お前のものは俺のもの-3

 僕はとうとう、彼に伝えたかった一言を、力強く届けられたんだ。


 1人になんかしたくない…

 僕が君の友達でありたい…

 一緒に笑顔で卒業したい…


 その思いでここまで来たんだもん…!


 ただ、僕の気持ちに山際くんはどのような返答をくれるのだろうか…


 そんな不安を感じながらも山際くんは…頬を少し紅潮さながら、僕にある条件を与えてきたんだ…


「…お前の気持ちはよく分かった…俺もお前と友達になりたい…でもな、お前が俺と友達になりたいのなら、一つだけ条件がある…」


「…う、うん…?じょ、条件…?」


「ああ………今日からお前のものは、俺のもの…いいか?それが俺と友達になる条件だ」


 …ん…っ?はいっ?!

 君は何を仰ってるんですか…?


 友達になりたい…そう思っていたけれど、山際くんが何を意図して、そんな事を僕に伝えてきたのか、僕には全く分からなかったんだ…


「ね、ねぇ…ど、どういう…」


「嫌なら友達じゃなくてもいい」


 はぁ…なんだよ、その条件…


 でもここまで来て、僕も引き下がるなんてしたくなかった…いいよ、その条件とやら…飲んでやろうじゃないか…!


 そうしたら、君はもう1人じゃないだろ…?


 僕は山際くんの要望を、彼からの挑戦状のように捉え、受け入れることにしたんだ。


「わ、わかったよ!さぁ、ど〜んっとこい!」


「ふふ…やっぱお前、良い奴だな…じゃあ早速…」


 ゴクッ…


 ぼ、僕だって条件を飲んだとしても、どんな要望が来るかなんて分からないし、正直怖かった…


 でも…それでも山際くんがこんなに楽しく話してくれてくれている事が、僕は嬉しくてたまらない…


「…お前がかけてる、その黒縁メガネ…俺に渡してくれ」


 …はっ?

 えっ…ん?!こ、これ?!


 なんだか、もっと酷いお願いが来るんじゃないかと構えていたのに…ぼ、僕の…め、メガネが欲しいの…?


 僕は山際くんが何を求めているのか、やっぱり分からない…


 それでも僕は、そっとメガネに手をやり、彼に向かって外して見せた。


 そして、そのまま彼にメガネを奪い取られてしまったんだ…


「…メガネ外しても俺の顔、見えるか?」


「…うん、ちゃんと見えてるよ?」


 それなら良かったとニコッと笑う彼は、僕からメガネを奪い取ったくせに、どこか頬を赤くしている…


 一体…何がなんなんだか…


 そのまま山際くんは、僕から奪い取ったメガネを自分の顔へと掛けて、おおお〜!っと満更でも無い笑みを浮かべていたんだ。


「…ねぇ、逆に僕のメガネなんか掛けて、ちゃんと見えてるの?」


「…ああ、お前の顔、すげぇ綺麗に見えてるよ?」


「…や、山際くん…!!」


「…ふふっ!大和でいいよ」


 な、なんだよ…僕、なんでこんなにドキッとしちゃったんだよ…


 し、しかも…や、大和って呼んでいいの…?


 何もかもが急に…そして綺麗に整い始めて、僕の気持ちは、少し整理が必要だったのかもしれない…


 でも、大和と呼んでいいと言われたことが、何よりも嬉しかった事は確かだ。


「…や、大和くん…?」


「同い年なんだから、くんもいらない」


「…や、大和?」


「ん?なんだ?」


「僕のことも…裕翔って呼んでくれる…?」


 そうだ、僕が彼のことを名前で呼ぶなら、彼にだって僕のことを名前で呼んで欲しい…そんな僕の願いを彼はすぐに叶えてくれたんだ…


「ああ、もちろんだ…裕翔…?これからもよろしく頼むな…?」


 やっぱり頬を少し赤らめる大和…

 それに連られて、僕の頬まで赤くなった…


 それでも僕は、とにかく嬉しかった…彼の中で僕はとうとう、友達になったんだ…!


 それと同時に、やっと一緒にスタートラインへ立つことが出来た気がしたんだ…


 僕は大和のお願いに「うん、もちろん!」と笑顔で返答し、初めてお互いの笑顔を見せ合うことが出来たんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る