振り向かせたい、その背中-3

 焼きそばパンを食べ終わり、僕たちはクラスに戻ることにした。


 戻ってみると、山際くんはいつも通り席に座っている…そういえば山際くん、ご飯食べたの…??


 変わらず外を見つめては、誰も周りに引き寄せようとしないし、ご飯を食べたであろう痕跡もない…


 そうだ…ここ数日、彼を観察していたけれど、お昼時間も彼がここから動いた事を僕は見た事がない…


 僕は心配になってしまった…

 さすがにこの後、授業も続くのに食事摂らないと…そんな勝手な思いで、僕は駿に一声かけて、購買へと足を向けた。


 ……あっ!残ってる……!


 購買に残っていたのは、パクッと食べられる栄養クッキーだ。


 これなら今からでもすぐに食べられるだろう…!そう僕は考え、徐に1つ購入しクラスへと駆け戻ったんだ。


 クラスに戻り、すぐさま僕は山際くんの元へ向い「山際くん、良かったらこれ食べて?」と僕はそっと…彼の机に置いてあげたんだ…


 その時だ…彼の目線が外から、その栄養クッキーに向けられたんだ…!


 これは…!好感触…?!!


 そんな僕の気持ちとは裏腹に…またすぐに目線は外へと向けられてしまった…


 ちぇっ…もうちょいだったのに…!


 僕はちょっとムスッとしてしまったけれど、目線だけでも僕の物に向けてくれた事の方が断然、嬉しかったんだ。


「置いておくね?」


 その言葉だけを残し、僕は自分の席へと戻って行った。


 その一部始終を周りのみんなも見ているわけで…やっぱり周りにいい印象なんて与えられてないな…


 そんな風にも感じたけれど、僕は諦めない、絶対に…と心に何度も言い聞かせたんだ。


 ◇ ◇


 その日の放課後

 今日は教室の掃除当番で、僕は黙々と掃き掃除をしていた。


 山際くんは、もう帰ったようだし、駿も最後のインターハイに向けて、意気込んでバスケ部へ行ってしまった。


 周りの掃除も終わり、残りの仕事はゴミを焼却炉まで持っていくだけだ。


 今日の掃除当番は僕以外、女の子だったから、見栄なんか張って「ゴミは僕が持っていくから大丈夫だよ!」とみんなに笑顔で告げ


 そんな僕の言葉にみんなも、ありがとう!と僕に一言残して、先に帰って行ったんだ。


 さて、ゴミを捨てたら僕も帰ろう…!


 ゴミ箱の袋を取り出し、縛ろうとしたその時…僕は袋の中に入っていたある物に目が止まり、その瞬間…鼓動が一気に昂ったんだ…


「こ、これって…!!」


 そう、そこに入っていたのは、僕が山際くんにあげた栄養クッキーの空き箱だ…


 中身も開けられて、捨てられていたんだ…

 ちゃんと、食べてくれたんだ…


 まだ彼と喋ったこともないのに、あんなにツンケンしてくるくせに、僕があげたものを彼は口にしてくれた…


 たったそれだけの行為が、今の僕には嬉しくて嬉しくてたまらなかったんだ。


 少しずつでも、きっと思いは届く…!


 僕はそう信じながら、ゴミ袋をまとめて焼却炉へと向かって行ったんだ。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る