第6話 興奮してしまいます
あぁ、今までこれほどワクワクした事はあっただろうか。
私の日常はお母様の言いつけを守ったおかげで確かに平穏ではあったのだが、常に息苦しいような感覚だった。
しかし今の私はまるで水を得た魚のような感覚である。
頭のてっぺんから足のつま先まで満遍なく酸素が行き渡っていくのが分かる。
そして私は掃除の時間から未来のご主人様である犬飼様が帰ってくるのを見て誰にもバレないようにそっとラブレターを机の上に置くのであった。
◆
「ひ、氷室麗華さんっ!?」
正直言って一番あり得ないと思っていた人が校舎裏で待っているのを、見て俺は思わず声に出して驚いてしまう。
あり得ない。 何かの間違い。 だと思うものの先ほど氷室麗華さんは俺に向かって『遅かったですね』と言っていたので、間違いなく氷室麗華さんの待ち人は俺であり、そして俺の机の上に置いたラブレターの主は氷室麗華さんであるという事である。
「はい、私は氷室麗華ですけれども……私が校舎裏にいる事がそれほど驚いてしまうほどあり得ない事かしら?」
「いや、だってあの氷室麗華さんですよ? 学校一、いや全国の同年代の中で一番の美人だと噂されるほどの人がなんで俺なんかを……」
「あら、犬飼君はお世辞が上手なんですね。 そんなに褒められると嬉しすぎてうれション──んんっ! ……嬉しくて興奮してしまいます」
そしてその噂の美少女は俺から言われた言葉の内容がよほど嬉しいのか目の前で顔を赤く染めながら照れているではないか。
これは夢なのだろうか? きっとそうに違いない。
「犬飼君? なんでほっぺたをつねっているのかしら?」
「いや、夢かなって。 うん、痛いね。 夢じゃないね。 おかしいね」
「まったく、犬飼君のほっぺたが赤くなっているじゃないの。 かわいそうに……」
「大丈夫っ!! 大丈夫だから触ろうとしなくていいですからっ!!」
「あらそう? それは残念ね……」
自分でつねった頬が赤くなっていたらしく氷室さんが心配そうに俺の頬を触ってこようとするので触らなくても大丈夫だと言って阻止する。
「それで、この手紙はなんなんですか? 氷室さん。 悪戯か何かですか?」
そしてなぜ氷室麗華さんが俺をラブレターに偽装して校舎裏まで呼んだのか聞いてみと共に『なにを企んでいるのかわからないが、そう簡単には騙されませんよ』と牽制の意味も込めて氷室麗華さんへ問う。
「あ、そうでしたね。 こうして二人っきりになるのが嬉しすぎて舞い上がってしまったわ。 それはそうと犬飼君。 あなたは今ペットは欲しくないかしら?」
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