人気絶頂中だったアイドルが卒業したのは、どうやら俺が原因らしい

夕霧蒼

第1話 推しアイドル卒業

「な… なんだと!!??」


 3月31日の昼頃、SNSアカウントにとんでもないニュースが飛び込んできた。


【人気絶頂中のアイドルグループ 《レグルス》の芹澤侑梨ゆりが卒業を発表】


 俺———斑鳩直矢いかるがなおやはこのアイドルグループのセンターを務める芹澤侑梨の大ファンなのだ。


 受験が終わり、高校までの準備期間の時に不意に見た動画に目を惹かれて一瞬でファンになった。


 それから何度もライブや握手会、トークイベントなど参加したが、高校に入ってからは一人暮らしをすることになり回数は減った。


 一人暮らしをすることになったのは、父親が海外勤務になり母親が着いていくと言うありきたりな話だ。それで一人暮らしは心配だからと、セキュリティーが強いマンションに住んでいる。

 最初は慣れないことだらけだったけど、一年も経てば得意になっていた。


 そんなことよりも、いまは卒業の話だ。


「どうして卒業なんだ。人気絶頂中なんだからこれからって言うのに… 」


 俺はニュースのページを開き、一つずつ丁寧に文章を読んでいく。

 そして特筆して目立つ文章があった。


【卒業する理由は恋愛をするためだった】


 頭が真っ白になった。

 推しのアイドルが卒業するだけでもショックなのに、卒業理由が恋愛———つまり恋をするため。


 ファンにとっては怒りを通り越して呆れられるレベルの理由だった。


「ははは… 俺の青春が終わった」


 全身の力が抜けて、俺はベッドに横になった。

 

「…………そうだ。他のメンバーは何て言っているんだ?」


 芹澤侑梨はアイドルグループだ。

 他のメンバーに相談をせずに卒業するなんてありえない。反対する者はいなかったのか?


 色々と気になり、俺は体をうつ伏せにしてからスマホでもう一度記事を読む。


 予想通り、他のメンバー二人もコメントを出していた。


『上条寧々は恋っていいですよね!私は侑梨ちゃんの恋を応援したいですね!蒼井紗香は特に言い争うことはなかった。私は侑梨の意思を尊重したいと言っていた』


 二人とも芹澤侑梨の卒業に反対はしていなかった。寧ろ、応援していた。


 そして事務所も好意的な文章を出していた。


「マジか… 事務所まで賛成だったら、誰も止めることはないじゃん」


 完全に打ち止めである。

 芹澤侑梨の卒業を止めるものは誰もおらず、彼女もまた新しいことに目を向けている。


「推しの卒業… つまり推しグッズは封印か… 」


 推しグッズの封印とは、好きだった推しが卒業したあとに熱愛報道や結婚報道が出た時にやる行為。


 今回の場合は、芹澤侑梨がはっきりと『恋愛するために卒業』と言っているので問答無用で封印だ。


 俺は部屋の中にある彼女のグッズを一つずつ見ていく。


 本棚にはアクリルスタンド。

 壁には数枚のポスター。

 学習机には団扇やペンライト。

 クローゼットには普通の服の他にライブ用の服。


 これらを全て封印することにした。


「まずは箱が必要だな。段ボールでも貰いにいくか」


 自宅から5分のところにあるスーパーから段ボールを一つ貰い、家に着いたら箱を組み立てていく。


 その中にアクリルスタンド、団扇、ペンライト、ライブ用の服を綺麗にしまった。

 ポスターは綺麗に丸めてクローゼットの横に立て掛けることにした。


「ポスターはぞんざいには扱えないから、例外でここに置くことにしよう」


 それ以外をまとめた段ボールを持ち、一年間使っていなかった部屋に置いた。

 この部屋は両親が海外に行く前に、『この部屋はあまり荷物を置かないでくれ』と言われたからだ。


 ……まぁ、段ボール一つくらいなら大丈夫だろ。


 そんなことを思いながら、自室には戻らずに昼食の準備に取り掛かった。


XXX


 あっという間に夜になった。

 俺はベッドでうつ伏せになりながら、アイドルグループ 《レグルス》の動画を見ていた。


 推しグッズは封印したものの、最後に彼女たちの歌を聴きたくなりタブレットを開いてしまった。


『—————————♪』


 何度聞いても彼女たちの曲は心に沁みるな。

 

 ……侑梨ちゃんが卒業する前に、もう一度会いたかったな。


 だけど、その願いはもう叶わない。

 後悔先に立たずとはよく言ったものだ。


「さてと、そろそろ寝るとするか」


 時計を見ると既に時計の針は頂点を指している。

 始業式まであと数日あるが、荷物などは全て準備万端だったので気にすることなく寝ることができる。


 俺は部屋の電気を消して、ベッドに入った。


XXX


 始業式の朝。

 目が覚めると、ベッドで寝ている俺の隣に女の子(下着姿)がいた。


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