ゲームクリアから始まるRPG転生生活〜序盤で死ぬ勇者村のモブに転生したのでとりあえず復活前の魔王の心臓を刺してゲームクリアしてみた〜
taki
第1話
「くあぁあ…眠いな…」
早朝、あくびを噛み殺しながら高校までの徒歩20分の登校路を歩いていた。
眠い。
鉛が入っているかのように体が重い。
昨日一睡もせずに徹夜でゲームをしていたからだ。
最近巷で流行っている『世界の終わりの物語』というRPG。
内容は至ってシンプルで、主人公である勇者のキャラクターを操作して、魔王の手から世界を救うというもの。
要するにありがちなストーリーを軸とした王道RPGで、話の展開に目新しさはない。
ではなぜ流行っているのかといえば、それはひとえに製作陣の作り込みが既存のゲームと一線を画しているからだ。
マップの広さ。
美麗グラフィック。
スキルやモンスターの種類。
全ての要素が一級品であり、一度ゲームを開始するとたちまちその世界に引き込まれてなかなかやめられない。
ここまで完成度の高いRPGには、ゲームオタクの俺もしばらく出会っていなかった。
ゆえにプレイし始めて数時間のうちに俺はすっかりこの『世界の終わりの物語』にハマってしまい、ここ一週間、寝る間も削ってプレイしている。
すでにメインストーリーはクリアしてしまっているのだが、レベル上げ、スキルの取得、隠しボスの攻略、ヒロインとの後日譚などまだまだやることはたくさんある。
「早く帰ってゲームしたい…学校で寝て体力回復しよう…」
最近学校が俺にとって勉強をする場所でなくて授業中に寝て体力を回復する場所になっているのだ
が……仕方ないよな。
『世界の終わりの物語』が面白すぎるのが悪いんだから。
「うおー、危なかったー!!溝に落ちそうだったー!!セーフ!!」
「よーし!!次は俺の番なー!」
突然聞こえてきた声に俺はビクッと体を震わせる。
車道を挟んで反対側で、ランドセルを背負った小学生が2人、石蹴りをしながら学校に向かっている。
「うぅ…」
徹夜明け、疲れた脳に小学生の高くてよく通る大きな声がガンガンと響き、俺はうめき声をあげる。
1人が溝に落ちるギリギリで止まった石に「セーフ!!」とはしゃぐ中、もう1人が、次は自分の番だと足元の石を思いっきり蹴り飛ばした。
その石は勢い余って歩道から車道に飛び出した。
「あー…マジかよー」
「下手くそだなぁ。早くとってこいよ」
「わかったー」
小学生がしょぼくれたようにそう言って、周りを確認せずに道路に飛び出していった。
「馬鹿っ!!」
トラックの接近に気づいていた俺は、反射的に道路に飛び出して行った。
「へ…?」
そしてようやく自らに迫りつつある大型トラックに気付き、道路の真ん中で固まってしまった小学生を思いっきり歩道の方に突き飛ばす。
「うわっ!?」
突き飛ばした小学生が尻餅をついた。
俺もすぐに前方に向かって飛ぼうとするが、間に合わない。
一瞬だけ、目があったような気がした。
バァン!!
「…っ!?」
直後、衝撃が俺の体を襲う。
浮遊感が全身を支配した直後、激痛。
地面に打ち付けられ、意識がだんだんと遠くなっていく。
「うわぁああああ!?」
「馬鹿っ!!何やってんだよお前!!」
ブレーキ音と共にトラックが停止し、小学生2人が俺の元に駆け寄ってくる。
「きゅ、救急車…」
俺の顔を覗き込んでくる2人に手を伸ばした直後、俺は意識を完全に手放した。
「ん…?」
意識が覚醒し、俺は目を開ける。
「すまん、グレン!!強く叩きすぎた!!」
「大丈夫?グレン?」
「え…?」
どうやら俺は寝ているようだった。
倒れている俺の顔を覗き込んでいるのは、見覚えのある2人。
栗色の髪の少年少女で、男の方が棒切れを持っている。
「…冗談だろ?」
俺はガバッと起きて目を擦り、それからもう一度2人をみる。
「なんだ、大丈夫そうだな。グレン」
「どこか痛いところはない?すぐには起きない方がいいんじゃ…」
そんなことをいう2人の全身を、俺は信じられない思いで見つめる。
全くの初対面なのだが、俺はこの2人を知っている。
『世界の終わりの物語』の主人公と幼馴染。
アレルとアンナだ。
「なんだこれ…?夢か?」
俺は自分の頬をつねってみる。
痛い。
夢じゃない。
これはまごうことなき現実だ。
「こ、ここは…?始まりと終わりの村…」
ぐるぐると当たりを見渡す。
すると見覚えのある光景が視界に飛び込んできた。
『世界の終わりの物語』の序盤のフィールド。
主人公である勇者、アレルの育った『始まりと終わりの村』だ。
「どうしたんだ、グレン。急にほっぺなんかつねって」
「アレルが強く叩きすぎたんだよ!!グレンが、変になっちゃったんじゃ…」
「な!?俺のせいかよ!?勇者ごっこなんだからこういうこともあるだろ!!」
「アレルはグレンより強いんだから手加減しなきゃ…!」
何やら俺の目の前で言い争いを始めた2人をよそに、俺はポツリと呟いた。
「ひょっとして俺…『世界の終わりの物語』の世界に転生したの…?」
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