外れスキルで無能扱いされてパーティーを追放されたけど……実は最強を通りこして超ぶっ壊れスキル持ちだったみたいです。

逢坂こひる

第1話 追放と転職

 一流の冒険者になることを夢見て、辺境の村から仲間達とこの街にやってきて早3年。

 輝かしい数々の実績を残した僕らのパーティー『エキスパート』は、遂に念願叶ってSランクパーティーへの昇格が決まった。


「エキスパートの皆さん、昇格おめでとうございます!」 

 担当受付嬢がその事実を告げると、ギルドに居合わせた冒険者達から次々と祝福と賛辞の声があがる。


「おめでとう!」

「流石エキスパート!」

「凄げーな!」

「たった3年だぜ!」

「お前らならきっとやると思ってたぜ!」


 仕事終わりの冒険者が集っていたギルドは、いつの間にか僕らの昇格を祝う会のようになっていた。


「ありがとう皆んな、こんなに嬉しい事はない!」

 パーティーリーダー、ゼイルの返礼にも力がこもる。

 僕も誇らしい気持ちになる。


 普通はたった3年でSランクパーティーに昇格するなんて事は、まずあり得ない。

 なのになぜ僕達がたった3年でSランクパーティーへの昇格を決めたのか。

 それはパーティーメンバー全員がスキル持ちだった事に他ならない。

 冒険者の中でもスキル持ちは珍しい。

 それだけにパーティーメンバー全員がスキル持ちという優位性は相当なものなのだ。


「丁度いい機会だ、皆んなも聞いてほしい。Sランクへの昇格決まった俺たちだが、ひとつ残念な知らせがある」


 うん……残念な知らせ?

 ギルド内がゼイルに注目する。


「それは、パーティー結成以来、ポーターを勤めていたティムから、脱退の申し出があったことだ」


 えっ……。

 ゼイルのやつ、今なんて言った?

 僕から脱退の申し出って聞こえたけど。


 ギルド内が騒つく。


「もちろん、俺もメンバー達も全力で引き留めた、だけどティムの決意は固かった」

 

 理解が追いつかない間に、僕の知らない僕の話が進む。パーティーメンバーに至っては誰も僕と目を合わせようとしない。


「ティムは多くを語らなかった。だけど『Sランクになる俺たちの足を引っ張りたくない』そんな想いだけはひしひしと伝わってきた」


 な……何なんだこの茶番は。


「まあ……ティムはポーターだしな」

「荷物運びってよりお荷物だよな」

「Sランクには相応しくないよな」

「同郷だからお情けでパーティーに入れてもらってたことにやっと気づいたのかな」


 周りの冒険者達がゼイルに同調する。

 えっ……僕ってこんな風に思われてたの?


「ちょっと待ってくれゼイル!」


 僕はとにかくこの茶番を止めようと思った。


「分かってる。お前の気持ちは分かってるよティム」

 だけどゼイルは僕の肩を掴み、その穏やかな口調とは裏腹に、剣聖スキルの威圧でそれを阻止した。

 想定外の威圧に、僕は言葉を発する事が出来なくなる。


 そしてゼイルは続けた。


「本当に残念だが、俺たちはティムの想いを汲むことにした」


 嘘だろ……なんでだよ。


「ティム、今までありがとう」

 ゼイルは威圧を解き、あからさまに作られた笑顔で握手を求めてきた。

 ありえない……Sランクを目前にしてこんなことありえない。


「……くっ!」

 僕はゼイルの手を払い除け、全力で否定してやろうと思った。


「ゼイル!」

 語気を強め彼の名を呼んだその刹那。


『マスターおやめ下さい』

 無機質な女性の声が頭の中に響き、それを静止した。

 僕のスキル『コーディネーター』だ。

 コーディネーターは自我をもっている。

 そして思念で会話が可能で、進むべき道をコーディネイトしてくれる。


『……何で止めるの? コーディネーターはこんなことが許されると思っているの?』

 僕は苛立ちをコーディネーターにぶつけた。


『ここで騒ぎを起こせばマスターが不利益を被ります。状況から察するに、ゼイルはマスターが大人しく従わない場合のことも想定しています』


 つまり、この時の為に色々画策してたってことか。


『だけどっ!』

『他のメンバーとも承知しているようですし、仮にマスターがここで事実を訴えたところで結果は変わりません』


 ……くっ。


『その手を払い除けても、パーティーとマスターの評判をおとしめるだけです。何のメリットもありません』


 確かにコーディネーターの言う通りだ。

 ゼイルがこんな茶番まで用意してパーティーから僕を追い出そうとしているのだ。

 例え今の状況を覆したところで、そこに僕の居場所はないだろう。

 何故ゼイルが僕をパーティーから追放しようとしているのかは分からない。

 だけど、こうなった時点で詰んでいたんだ。


 悔しい……腹立たしい……そして悲しい。

 

