お前のものは俺のもの-5

 その日以降、僕の前に座る大和は外を見つめる事をやめたんだ。


 気付けば僕のメガネを掛けながら、しっかりと授業に挑んでいる。


 その横で、駿はいつも通り居眠りなんかこいちゃって…だから僕は、メモ用紙をちっちゃく丸め、駿の頭にシュートを決めてやった。


「はいっ?!おはようございまぁす!!?」


 頭に当たったメモ帳に驚き、目を覚ます駿に先生も「水上っ!うるさいぞ!」なんて叱責する…いつもの事なので、みんなにも笑われる駿…僕、ナイスシュ〜トっ!♪


 駿は僕の方を見つめ、お前だなっ?!みたいな顔で睨みを利かせてきたけれど、言ったじゃん、僕の隣にいたら寝られないって!


 あははと笑う周りのクラスメイトとは裏腹に、振り向いた大和の表情は、どこか羨ましそうみたいな表情に見えてしまったのは…僕だけ…?


 そして、お昼ご飯の購買戦争は、やっぱり苦手だ…僕…大和にいちごオレを買った時、ほんとに無我夢中だったんだなっと今になって思うよ。


 今日も駿が僕のために、いちごオレと鶏の照り焼きパンを手に入れてくれた。


 いつも申し訳ないなぁ…そんな事を思ったけれど、駿は自分のも買うからいいんだよって微笑んでくれるんだ。


 心強い僕の親友…こんな風に強くなれたらいいのにな…でも、それは叶わぬ願いだ…僕はΩだから…


「ねぇ駿、今日は教室で食べよっ!」


「ん?なんでだ?」


「駿と大和と一緒に食べたいんだっ♪」


「ええっ?!俺も山際と…?!」


「い、嫌だ…??」


 僕と大和は友達になったけれど、駿は大和とろくに話もしたことが無い…いや、大和は僕以外のクラスメイトとも会話なんてしたことが無い…


 駿がどんな風に大和のことを捉えているかは分からない…それでも僕は、自分の親友には自分の友達と仲良くして欲しい…3人でこれからも仲良く出来たらいいな…


 そんな気持ちが強く滲み出てしまっていのかもしれない。


「い、嫌じゃないけど…」


「なら決まりだっ!駿、行こっ!」


 僕はまた、駿の手を握りしめ教室へと急ぎ戻って行ったんだ。


 ◇ ◇


 教室に戻ると大和は、いつも通り席に座っている…大和…お昼ご飯、何も持ってきてないのかな?いっつも食べてる姿を見たことがない…


 僕と駿は自分の席に着き、僕は大和にひと声掛けた。


「大和っ!一緒にご飯食べよっ!」


「うん?俺とか?」


「大和は、きみ以外いないでしょ…それと、駿も一緒に!!」


 僕は大和に、改めて駿を紹介したんだ。


 大和の反応も気になるところだったけど、なんやかんやで2人とも「よろしくな」と声を掛け合っていて、僕は少しほっとしたんだ。


 その後、僕は、ストローの刺さったいちごオレと鳥の照り焼きパンを口へと運んでいく。

 駿も焼きそばパンを頬張っていたけれど、大和はやっぱり何も食べていない…


「ねぇねぇ、大和は、お昼ご飯食べないの?」


 駿も僕の言葉に合わせて「山際、いつもなんも食ってねぇよな」と実は気になっていたようだった。


「俺、昔からお昼ご飯ってあんま食べてなかったんだよな…そんなお腹も空かないし」


「まじか…俺なんかこの焼きそばパンを食っても腹減ってんのに…」


「駿は、バスケ部で身体も動かすからお腹空くんじゃない?」


 そうか〜!そりゃそうかもしれねぇな!とガハハと笑う駿に、大和もふふっと笑みが零れる…


 うん…!いい感じだ!

 このまま、駿も大和も距離を縮めて仲良くなってくれたら僕も嬉しい…!


 そんな事を思っていたその時だった。

 大和が徐に、僕のいちごオレを手に取り…


「でもな?腹は減らなくても喉は乾く、お前のものは俺のものだから…」


 そう言い残し、大和は僕が使ったストローにそっと口を付け…いちごオレを喉へと通して行ったんだ…


「うん、やっぱ裕翔の大好物はうまいな、ほらお前も飲めよ」


 …えっ…?

 ええええっ?!

 こ、これぞ正しく俗に言う…

 か、関節キスってやつ…?!


 こんな経験をしたことが無い僕は、次のアクションをどうしていいのか分からなかった…


 しゅ、しゅ〜んっ!この後、どうしたらいいの?!僕は咄嗟に駿に目を向け、助けの眼差しを送ってみたんだ。


「まぁあれだろ、俺のものってのは、よう分からんが、友達同士で回し飲みとかぐらいはやるだろ?俺も部活中、飲み物足りんやつに分けてやることあるもんな」


 あ…そうなんだ…

 ぼ、僕の考えすぎなのかな…?


 駿にそう言われ、僕の気持ちは少しホッとし…大和が口付けたストローに口を付けた。


 そんないちごオレは、何だかいつもよりも甘く感じてしまったんだ…

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