7-7

「フォルティス・ウィンクルムねえ。ボクも知らない魔法だけど、最初は発動しなかったんだったら条件型の魔法なんじゃない?」

 ヴェロニカとのマッチレースの直後、謎の魔法の正体を解明しようとヘカテに相談したときのことだ。

「条件型ってヴェロニカが使ってたソーラ・ルーパスみたいなやつだろ? 発動条件を満たしたときだけ使えるっていう。レース展開とかコース状況みたいなパターンは最初に試した時に網羅したはずなんだけどな……」

「うーん。そうかー。でもさ、条件型ってレースによる条件に限らないんだよ」

「え? どういうことだ?」

「そうだなあ。目を合わせた時とか、死にそうな時とか、結構なんでもあるんだよ」

「全然レース関係ないな……」

「まあ、元々魔法はユニコーンレースのためにあるものじゃなくて、いろんな用途の魔法をレースにも活用しているだけだからね。そう言えば術者の気持ちとか他人との関係性が条件になることもあるらしいよ。最近のフーマはちょっとポジティブになったからその影響なんじゃない?」

「……ふーん。そんなものかぁ」


 あの時は照れくさくて言わなかったが、本当はこの魔法の発動条件が何なのかわかっていた。

 フォルティス・ウィンクルムは魔力の充填と強化を同時に行う魔法だ。その効果は人との繋がりによって増幅される。信頼を魔力へ変換する魔法ともいうべきだろうか。術者にとって深い絆で結ばれた人々が多ければ多いほど、絆が強ければ強いほどその効果は増す。

 だから、発動条件はきっと信頼し合える仲間がいることだ。自分の弱さを認め、人を頼り、信頼することの意義を理解した今だからこそ発動できるのだろう。

「いけえぇーー!」

「ぎゅぇぇん!」

 俺のスペルによって魔力の量、濃度共に最高潮に達したプルーフは嘶きながら、猛烈な加速を見せた。角から放出される粒子はあまりの魔力濃度に金から眩い虹色へと色を変えていく。

『ここでプルーフも最後のスペルを発動させました! 何という速度か! 一気に前を捉える勢いです!』

 既にライトニングボルトに並んでいたアダマンタイト目掛け、虹色の嵐と化したプルーフが突っ込んでいく。

 残り百五十メートル。

 ついに三頭が横並びになる。

「マギカ・スプレメンタム・トレース!!」

『この土壇場に来てユーリジョッキーも最後のスペルを発動! 最後も魔力強化だ!』

 何という奴だ。結局、三枠全てが魔力強化系統だったというのか。

 アダマンタイトがさらに加速する。だが、プルーフもまだ負けていない。

 残り百メートル。

『ここでアダマンタイトとプルーフが抜けた! ライトニングボルトはついて行けない。二頭の一騎打ちになった!』

 残り五十メートル。

『アダマンタイトか!? プルーフか!? どちらも譲らない!』

「はああっ!」

「うおぉぉっ!」

 俺たちは互いに絶叫しながら馬を動かしていた。全力を振り絞り、少しでも前に進もうと絶叫しながら愛馬を鼓舞する。

 頼む! 届いてくれ!

 祈るような気持ちで手綱をしごく。

 この一歩一歩にはチーム皆の想いが乗っている。だから必ず届くはずだ。例えユーリにジョッキーの腕で敵わないとしても、チームとしての力では絶対に負けていない。ここまで共に歩んできた彼らが俺とプルーフの背中を押してくれる。

『プルーフか!? アダマンタイトか!? 僅かにプルーフが前に出た! プルーフだ! プルーフだ! プルーフ、今一着でゴールイン!!』

「っ――――!!」

 その瞬間の感情は言葉にならなかった。

 今まで感じたことがないほどの喜びと達成感。そして仲間たちへの感謝の想いが波のように押し寄せ、自然と涙を流していた。

『長い長いユニコーンダービーでの歴史の中で、今初めて芦毛のユニコーンが勝利を掴み取りました! 芦毛は走らない、そう言われて久しいですが、今日ついにそのジンクスを破り、プルーフ号堂々の戴冠です!』

 会場から地鳴りのような凄まじい歓声が沸き上がった。

 それに応えて観客席を振り返ったときの景色は壮観だった。十万人を超える観衆が口々にプルーフとフーマの名を呼び称えてくれていた。

 きっとこれが父が見たかった景色だったのだ。俺が追い求めてきた景色だったのだ。この瞬間のために懸命に走り、そしてこれからもまた走り続けるのだ。

 涙を流し続ける俺の元に、やがてルナ、ヘカテ、ルドルフ、マリアが駆け寄ってきた。

 皆一様に涙と笑みを浮かべている。俺はそんな彼らと抱き合い、称え合い、喜びを分かち合った。

 この勝利のことを、この日のことを、仲間たちと駆け抜けたこの世界での一年のことを、俺は生涯忘れないだろう。彼らとの絆は例え世界が変わったとしても、決して色褪せることのない強く深いものだった。

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