 こんな事をしなくても、僕に出ていって欲しいなら、ちゃんと話してくれればそうしたのに。


 こんな終わり方は……あんまりだ。


 僕はコーディネーターに従い……渋々ゼイルの手をとり、がっちりと握手を交わした。


 誰かが拍手をすると、その拍手はギルド中に広まった。

 そして、ゼイルは握る手の力を強め僕の耳元で言った。

「無能で役立たずな外れスキル持ちのお前には、分不相応な花道を用意してやったんだ。感謝して出ていけ」


 ……ゼイルは、いやエキスパートの面々は僕のことをそんな目で見ていたのか。


 僕は、3年間苦楽を共にした同郷の仲間にパーティーを追放された。



 ◇



 パーティー追放劇から数日が経った。

 僕は寝ぐらにしていた宿屋のベッドの上で、自堕落な日々を送っていた。

 冒険者になってから『エキスパート』は僕の全てだった。

 辛いことや大変だったことも沢山あったけど、同郷の仲間がいるから頑張れた。


 火属性魔法師のラーナ。

 お隣のお転婆なお姉さんだった。子どもの頃はとにかくよくイジメられたけど、冒険者になってからは彼女の魔法にすごく助けられた。


 魔法剣士のダットン。

 子どもの頃から身体が大きくて、よく喧嘩したけど不思議と負けたことはなかった。

 でも冒険者になってからは頼れる兄貴的存在で、公私共によくしてくれた。


 聖属性魔法師のフューリー。

 彼女は僕の初恋の相手で1番身近な異性。

 クエスト前の作戦立案を2人でやってるのもあってパーティー内では1番一緒に過ごす時間が長かった。 

 食事や買い物にもよく一緒にいった。

 でもあの日の様子から察するに、彼女にとってそれは苦痛な時間だったのかもしれない。


 そしてパーティーリーダー、剣聖のゼイル。

 幼い頃からやたらと気が合い、何をするにもいつも一緒だった。冒険者になってからは、パーティーのこと以外で話すことは殆どなくなったけど、僕は彼のことを親友だと思っていた……でも違ったんだな。


 思い出すと涙が溢れてくる。

 ダメだダメだ。

 気持ちを切り替えないと!

