08話.[なんか悔しいな]
「今週は大変だった……」
「お疲れ様」
「なんか色々重なってな……」
お弁当もやられてしまいわないように量を増やしていたけど、ご飯だけでなんとかできるような疲れではなかったみたいだ。
最近は食事と入浴を終えたらすぐに部屋に、なんてパターンが多かったからそれこそ会話もまともにできていなかった。
それでもゼロというわけではなかったから寂しさはなかったものの、複雑な気持ちになってしまった回数もゼロとはならない。
で、休みになったからこそなのか休むために部屋に戻ってしまったという……。
「最近は少し前までより上手くできているよ」
そういうのもあって月曜に登校して大人しくしていると彼が急に教えてきた。
六達が上手く仲良くできているのも影響している、そして変わらないまま二月になろうとしているところだった。
「私達になにかが起きるよりもあんた達が付き合う方が早そうね」
「あー、それはありえるかもしれない」
「でしょ? あんたが大人しく認めるぐらいだから一生このままかしらね」
なんかもう別れるカップルみたいだった、求めることも話すこともなくなって時間だけが経過していく感じ。
いやでも疲れている状態のときに求めるなんてことはできないし、このままでいいということで終わらせよう。
「土日にちゃんと休んだらよくなったよ」
「それならよかったわ」
「だからこれからはちゃんとこっちの方も進めていかないとな」
で、終わらせようとすると向こうの方から話を出してくるといういつもの形となってしまった。
決してこちらから出したというわけでもないのに……。
「あのときだけなのかと思ったけど」
「そんなわけがあるか、適当にしていたわけではないぞ」
「そうなのね」
近すぎるからこそやりづらいことというのはある、いまから改めてなにをしていくのかと聞きたくなる。
絶対にこちらになにか動いてもらおうとするのはやめてもらいたかった。
「毎週どこかに出かけたいよな」
「でも、温泉のときと違って生徒に遭遇する可能性があるから危険よ」
「毎回遠出をするというのも現実的じゃない……よな」
「うん、お金が飛んでいってしまうわ」
車だって無限に走れるわけがない、必要になる度にガソリンを入れなければいけないわけだからドライブだけに限定したとしてもお金はかかるのだ。
「難しいな」
「そもそもこれからなにかをする必要ってあるの?」
「え、いやそれは……」
「結局、春生が受け入れるかどうかという話じゃなかったっけ?」
いやまあ春生が私のことを好きならという話だけど。
でも、それならちゃんと言ってくれればそれだけで変わるだろう。
だって私は既に彼次第だと伝えているわけだし、ずっと待っている状態だった。
「春生は私のことがそういう意味で好きなの?」
「俺は……」
そりゃ即答はできないか、できていたらこうして曖昧な状態で止まってはいない。
急かすつもりはないから床を掃いたりして過ごす、これが終わったらお風呂に入ってしまえばいい。
食事の時間を彼に合わせていても寝るまでに二時間くらい確保することができるから不満はない。
「純花」
「あ、もうちょっとで終わるから待って――春生は子どもね、少しも待てないなんて駄目じゃない」
「せめて好きだと言ってからにしてほしくてな」
「分かったわ」
両親に言わなくていいのかと聞こうとしたけどすぐにやめた。
お正月のときに二人で離れたときがあったからそのときに話したのだろうと勝手に決めてしまう。
あとはやはり私達次第だからというのもある、一方通行の恋愛ではないのなら母的にも文句はないはずだった。
「好きだ、付き合ってほしい」
「いいけど、教師なのに駄目ね」
「ちゃ、ちゃんとやるよ、切り替えはできるから迷惑をかけることはない」
「はは、それなら安心して側にいられるわね」
簡単に出かけることができないのはあれだけど、他の女性とかといちゃいちゃして家にすぐに帰ってこないなんて毎日が始まるよりは遥かにいい。
「学校ではこれからも近づかないようにするわ」
「おう、家まで我慢するよ」
「じゃ、掃除をやるから春生は先に入ってきなさい」
ただ、付き合えたら付き合えたで出てくる不安というやつがあった。
なにかをしてあげられるわけではないのと、多分、ほとんど一緒の毎日になるだけだから飽きられないか、ということだ。
これからもただ待っているだけではあっという間に終わりを迎えるだけかもしれないとは分かっていても、積極的すぎても自分が気持ちが悪くなってしまうわけで。
「温かいからすぐに入った方がいいぞ、あ、それと寝るときの話だけどさ」
「関係が変わっても別々の方がいいということよね」
「え、あ、純花がそうしたいならそうしよう……」
