第4話『国府宮の家』

 翌日、朝早くに国府宮の両親が迎えに来てくれた。荷物をまとめて爺さんやナースに挨拶を済ませたら、いよいよ退院する訳だ。

 迎えの車が運転手付きのリムジンなのはビビったが、何かVIP待遇みたいで悪い気はしない。


 移動中、俺に気を遣ってくれているのだろうか、車の中で両親から色々と優しい言葉をかけられる。

 そりゃそうだよな、脳死で眠り続けていた娘が奇跡的に回復したんだから。爺さんも普通なら助からない状態だったと言っていた訳だし。

「本当に……、あかりちゃんが元気になってくれて、ママ嬉しいわ……。思い出せない事も色々あるでしょうけど、ゆっくり時間をかけて、また元の生活に戻ってね。焦らなくていいのよ」

 母親は、薄っすら涙を浮かべて優しく微笑んでいる。この人が俺の、新しい人生における母親……、ママさんになるのか。何かママって呼ぶのは、まだ小っ恥ずかしいな。

「学校の先生にはちゃんと伝えてあるからね。記憶の事もあるけど、半年間も眠り続けていたんだ。体育の授業とかは無理に参加しなくて大丈夫だよ。ママが言う通り、ゆっくり時間をかけて、元の生活に戻ろうね」

 パパさんも優しく微笑みながらそう言って、頭を撫でてきた。二人とも優しい人で良かったかな。

 こちらからも何か言うべきだろうか?とは思うが、一体何を話せば良いのやら……。

 そもそも『国府宮あかり』がどんなキャラなのか、まだ大雑把にしか分からないからなぁ~。入院中に受けた指導も、単に9才の女の子らしく振る舞えってだけの内容だったし。

 それにしても、パパさんもママさんも随分と若いな。俺(44)より年下なんじゃないのか?

 でも、俺は『国府宮あかり』になっちまったんだから、パパママって呼ぶしかないんだよなぁ~。何か複雑な心境だ。

 とりあえず笑顔で誤魔化すが、二人共それだけで満足してくれたようだ。迂闊な事を言ってボロを出すよりは良いだろう。



 自宅に到着したのだが、ここでまたビビる。金持ちだと聞いてはいたが、国府宮の家ってこんなスゲェ豪邸なのか!!

 何だこれ!?地方都市とはいえ、これだけの豪邸に住んでいるとか、ハンパねぇな!!マジでこれ、個人の邸宅なのか!?

「あかりちゃん、どうしたの?お家の事も忘れちゃったのかしら?」

 圧倒的な豪華さに気を取られちまい、開いた口が塞がらなかったが、ママさんに声をかけられて我に帰る。

 何かスゲェ緊張して来たな。これからは 此処ここが俺の住む家なのか……。

 気後れしながらもパパさんとママさんについて行くと、家の中も高級そうな調度品やら装飾やらで、完全に別世界に迷い込んだような感じになった。

 リムジンの運転手だけじゃなく、メイドさんも何人か雇っているみたいだ。国府宮家、どんだけ大金持ちなんだよ?元の本田宗一時代の生活とは、天と地程の差があるな。


 自分(あかり)の部屋に案内されたのだが、子供部屋にしては随分と広い。賃貸で六畳1Kに住んでいた俺より、遙かに良い生活をしていたんだなぁ~。

 すると、ママさんがアルバムを持って来た。

「あかりちゃん、覚えているかしら?今迄に家族で撮った写真がたくさんありますよ。本当に……、家族で色んな所へ行きましたねぇ……」

 アルバムのページをめくりながら、ママさんがしんみりと言った。

 写真を見ると、本当に様々な場所で撮影されていて、中には海外の観光地で撮影したであろう物もあった。

 今度はパパさんが、

「ほら見てごらん、あかりが小学校に入学した日の写真だよ。入学して最初に出来たお友達は覚えているかな?ひかりちゃんって言っていたね。ほら、この子だよ」

 そう言って、1枚の写真を指差した。胸を張って堂々としているあかりの横に、少し照れたような感じの女の子が写っている。この子もあかりに負けず劣らず美少女だな。

 ひかりちゃんって言うのか……。友達としてあかりと仲良くしていたのなら、色んな個人情報を知っているんじゃないのかな?

 性格、好み、苦手なもの等々……。なるべく早く接触して話を聞き出し、色々と情報を補完したいところだな。

 パパさんママさんから引き出せる情報だけだと不十分だろう。今はとにかく、『国府宮あかり』の人物像を深く掘り下げたい。いつ迄も「思い出せない分からない」じゃ通用しないだろうからなぁ~。

 パパさんママさんからの情報だけだと分からない、例えば『あかり』が両親や他の大人の前では猫被っていたという可能性もある。友達として付き合っていた同世代の子の情報なら信用出来るんじゃないかな?

 大人から見た『あかり』と子供目線での『あかり』の両方をキッチリ把握しておく必要があるだろう。

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