 とにかく身体を動かそう。


 僕は身支度を整えてギルドに向かった。



 ◇



 僕の思い過ごしかもしれないけど、ギルド内には何か不穏な空気が流れていた。


「おい、無能が来たぜ」

「臆病者のティムだ」

「あいつ臆病風に吹かれてパーティーを抜けたんだってな」

「でも実力はあるんだろ? Sランクなんだし」

「あいつは寄生してただけだって」


 全然思い過ごしじゃなかった。

 この数日の間に、結構な悪評が立っていたようだ。


 ……まあ、いいけど。

 これからはソロでやっていくつもりなのだから。


 僕は周囲の喧騒を無視してクエストボードから適当な討伐クエストを見繕い受付に向かった。


「あの、大変申し上げ難いのですが……ティムさんはこのクエストを受けることができません」

 困惑顔の受付嬢にクエストを断られた。


「え……なんで?」


 僕が選んだのはBランクのオーガ討伐クエストだ。Sランクに昇格する前に追放されたからAランクだけど、クエストを受けるのに何の問題もない筈だ。


「ティムさんはエキスパートを脱退されたので、個人ランクのEが適応されます。なのでBランクの依頼は受けられないのです」


 ま……まじか。

 ていうか僕の個人ランクはそんなにも低かったのか。

 ちなみに冒険者ランクはS、A、B、C、D、E、Fの順で、Eは下から2番目のランクだ。


「仮にAランクであってもポーター職で登録されているティムさんが単独で討伐クエストを受けるのは、ギルド規定的に認められません」


 新事実! それは知らなかった。

 ポーター職は単独での討伐クエストは無理なのか。

 ずっとパーティーでの行動だから気にも留めていなかった。

 ……でもこれからはソロだ。ポーター職にこだわりがあるわけでもない。単独で討伐クエストが受けられる職に登録変更だな。


「分かりました。じゃぁ登録を変更します」

「え……変更ですか」

 素っ頓狂な声をあげる受付嬢。予想外だったのかな。


「はい、単独討伐が許されてる職って何がありますか?」

「えーと……剣士職、戦士職、魔法職になりますが……よろしいのですか?」

「何がですか?」

「ティムさんは『仮想空間』スキルをお持ちですよね? ポーター職としてなら、どこのパーティーからも引っ張りだこっと思うのですが」


『仮想空間』は小容量の収納スキルだ。

 彼女が言うように、このスキル持ちのポーターは人気といえば人気なのだが……それは駆け出しパーティーに限る。

 収納袋などを持つ熟練のパーティーからすると、もっと荒事に向くスキル持ちが優遇される。むしろポーター不要説まである。

 収納袋と違い仮想空間の中は時間が止まっているから食料の保存ができて、いつでも温かいご飯が食べられるメリットはある。

 だけど、それを差し引いても戦力にならない外れスキルだとバカにする冒険者は多い。

 まあ、料理人にでもなればまた話は変わってくるんだろうけどね。


 ちなみに『コーディネーター』スキルを認識できない皆んなは、僕のスキルを『仮想空間』だけと思っている。

 ゼイルが僕をつかまえて『無能で役立たずな外れスキル持ち』と言ったのはそのためだ。

 駆け出しの頃は『いつでも美味い飯が食える最高のスキルだな!』って喜んでくれていたのに。


「どうなさいますか?」

 つい物思いにふけてしまった。


「構いません。変更します」

「え……あ、そうですか」


 構わないと答えても何か煮え切らない態度の受付嬢。


「あの……」

「はい」

「大変失礼ですけどティムさんって……戦闘は大丈夫なのでしょうか」


 あ、そうだよね。

 3年間ずっとポーターをやってたわけだし、僕の実力を危惧するのは当然だ。


「それなりには戦えますよ」

「……そうなんですね」

 そうアピールしてもあからさまに疑いの目を向ける受付嬢。

 僕も冒険者だ。

 オーガの討伐クエストを持ってきた時点でそれなりの戦闘力があるって察してくれもいいと思うんだけど。


 ……あんまり良く思われていないんだろうな。

 また気分が沈んだ。


「登録職の変更は試験を受けていただくことになりますが、よろしいでしょうか」

「大丈夫です」

「分かりました。では何職への転向を希望されますか」


 特に拘りはないけど、魔法職にしようかな。

 普段帯剣してないし。


「魔法職でお願いします」

「え……ティムさん魔法が使えるのですか?」


 スキルが無くったって魔法ぐらい使えるだろうに。

 なんか、僕って本格的に無能って思われてるのだろうか。


たしなみ程度には使えますよ」

「……そうですか」

 心配そうな顔だ。


「今すぐ試験をお受けになられますか?」

「はい、お願いします」


 僕は別の女性職員に案内されて、試験会場の闘技場に向かった。


 サクッと討伐クエストを受けて、体を動かそうと思ったけど魔法職へ転職するための試験を受けることになった。


 試験内容は至極単純だ。

 設置された的に攻撃魔法を当てることと、試験官の初級魔法を防御魔法で防ぐことだ。


 僕に少し遅れて試験官がやってきた。


「なんだ、新人かと思ったらティムじゃん」

 試験官は見知った顔だった。


「ジェスカさんご無沙汰してます」

 先輩冒険者で雷属性魔法スキル持ちのジェスカさん。彼女とはギルドの共同討伐クエストをご一緒したご縁でプライベートでも親交がある。

 確か3ヶ月前にも食事をご一緒した。


「いろいろ聞いてるよ〜。なんか大変だったみたいだね」

 ニタニタしながら肩を組んでくるジェスカさん。

 この通り気さくでスキンシップの激しい人だ。


「まあ、それはそれ、試験はきっちりやるからね!」

「はい、それでお願いします」

「それにしても……」

 顎に手を当て僕を舐めるように僕を見るジェスカさん。


「ティムって魔法使えたんだね。知らなかった」

 まあ、パーティーにはラーナがいたし、人前で使う事は殆どなかったからそう思われて当然か。


「実は使えたんです。でもラーナがいたから機会がなくて」

「あは、そりゃそうだね! ラーナがいたら中途半端な魔法じゃ邪魔になっちゃうもんね」

 そうそう、だから魔法剣士のダットンも殆ど剣士だった。


「じゃ、ちゃちゃっと始めてサクッと終わらせて飲みに行こうか!」

「まだ、朝ですよ」

「いいじゃん、いいじゃん!」


 断わるのは難しそうだ。


「じゃあ、取り敢えずあの的に当ててくれるかな?」


 20メートルほど先に5つの的が用意されていた。

 あの的ってどれだろう。

 もしかして5つ全部?


