第38話 新体制ライブに行くぞ!①
「なーおーやーくーん!朝ですよ〜!!」
「おはよ…って、侑梨さん?!」
朝、侑梨のモーニングコールで目が覚めた。
重い瞼をゆっくり開けると、添い寝の形で下着姿の侑梨が目の前にいた。
「そんなに驚いて、どうしたのですか?」
侑梨は悪戯顔をしながら微笑んできた。
俺は嘆息しつつ、上半身を起こした。侑梨も続けて上半身を起こしたのだが……目のやり場に困る。
両手で目元を隠しながら話を続けた。
「どうしたって… 自分の布団に女性が下着姿で添い寝していたら、誰だって驚くに決まっているだろ」
「ですが、この添い寝は二度目ですから、直矢くんには見慣れた光景ですよね?」
侑梨は首をこてんと傾けた。
「この状況は確かに二度目だけど、全然見慣れていないからね?」
「口ではそう言っても、手元は正直ですね」
「うっ…」
いつの間にか俺は両手の隙間から、侑梨の下着姿(主に胸部)を見ていた。
頭では分かっているのに、勝手に手が動いてしまう…何故なんだ!!
侑梨はくすりと笑った。
「そんな直矢くんに提案がありますよ!」
「嫌な予感がするけど、一応聞いてあげよう」
「私と一緒にお風呂に———」
「今の所は予定に無いので却下だ」
「直矢くんには欲望がないのですか? 私がこんなにも誘惑をしているのに、一度も手を出してくれないではありませんか!!」
侑梨はぐいっ、と顔を近づけてきた。
「それは…」
「もしかして、私よりも魅力的な女性を見つけてしまったのですか…」
「いや、侑梨よりも魅力的な女性はいないだろ」
「嬉しいです!!」
「うぉ…!?」
突然、侑梨が首に手を回して抱き付いてきた。
侑梨からいい匂いがする…じゃなくて、今日は出掛ける日なんだから起きないと!!
俺は侑梨の背中を軽く叩き、声を掛けた。
「そろそろ起きて準備を始めないと、お昼までに会場に間に合わなくなるよ?」
「そうですね! 今すぐに準備をしてきます!」
侑梨はベッドから立ち上がり、急いでリビングへと小走りに向かった。去り際の後ろ姿を、遠目に眺めていたことは秘密だ。
パジャマから私服に着替えた俺は、侑梨が待つリビングに向かっていた。廊下を歩いていると、味噌の香りが漂っていたので、添い寝する前に朝食の準備は終えていたのだろう。
「今日も美味しそうだな」
机の上には白飯と味噌汁、そして卵焼きが並べられていた。皆んなからしたら少ないと思われるかもしれないが、俺は朝食だけ少食なので丁度いい。
そして一つ気になるのは———卵焼きだ。
白飯と味噌汁は普段と変わらないのだが、
「なんで卵焼きの上に、ケチャップでハートマークが描いてあるの?!」
「愛情表現です!」
侑梨がガッツポーズをしながら答えてくれた。
「それは嬉しいけど、いきなりどうした?」
「メイド服を着る約束をしたのに、未だに果たせていないので…」
二週間前、『メイド服を見せてくれる』と侑梨が約束してくれた。だけど、未だに俺は侑梨のメイド服姿を見れていない。
「まあ、あれから忙しかったから仕方がないよ」
あのメイドカフェ事件の後、中間テストなどがあってバタバタとしていた。
「そうですね。 なので、今月中〜来月までの間に絶対にメイド服を着るので楽しみに待っていてくださいね!」
「大雑把な予定に聞こえてくるけど、メイド服を着た侑梨が見れるなら気長に待っているよ!」
ここまで来たら、一ヶ月でもニヶ月でもいくらでも待てる。ご褒美が侑梨のメイド服姿だからな!
「気長には待たせませんよ! ですが、忘れた頃にやるのも楽しそうですね!」
「それは嬉しいけど…俺は早めに見たいです!」
「ふふ…分かりました。 要望通り、早めに出来るように用意しますね!」
「ありがとうございます!!」
俺は侑梨に向けて会釈をした。
「それでは、朝食を食べましょう。 温かい食事が冷めてしまいますよ」
「だな」
俺たちは顔を見合わせ、食事の挨拶をした。
味噌汁、卵焼き、白飯と順番に食べていき、残りが半分くらいになったので、侑梨ともう一度スケジュールを確認することにした。
ちなみにスケジュールの確認とは、本日開催される"レグルス"の新体制ライブのことだ。
「会場にはお昼頃に着けばいいんだよね?」
「はい。そこでマネージャーと落ち合い、関係者専用入り口から会場内に入り、お二人がいる楽屋に行きます」
「一応聞くけど、俺も関係者専用入り口から入って大丈夫だよね?」
侑梨は元レグルスのメンバーなので、関係者専用口から会場内に入っても違和感はない。だが、俺はほぼ一般人だ。関係者の許嫁でも入れない可能性は大いにある。
侑梨は優しく微笑んだ。
「もちろんです! 直矢くんも“レグルス“に招待された関係者の一人ですから!」
俺の取り越し苦労だったようだ。
「よかった… これで俺だけ入れなかったら、時間まで一人で彷徨う所だったよ」
「直矢くんを彷徨わせることは絶対にさせません! 何があっても、私が連れて行きますから!」
「ありがとう」
数十分前の侑梨と打って変わり、今の侑梨はとても頼もしく見えた。
それから朝食と食器の片付けまで終えた俺と侑梨は、外出の時間まで身支度を整えた。
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