第2話:神義 莉里華

神義しんぎ 莉里華りりか


通っていた中学は少し離れたところにあり、友達付き合いに煩わしさを感じた私は少し離れた偏差値が高めの高校を受験した。

中学の知り合いでこの学校を受験した者はいない。

通学距離を理由に一人暮らしを始めた。親には感謝している。


高校一年の春、私の容姿に群がってくる者が増えていることが嫌だった。

男子は欲を孕んだ目を向けてくるし、女子は陰で『私のそばに居ると男子が捕まえやすい』と言っていた。私の外見だけしか見ていない。

私は人付き合いが苦手。相手からの不快な感情には敏感に反応してしまう。

今の私の容姿を変えても私の周りの人は残るのだろうか?


GWに今まで行ったことのない、お洒落な美容室に行き『イメチェンしたい』と告げると親身に話を聞いてくれた。今もお世話になってるタケルさん(オネエ)。

お任せして施術が終わったときにはホワイトピンクに染められた髪、毛先にいくにつれてピンクが濃くなるグラデーションカラー、毛先を切り揃えストレートパーマをかけられた髪の長さは少し短くなって腰のしたくらい。

眉はロゼブラウンで整え方も教えてくれた。

『カラコンなんかも良いわヨ』とアドバイスを貰い、早速購入した。

それに合わせて服装も今までのシックなものから少し開放的なものに変えた。


休み明けに学校に行くとすっかり変わった私の容姿にみんなが距離を取り始めた。それだけの関係、それが分かって私はスッキリした気持ちになった。


六月に入り私は取り巻きがいなくなった事で落ち着いて勉強に励んでいた。髪色で指導を受ける事があったが、戻すつもりは無い。

そんな私の日常を騒がす事が起き始める。


私に告白してくる男子がいたのだ。

顔も名前も知らない男子が『好きです。付き合ってください!』と言ってきた。正直、怖い。何も知らない人が一方的に私を好きだと言う。

この容姿を好きになったと言うのであれば容姿を変えればそれで終わり。そんな関係に時間を割きたく無い。

私の本質は外見が変わっても変わってはいない。

誰かを好きになるのなら、その人のことをきちんと知っていって好きになりたい。相手にも私の事を知った上で好きになってもらいたい。

多分、私はその辺りが同い年の子とズレている。

だから私の返答は決まっていた。

『あなたの事を知らない私が、あなたを好きになることは有りません』

ハッキリと断った。

それからも何度かこう言う事があった。


期末試験を終えた後、二年生の女子から放課後の校舎裏に呼び出された。

そこに行くと『調子に乗っているんじゃ無いですか?もう少し自重しなさい』と言われた。

言うことだけ言って彼女は立ち去っていった。私はその場に取り残された。

気を取り直し帰路につこうと外階段を回ったところで頭から水を被った。咄嗟のことで声も出なかった。見上げても誰もいない。


ずぶ濡れで帰路につく。

周りの生徒は見て見ぬふりをしている。そんなものだろう。


その帰り道で初めて坂槙さかまきくんと会話をした。

彼は驚いた表情をした。

快晴の中、ずぶ濡れの私。それは驚くだろう。それだけだと思う。彼の横を過ぎ去ろうとした時に彼は私に声をかけてきた。

『神義さん、うちそこだから良かったら服を乾かしていかない?』

驚いた私は、濡れた服の気持ち悪さもあり思わず頷いた。

今考えると軽率な判断だった。

それでも彼の視線からはいやらしいところを感じなかったのも理由だと思う。


彼の家に行き、一人暮らしだという事を聞いた時には本当に警戒した。

中から鍵をかけられると言うことでシャワーを借りた。スエットを借り、制服を洗濯させてもらった。ドラム式で乾燥まで出来るから遅くならないだろう。


それから坂槙くんと話をした。

彼も私と同じで俯瞰したものの見方をしていると感じた。

短い時間だったけど彼と話をしていると楽しいと感じた。

夕飯までご馳走になった。よくある一人暮らしの男子だからといって料理がうまい訳ではなかったけれど心がとても温かく感じた。


私は高校になって初めて友達が欲しいと思った。

『坂槙くん。私と友達になってください』


それから私と坂槙くんは友達になったんだと思う。

お互いに学校では今までと変わらない。

その代わり放課後は彼の家に遊ぶに行く。ご飯も一緒に食べて、寛いでいる。


一人暮らしを寂しいと感じていた私はもういない。一緒に過ごす人が今はいる。


私達は一緒にいるけど恋人ではない。

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