『マスター、雷撃を空中に放ち、スパークさせてはいかがでしょうか』

 どの的か迷っていると、コーディネーターから適切なアドバイスがいただけた。


『スパークか……ありだね!』

 試験官がジェスカさんだし、雷属性魔法ってのもいいチョイスだ。

 コーディネーターのアドバイスを受けて僕は真ん中の的の上方に向けて手の平をかざす。

 その刹那、巨大な雷球が発生する。


「なっ!」


 雷球を見て驚くジェスカさん。

 的を外したと思ったのかな?

 でも、安心して下さい。雷撃&スパークの本番はここからです。


 僕がかざした手をぐっと握りしめると雷球から5つの稲妻が的に向かって発せられる。

 そして轟音と共に5つの的に雷撃が直撃すると……的は爆散し、その場所に小さなクレーターが出来た。

『お見事です。マスター』

『ありがとう』

 コーディネーターからお褒めの言葉を頂いた。


「どうですか、ジェスカさん!」


 振り返るとジェスカさんとギルド職員はあんぐりとし、的のあった方を見つめていた。


「ね……ねえ、ティム……今の魔法って何?」

 えっ……何って。


「雷撃ですけど」

 ちょっとスパークさせたけどね。

「おかしいっ!」

 ジェスカさんからすかさず突っ込みが入った。


「雷撃はあんな雷球は発生しないし、分裂もしないっ! それに威力もっ!」

 えっ……そうなのか。

 コーディネーターに教わった通りにやっただけなんだけど。

 本職の雷撃はもっととてつもない威力ってことなのか?

 恐るべしだな。


「ていうか、詠唱はどうしたのよ」

「えっ……詠唱ってするものなんですか?」

「はぁ? むしろ詠唱しないでどうするのよ」


 詠唱する人は詠唱する事で気分が高揚する特殊な人だとコーディネーターから聞いたことがある。

 それなのに皆んな詠唱するもんだから僕の周りには特殊な人が多いのだと思っていた。だけどこうやって試験の時に詠唱するように促されるのか。


「分かりました。善処します!」

「えっ、何が分かったの?」

「それは……」

 恥ずかしいけど、僕も詠唱しますって言った方がいいのかな?


「うん、まあいいわ。次の試験ね」

 取り敢えず納得していただけた。


「じゃぁ、ティム準備はいい?」


 次はジェスカさんの初級魔法を防御魔法で防ぐんだったよね。


「いつでも大丈夫です」

「じゃぁ行くよ!」


 ジェスカさんが詠唱を始めると、僕の上方に雷雲が立ち込めた。本家の雷撃を見せてくれるようだ。

 しかし……いつも思うけど魔法の詠唱って詠唱している間は本当に隙だらけだ。

 そんなリスクを負ってまで詠唱したいっていうのだから、詠唱による気分の高揚は相当なものなんだろうな。


「行けっ!」

 詠唱が終わり雷撃が僕を襲う。

 さすが雷属性スキル持ちの本家。僕の雷撃とは段違いのエナジーだ。

 まあ、でも初級魔法なら普通のシールド魔法で問題ないはずだよね。

 なんて思っていると。

『マスターだめです。あの女、何をトチ狂ったのか本気の魔法でマスターの実力を試すつもりです。シールド魔法ではちょっとした惨劇が起こってしまいます。なので魔力分解を提案します』

 えっ……まじか。

 ジェシカさんが僕ごときに本気に。

 なんか嬉しくなってきた。

 コーディネーターのアドバイスを受け僕は、シールド魔法から魔力分解に急遽変更した。

 慌ててジェスカさんの放つ雷撃に向かって手をかざす。

 すると雷雲ごとその雷撃は消滅した。


「「へっ……?」」


 魔力分解。

 コーディネーターに教えてもらった対魔法防御で、対象魔法の魔力を大気中に分散させることで魔法を無効化することができる。


「ね……ねえ、ティム……今何やったの?」

「魔力分解です!」

「あ……そう」


 ジェスカさんは遠い目をしていた。

 ていうか、コーディネーターの言う通りに魔力分解しなければ防ぎきれなかった。

 さすがスキル持ちだ。

 

 僕には聞こえないけどジェスカさんとギルド職員が何やら話している。

 僕の合否について相談しているのかな?


「……ジェスカさん今のって上級魔法の爆雷でしたよね」

「……うん」

「……消されちゃいましたね」

「……うん」

「……魔力分解ってなんなんですかね」

「……知らない」


 このあと、無事僕の合格が告げられた。

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