あのことを伝えなかったのに結局悲しそうな顔を見ることになってしまった。
「わ、分かったわよ、お風呂に入ってくるから部屋に行っててっ」
やはりこういう顔には弱い、すぐに意見を変えてしまう。
まあでも、こちらが無理やりそうしようとしているわけではないからその点だけは救いだった。
「うーん、健全」
二月になって二十日頃になってもただ一緒に寝るぐらいでなにもなかった。
これまでより会話が増えているだけで、むしろ少し前までの方がそれらしいことをしていたのかもしれない。
バレンタインデーだってチョコを渡してはい終わりだったからなあ、と。
「物足りなさそうだね」
「あんた達はどうなの?」
「一日一回、抱きしめる程度は普通だよね」
普通か、そんな普通があったらこうしてなんとも言えない気持ちにはなっていないのだけど。
「つかそうやってすぐに変えられるのなら私と過ごしていないで年内中に決めておけばよかったのに」
「それはそれあれはあれだよ、あと年内中に動いたからこそ抱きしめることができているわけでしょ?」
「屁理屈はいらないから」
難しい、付き合ってからはもっと難しい。
出かけることも成人と未成年ということでなにかをやることもできないなんてそれ付き合っている意味あるのと聞かれてしまいそうだ。
別に淫乱娘ということではないからキスの先とかを求めているわけではないけど、抱きしめる程度もなくなってしまうと彼女としては不安になってしまう。
「困っているみたいだね、ここは僕が動かなければならないところだね」
「うーん、六に動いてもらってもその日だけ変わるだけで終わりそう」
「でも、なにもないよりはいいでしょ? というわけで今日の放課後になったら純花の家に行かせてもらうからね」
彼女がいるのにそういうのはありなのだろうか……って、友達を連れて来ることぐらいあるか。
というかそういうのを利用して変えていくしかない、まだ一ヶ月も経過していないのにもうそういうところまで追い詰められているような気分になっていた。
「さ、ここで待ちますかね」
「なんで玄関?」
「彼女がいる身だからさ、ここならまだセーフかなって」
「気になるなら帰るか玄関前で過ごすに変えた方がいいわ」
「んー、それなら玄関前で過ごそうか」
温かい飲み物を飲みつつ待っていれば風邪を引いてしまうようなこともない。
とはいえ、十九時から二十時までと帰宅時間が確定しているわけではないから結構大変な戦いなのは確かなことだった――はずなのに、全く気にならなかった……。
なんか悔しいな、そしてその能力を持っていることを羨ましく思う。
「だ、誰かと思ったら純花と白間か、こんなところでなにをしているんだ?」
「なんでなにもしないんですか?」
直球すぎる、こういうところを見ると余計に何故という気持ちになる。
ふらふら遊んでいた理由はと、私に馬鹿みたいなことを言った理由はと全て聞きたくなってしまう。
「あ、それって純花にだろ? そんなの純花が大切だからに決まっているだろ」
「考えて行動できるのはいいことだと思いますけど、それでもなにもなさすぎれば不安になってしまうものなんですよ」
「け、経験者に言われると耳が痛いな……」
影響力も違う、どうすれば彼みたいになれたのだろうか。
「純花は強く求めています!」
「ちょっ、なんかそれだと私が変態みたいじゃない……」
「物足りない毎日に嫌気が差してそろそろ大爆発するかもしれません」
喧嘩みたいにならないことだけは分かる、何故なら私が直接なにかをぶつけることはないからだ。
またどうしようもない状態になったら仕方がないとかこのままでいいとかそうやって無理やり片付けようとするだけでしかない。
いいのかどうかは分からない、でも、ないことを期待して日々過ごしているよりは精神ダメージも少ないのではないだろうか。
「ちなみに純花が大爆発をしたらどうなると思う?」
「襲われるでしょうね」
「襲われるか」
「とにかく言いたいことはちゃんと全部言えたので帰ります」
これがよかったのかどうかも分からないけどお礼をしっかり忘れずに言った。
送るとも言ったけど今回も聞いてくれなかったから春生と一緒に家に入った。
「俺から手を出すのは問題になるけど純花が大爆発して襲ってきたのならいいんじゃないか?」
「は、はい? 私頼りで待とうとするのはやめてよ」
もう普通ライン以上に踏み込んできているのだからいまさら気にしても仕方がないというのに……。
「いやだってさ、キスとか求めたらやばいだろ?」
「付き合ってくれと頼んだ時点で普通ならアウトよ、ばれたら教師を首になるかどこかに飛ばされるでしょうね」
「そうか、ならいちいち気にしていても仕方がないか」
