ。
低レベルのものにはほとんど消えたように見えるスピードだろう。
だが、レベルアップによって動体視力が強化されているらしい俺には、一瞬のうちに俺の背後に回った魔族の姿がばっちりと確認できた。
『背後だ…!』
背後からの魔族の攻撃。
「知ってる」
俺は魔族が俺の頭に振り下ろそうとしていた拳を、片手で受け止めた。
『な…んだと…!?』
魔族が驚愕に目を見開く。
「ほらよ」
『ぐぅ!?』
そんな魔族に俺は腹部目掛けて回転蹴りを放った。
三メートルを超える巨体が吹っ飛んでいく。
「あ…すまん」
掴んだ魔族の腕を離すのを忘れていた。
おかげで魔族の右腕がその体から離れて千切れ、俺の手の中に残ったままだった。
『ぐぉおおおおおお!?!?』
魔族が低い悲鳴を上げる。
俺は千切れた腕から紫色の血を流しながら膝をついている魔族に、生と死の剣を持ってゆっくりと近づいてくる。
『な、何者なんだお前は…!人間が…人間如きがこの俺の腕を…!』
目の前の現実が受け入れられない。
そんな表情をする魔族。
当然と言えば当然だろう。
魔族は、単体では最強の種族だ。
身体能力や強度も桁違いで、人間と一対一で戦って負けることはまずないだろう。
だが…あいにくと俺は魔王を倒しレベルカンスト済みだ。
レベルアップによって能力全般が向上されているため、今の俺には魔族以上の身体能力が備わっている。
『や、やはり…貴様が勇者なのか…!!』
「悪いが違う。勇者はあいつだ」
アレルを指差して俺はいった。
『で、ではなぜ…そのような力を…?』
「あー、それは話すと色々ややこしくなるんだ……まぁ、前提知識のおかげで莫大な経験値が得られた、とだけいっておこうか」
『ぜ、前提知識…?』
「まぁわからんよな。けど説明する気はないぞ。すまんな」
俺は生と死の剣で魔族の体に傷をつけた。
『な、何を…?』
魔族が疑問の目を持って俺を見る。
俺はそんな魔族に死の宣告をする。
「死ね」
『…!』
一瞬にして魔族が沈黙し、その目から光が失われる。
生と死の剣の能力が発動して、魔族の命を奪った。
魔族は倒れふし、俺は戦いに勝利した。
「ふぅ…」
額の汗を拭う。
なんとか、アンナを守り、かつ目撃者も出さずにことを済ませられたな。
及第点だろう。
「さて…」
魔族を倒し、イベントを無理やりクリアした俺は、死にかけのアレルの元に向かう。
「ったく…お前主人公だろ。もうちょっとシャキッ
としてくれよ」
そんな愚痴を言いながら、俺はアレルを生と死の剣の力によって治療するのだった。
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