第24話 大浪さんに逆らえない男2人

 翌日の朝8時過ぎ。俺は自席の背もたれに寄り掛かりながら、右手でスマホを左手でペアチャームの片割れを触っていた。

 呆然としながらホームルームの時間になるのを待っていると、侑梨からメールが来た。


『チャームと共に無事に学校に着きましたか?』


 過保護な保護者かと言いたくなるような文章に、俺は微笑しながら侑梨に返信した。


『何事もなく無事に着いたよ。ペアチャームの片割れもちゃんとあるよ』

『よかったです!私は朝からクラスの子たちにチャームのことを根掘り葉掘り聞かれました…恥ずかしかったです』


 よっぽど恥ずかしかったのか、目を手で隠しながら照れているスタンプが続けて送られてきた。


『それは大変だったね。俺の方は和樹たちがまだ来ていないから何もないけど来た時が怖いな(笑)』

『うふふ。和樹さんより美唯さんの方が怖そうですね!』

『確かに(笑)大浪さんは知ってるのに揶揄ってきそうだし』


 と送った瞬間に肩をトントンと叩かれ後ろを振り向くと、ニヤニヤしながら俺のスマホ画面を見ている大浪さんがいた。


「誰が揶揄ってくるのかな〜」

「いや…その…大浪さんいつからいたのかな?」

「メッセ画面で言うと、直矢くんが揶揄ってきそうと書いた所だね」

「今来たところだったのですね」

「そうだよ。それより侑梨ちゃんに返信しないの?」


 大浪さんに言われて俺は視線を画面に戻した。


『美唯さんの揶揄いには気をつけてくださいね!』


 侑梨…俺はもうご本人に捕まってしまったよ。

 大浪さんの笑顔が怖いよ。

 まともに返信出来ないので俺は一言、「ありがとう」とだけ送った。

 それから侑梨は友人と話をするらしく、ここでメールのやりとりは終わった。


「それで直矢くん。このキラキラ輝いているチャームは何かな〜?」


 俺は視線を大浪さんの方に向けた。


「これは大浪さんも知っている侑梨からのプレゼントですよ。侑梨からデートの日のことを聞いていますからね」

「なーんだ。それじゃあ、これも知っているってことだね?」


 そう言うと、大浪さんは鞄から手帳を取り出して裏表紙を見せてきた。そこには彼女と侑梨が可愛くポーズをしているプリクラ写真が入ってあった。


「もちろん。侑梨が嬉しそうに見せてくれたからな」

「侑梨ちゃん…デートの時は嬉しそうな顔をしなかったのに、直矢くんの前ではそんなことを…美唯ちゃんは感激です」


 大浪さんの一人称って"私"だったはずでは…?

 そんなことを思いながら、俺は大浪さんにその時のことを聞くことにした。


「侑梨は嬉しそうな顔になることは少なかったのか?」

「そんなことはありませんよ。直矢くんの話をしている時は常に満面の笑顔でしたから」


 女子デートで俺の話が出るってどうゆうことだよ…余計に気になるけど、なんか恥ずかしくなりそうだから遠慮しとこう。


 そして俺が口を開こうとした時、大浪さんが、「特に」と言葉を続けた。


「そのペアチャームを見せてもらった時と直矢くんと次の機会にプリクラを撮る時に落書きのアドバイスをした時は可愛かったな〜」


 大浪さんは虚空を眺めながら、その時のことを思い出していた。


「そ、そうなんだ。落書きのアドバイスはどんなことを言ったの?」

「………っん?そんなの秘密に決まってるじゃん!侑梨ちゃんがやってくれるのを待つこと!」

「はい…」


 大浪さんの圧力に負けて渋々返事をした。

 

「直矢…美唯…おはよう。はぁ…はぁ…」


 そこへ息を切らして和樹がやって来た。

 時刻は8時33分。遅刻ギリギリだった。


「和樹遅いよ。もう少し早く来れば面白いことがあったのに」

「面白いこと?なにそれ。気になるんだが」

「だーめ!これは私と侑梨ちゃんと直矢くんだけの秘密になったから!」

「マジか。直矢、教えてくれるよな?」

「それは———むぎゅっ」


 大浪さんに頬を摘まれて変な声が出た。


「———直矢くん。教えたらダメだよ。遅刻ギリギリの和樹への罰なんだから!」


 大浪さんは空いた方の人差し指で俺の眉間に軽くタッチしてきた。

 俺は大浪さんの言葉通り何も言わないと頷くと、彼女はニコッとしてから手を離した。


「と言う訳だ。和樹、俺は何も言えない」

「分かってる。俺も直也に迷惑かけたくないから、これは諦めることにするよ」


 そう言って和樹は自席へ行き、大浪さんも手を振って戻っていった。

 そのタイミングで担任もやって来て、ホームルームが始まった。

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