い、いや、だからって高頻度でされてもそれはそれでどうなのという感じだけど。
「それなら今週の土曜日でどうだ……?」
「まだ月曜日だから落ち着かない毎日になりそう」
「じゃ、じゃあご飯も食べて風呂に入った後とか?」
「まあ、それなら歯も磨いた状態だろうからいいんじゃない?」
いつするのが正解かなんて分からないから適当だった、でも、集中力低下状態に確実になってしまうよりはいい気がする。
「いまから作るから待っていてちょうだい」
「俺も手伝うよ」
「うん、お願いね」
ささっと作って、ささっと食べて、ささっとお風呂に入ってもらっている間に洗い物をして、ささっとこちらも入って、とりあえずそうやってしなければならないことを終わらせた。
となると、ここから戻ったタイミングで初めてすることになるわけで。
「よし、目を閉じていてちょうだい」
「え、す、純花からするのか?」
「当たり前じゃない、待つだけだと心臓に悪いもの」
瞬きのタイミングを狙ってしてしまう、あのまま話し合っても延々平行線になっていただろうからこれでいい。
「こんな感じなのね、ちなみに春生は何回目?」
「……これで二回目だな」
「学生時代に付き合っていたのね、どうして別れてしまったの?」
嘘をついているとも思えないし、メリットもないだろうからあれだけど、一回しかしていなかったとは思わなかった。
学生時代もあの子が怖いと言っていたように怖がられていたのだろうか? でも、教師になれているぐらいだから頭もよかっただろうにそれだけでこうなってしまうものなのかな。
「……友達に取られた」
「え? あ、それは嫌ね……」
一人を大事にしていても向こうが残ってくれるかどうかは運次第というところか。
それにしても友達に取られるって、あ、教師を目指していたからこそ勉強ばかりでデートとかをしていなかった可能性がある。
そりゃ付き合うだけ付き合ってなにもしてこないならどんどん不満も溜まっていくことだろう、で、そんなときにもっと積極的な人間が現れたらどうなるのかという話になっていく。
ま、ちゃんと別れてからならの話であって、付き合っている状態なのに浮気的なことをしていたのだとしたら駄目駄目だけど。
「あのときとまた同じようになるところだった、しかも生徒に言われて変えるなんてださいよな」
「ごめん、六のことをライバル視していたときもあったから積極的になるのを狙って頼んだのよ」
「情けなくて悪い」
「いいわよ、もうさっきのあれでなにもないことにはならないんだから」
あれだけで満足できたから集中力が低下するようなことはもうないだろう。
学校から家に帰るまでは繰り返しでもだからこそ家で彼といられるようになったときに嬉しさが益すというものだ。
「あの、さっきのだけで満足されても困るんだけど」
「少なくとも今日はもうしないわよ?」
「一ヶ月我慢とかさせないでください」
「あ、あのさ、頭を下げてまで言うようなことなの?」
それこそ家事なんかが終わったらぐーたらしている人間が相手なのに面白いことをする。
あれか、学生時代にできた彼女が完璧すぎて多少雑な人間でなければならなくなったのかもしれない。
「当たり前だろ、純花が俺のわがままを受け入れてくれたんだから」
「えぇ、それだって私が求めたからじゃない」
「違うよ」
じゃあわがまま同士でお似合いじゃない、なんて言えなかった。
駄目だ、願望も含まれているけどこういう話になると延々平行線になる。
「もう寝よ、明日も春生は仕事があるんだから休まなければ駄目よ」
「え、まだ二十一時前なんだけど……」
「まだ起きていたいなら起きていればいいわ、私はもう寝るから」
べっとりやらしいキスをしたというわけではないから汚れているとかでもないためこのまま寝ることができる。
うん、寝転んでみても急に恥ずかしくなるとかそういうこともなく朝までゆっくり寝られそうだった、そして寝て起きた。
隣を見てみると可愛い顔で春生が寝ていたからもう一回だけしてから家事をするために部屋から移動する。
「さむ……」
これからどんどん寒くなるから風邪には気をつけなければならない。
ただ、なんとなくこのままなら風邪を引かないかもしれないと謎の考えがあった。
朝に決まってお味噌汁を飲むからとか、一応いつでも手洗いなどは意識してしているからとか色々あるけど、一番の理由はやはり……。
「まあいいか」
風邪なんか引かない方がいいのだからいい方に考えておけばいい。
だからそういうことで片付けて春生が起きてくるまでの間にやらなければならないことを終わらせておくことにしたのだった。
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