B第2章 『結婚シンフォニー』

第22話 ルータス


 「おはようございます コン」


 「おはようございます コン」


 10月の早朝は寒さすら感じるなか、牛乳配達をするルータス。


 毎週、火曜50件、金曜50件、配達している。月末には集金の仕事もある。


 彼には莫大だがギャンブル的なお金など持ち合わせていない。しかし農業と酪農で少額だが固いお金は持っていた。お金自身はどっちでもかまわなかったのだけれど……


 彼は今なら偏差値64以上はあったのだが生きていくのにお金儲けは違うような気がしていた。今ある仕事を一生懸命やることが正しいと思っていたし正しかった。


「ルータス、おはよう、いつもありがとう」


「いえ、おいしいですか?濃いですか?」


「おいしいよ、濃いよ!ありがとう!」


 そんなやり取りがルータスの仕事のやりがいだった。人はこれだけのことでやりがいを感じ働くことができる。世の中は善意ある言葉だけで回転していく。悪意ある言葉はその人の人生を止める。悪意あるだけの言葉に取り囲まれたら、人生はただ死ぬ前に時間潰しで生きているだけだと言える。


「アリア……」


彼はアリアを愛していた。

「愛している……」


人生で何度使うことがあるだろう?

「変わらず……」


もう、嘘になる。


 ワインのコルク栓をあけ、グラスに注ぎ、ひとくちを飲みほす。この瞬間に苦痛もしくは快楽で1ボトルを飲みほすのか決まる。人生もつまるところは嘘をつき通せるか、嘘を詫びるかの選択だけである。


「アリアは卑弥呼直属の子孫とかなんとか聞いたが僕みたいな百姓が嫁に貰えるのかな?結婚の約束はしたよ!でも今度のことで様相はすっかり変わってしまったからな……」


「結婚すればいいというものでもないしな…僕の勝手な思いだけど、乳母車をのぞき込む女性ほど美しいものはないと思っている。アリアにそれを強く望む、相手が僕であれば最高だけどそうじゃなくてもいいかも……アリアが幸せになればそれでいいやって思ってきたよ。いやいや、それも違うな……アリアと結婚した方が幸せならいいかな……うん。これだ」


 「遠い空国」には今のところ吸収木は1本も到着していない。それはこれからの人口増加に吸収草と吸収木の種子で対応していかないといけないことを意味している。

 人口増加は稲作と吸収草の両方の敷地面積の増加を意味し、就いては開墾の必要性を意味していた。


 「生きていくために田を耕すしかねえ。結婚どころじゃねえな~」しょんべんしながら音の行方を見た。


 (バリバリバリ)


 轟音を立て空挺が複数機、遠い空からやってくるのが見えた。


「アリア……帰ってきたか!やっぱり結婚するぞ!」








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